第35話・見てしまった指輪
あの後、騎士団にお願いし、埋葬を彼ら彼女らは快く引き受けてくれた。
人の生き死は呆気ないものだ。勝手に戦って勝手に死んでいく。自分の信念だけで死地へ向かう。彼女は騎士団に昼のうちに火葬されるらしい。名のある騎士だったのだろう手厚い弔いだった。
そして一騎討ちによる殺傷は不問であり。それよりも門番だった騎士や色々な騎士から決闘の内容を教えてほしいと言われた。嘘なく伝えたら御礼を言われ困惑したものだ。
騎士とは本当にわからぬ物だ。何故、そこまで死にこだわる変な生き方をする。そして、勇者は聞かれた騎士に答えるのだった。
自分の好敵手は後にも先にも彼女だけだろうと。それを聞いた騎士たちは敬礼を返すのだった。
私の知らない世界だった。そして私は情けないことにそれに嫉妬する。彼女の行いで勇者の心にしっかりと彼女が刻まれてしまったと言うことを考えてしまったから。浅ましい気持ちだと思う。
そうして説明義務を果たしたのは騎士団に解放されたのはその日の日が完全に落ちた時間だった。そして……夜は寝付けはあまりよろしくなかった。
*
次の日、勇者が私に声をかける。
「行きたい所がある」
そう言って私の手を取り連れて来られた場所は教会だった。確かに最近は嘘でも祝詞を唱えたりの練習はしていたが偽物信仰者なので足など踏み入れた事がない場所だ。でも、外見は綺麗だと感想が出るぶんには信仰深いかもしれない。
「珍しく……あるから、久し振りに見ようと思ってな」
「わ、わかった。ついていく」
勇者が教会を説明してくれる。この都市は珍しく立派な教会があり、ここの騎士団たちは死の恐れを取り払うために神を信仰しているらしい。騎士団が昨日、祈りを亡くなった彼女に捧げていたのを思い出す。
中に入り、見回して変なものに目が止まる。小さな箱に扉が二つの変な物。あれは何かを問う。
「懺悔の部屋。片方に聖職者が入って片方に懺悔を聞いてほしい人が入るんだ」
「そうか………」
「なんか懺悔したいことでも?」
「ない、かな。彼女のことは彼女が納得している結果だった筈だから。勇者は?」
彼女とはネフィアの事である。ネファリウスではない。
「ない。懺悔はない」
勇者が言い切る。強い言い方にまるで言い聞かせているような気がした。自分はそれ以上追求せず。木の長い椅子に二人で座る。
「元魔王がこんなところに来るとは………」
「俺もこんなところに来るとは思わなかった」
「お前が誘ったのに?」
「もう、二度と神の前に来るとは思わなかっただけさ。決別してるんだ一応な………もう声も聞こえない」
「…………私が祝詞を覚えているのに。人間のお前がそれでいいのかなぁ?」
「さぁ~どうだろうな」
ステンドガラスに太陽の光が差し込み。教会を照らす。女神なのだろう像が輝いているように見える。俗世とは違った雰囲気。神聖と言う言葉を思い出す空間だった。
「綺麗な教会、本当に………」
誰もいないのが寂しいが静かでいい場所だ。魔族の私は不相応なのだろうが心の底からそう思う。隣を見れば、彼もいる。
「ここは信仰深いからな。帝国にもあるが。ここまで手入れが行き届いていないと思うぞ。記憶では帝国民はまったく興味なかったからな教会なんて………今も」
「………何で来た? 私の方が楽しんでるではないか?」
「いや、まぁもしかしたらとか。ええっと。何でもない」
変な奴だ。隠し事が下手くそだ。でも、私は微笑んでいる。やっぱり信仰深いらしい。
「………人間はこんな綺麗な所で愛を誓うのだな」
「そ、そうだな」
自分は童話を思い出す。どの童話でも姫に愛を誓う場所は教会だった。綺麗な純白のウェディングドレスを来た女性に騎士が手を差しのべ。神の前で愛を誓い、結婚指輪を贈る。
昔はただの儀礼だと思っていた。でも今ならわかる気がする。こんな綺麗な場所で愛を誓うなんて、きっと最上の幸せをなのだろう。妄想する。自分の晴れ姿を。そして。お相手を。
「………ふふ」
妄想だけなら。許してくれるでしょう。絶対、有り得ない夢だ。夢魔はそれを他人にも見せれる。
「ご機嫌だな」
「ええ、幸せです」
「ご機嫌だな」と言う夢の中の彼に声を出し微笑んであげる。言い声だった。
「な!?」
「どうしましたか?」
「な、なんでもない…………」
勇者が視線をそらし、天井を仰ぐ。そして、また私を真っ直ぐ目を見る。
「顔を下げて………目を閉じてくれないか?」
「ん? なんでしょう?」
「『いい』と言うまで頼む」
真摯に見つめる彼に私は頷いた。「なんだろうか?」と思ったがそのまま目を閉じる。
「………どうぞ」
目を閉じて、下を向いたまま音を聞く。勇者がごそごそと音を立てて何かをしている。
音がやむと勇者の息遣いが聞こえて胸が高鳴る。「なんだろうか?」と気になる。そしてほんの少しの時間がすぎる。勇者の合図はない。長い。
「………」
私は、気になり何も考えず薄目で様子を伺った。座っている勇者の手に小さな箱があり輝くものを見る。
そう、綺麗な赤い宝石の指輪が輝いていた。
私は慌てて目を瞑り直し、今さっきの見た物を考える。綺麗な赤い宝石の指輪。童話を思い出す。赤い宝石はガーネットだろう。夫婦がする結婚指輪か婚約指輪によく似ていた。
「何故? 勇者がここで? 一体誰に?」と考えて胸がはち切れるかのように高鳴る。心音勇が者に聞かれるのではないかと思うほどに音を出す。「もしかして、私にくれるの? あなたの愛を?」と期待する声が胸から聞こえる。
「ネフィア、もういいぞ。すまない、何でもないんだ………」
「あっ………そう……なの?………へ、へんなの」
「ごめん。俺、ちょっと教会の外で風を感じてくる」
「わかった………」
勇者が立ち上がって教会を出た。私は彼の背を眺め続ける事しか出来ない。
「…………」
彼が去った瞬間、自分の体を強く抱き締めた。強く強く。爪を立て。痛く痛く。抱き締める。軽い気持ちで見てしまった事を後悔する。見なければ良かったと「自分」は「余」は「私」は「まとめて」自分を呪うのだった。
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