20,オトモダチ作戦

 先日の繁華街での人頭爆破事件から一週間ほどが経った。

 ファメラは毎晩のようにサクラの部屋を訪れ、デートをしたり朝が来るまで部屋でゲームしたりして遊んでいた。

 そんな或る晩のこと。


「ぎゃはははははははは!! わはッ!! わはははははははははははッ!!!」


 ファメラが大声で笑っていた。隣にうずくまるベータの頭を何度もペチペチ叩く。ベータはそれが嫌なのか、のそりと首を持ち上げてサクラの傍に移動した。最近はサクラの傍がベータのお気に入りだ。


「そっ、そんなに笑わなくてもいいでしょ!? 私もう少しで死んでたんだからね!?」


 そんなファメラの真珠色の頭をぽかぽか叩く。


「いや~~~~~~~~~~??? だあってええええ!!! 『……そういえばガブさんって、お友達とかいるんですか? 好きな人とか……』ってサクラちゃんがいつものドッアホ面で声かけたらガブがブチ切れて『死ね!!!』って怒鳴って、そんで部屋の入口から外に蹴り出されちゃったんでしょ!? そしたら首の爆弾がパァン! だってぐっぎゃはははははははははははは!!!!」


 所々サクラやガブの仕草付きの物真似をしながら言う。

 しかも微妙に似てるのが腹立たしく、サクラは小さな頬をムウと膨らませて不貞腐れた。


「ほっ、ホントに痛かったんだから……!? 気絶してる間にここの人たちに治療してもらえなかったら、きっと今頃私死んでたし……!」


 サクラが片手でうなじを擦りながら言った。当然そこに傷などは無く、首輪も元通り付けられている。以前はどうして傷が治っているのかと不思議に思っていたが、セレマの力を見た以上は疑問を感じなくなっていた。サクラはただ、ここの人たちの科学力はすごいと思うだけだ。


「はひひッ! あっそ。まあでも実際ガブって友達いないんじゃね? キツい性格みたいだしさ。仮に好きな人居ても素直にコクれなさそうだから、クリティカルな質問だったんじゃないかな。いや~サクラちゃんも意外とエッグいこと聞くね? ドSなサクラちゃんとかあたし超~好み♪」

「……そんな事言われても……!」


 えっ、エグい事聞いちゃったのかな……?仲良くしたかっただけなのに……!

 思ってサクラは肩を落とす。


「あー、んで? ALOFの連中と仲良くしたいんだっけー」


 ファメラがどこから取り出したのか解らない謎の青いアイスキャンデーを舌先にピトピト張り付けて言った。「サクラちゃんも物好きだねー」如何にも気が乗らなさそうである。


「うん。私、ファメラのおかげで今とっても幸せ。でもそれは夜だけの話で……昼はやっぱりイジメられたり無視されたりしちゃってるの。このままじゃ私不安で……」


 サクラにはどうしても仲良くなりたい事情があった。この所は拷問を受けずに済んでいるものの、いつまた以前のように十字架に磔にされたり、ドリルで体中を穿られるか解らない。こうして毎晩のようにファメラと密会している事だってバレれば一巻の終わりだろう。できる事ならALOFの兵士たちとも仲良くなって、万事穏便に解決したい。

 どうしてか、未だに彼らは自分を許してはくれない。


「ふむふむ」


 ファメラは頷きながら、ベータの背中を撫でた。ベータはドローンのくせに背中を撫でられるのが好きらしく、光電センサーがぴかんぴかんと光っている。


「つまり、もっとみんなから優しくしてもらいたいってわけか。サクラちゃんらしい地味なお願いだね」

「はい……そしたら昼も夜も楽しいし、私いつまでもここにいられそうだし……」

「そんなのカンタンさ。皆に優しくすればいい」

「優しく……?」

「そ。今のサクラちゃんはね、みんなから優しくされるの待ってるの。でもそれじゃ誰も優しくしてくれない。みんなサクラちゃんのママやパパじゃないから」

「……」


 私、別にそんなの期待してるわけじゃないけど……。

 でも、自分の状態を自覚してなかったな。

 そっか、今の私って、そういう風に映ってるのか……。


 サクラは少しだけ皆が自分に辛く当たる理由が解った気がした。


 でも、それにしたってやりすぎだよね?


「ときどきファメラって正論吐くよね……今のも大分クリティカルだったし……」

「そだよん。誰よりもサクラちゃんのこと想ってるからね」


 当たり前のように呟く。

 例えウソでも、面と向かってそう言われると嬉しい。

 こんな嫌われ者の私でも、大事に思ってくれてる人が居るって……そう思いたい。

 なんてサクラが内心感激していると、


「ちんこ」


 ファメラがいつもの悪乗りでベータのしっぽをサクラのガウンの前裾から突き出し言った。

 なんだか私が打ち解けていくのに連れて、ファメラの口も日に日に悪くなってる気がするんだけどなんでだろう?

 ものすごく残念な気持ちになる……。


「つーかさー、男にちんこって要らなくない? サクラちゃんにだけついてればいいのに」

「い、いい訳ないだろー!? ていうか、なんでそんな男の人に厳しいんだよ!? 何か個人的な恨みでもあるの!?」

「とにかく、もっとみんなの事考えて優しくすればいいと思うな。だからやってみなよ。きっとみんなあたしみたいにサクラちゃんに優しくしてくれるよ」


 ……。

 ファメラみたいに!?


「それは困る!!」


 口ではそう言いながら、みんなから弄られるのも悪くないかも、とサクラは思うようになっていた。

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