第13話 呪文

 私は死ぬの?――。


 この状況じょうきょうに意味があるとすれば、それは、万千まちを助けるためではなく、どうやら私を助ける為のものなのだろうか――。


 私はまだ死にたくない。


 今尚いまなお私が生きている理由。それは、この状況が、走馬灯そうまとうを見ているからでも、断末魔だんまつまを待っているわけでもなく、そうるべくしてなったのだろう。


 私にはその心当たりがある。無意識的むいしきてきにだが、それがこれだろう。なんとなく解っていた、それもこれもその所為せいだろうと。


 そして、それを意図的いとてきに使うには今しかないだろう。


 いや、この状況じょうきょう、使わざるおえない。


 出来る事なら誰にも知られたくない。


 祖母そぼにもかたく止められているし、何より、他人に利用されることが怖いからだ。それほど危険なものらしい。


 私も詳しく知らないが、母からの手紙によると、それを使うには『呪文じゅもん』が必要ひつようで、母わく「こまった時にとなえよ」――と。


 ならば、今がその時なのだろう。呪文は――。


「――チェスト!――」


 私は女性へけ呪文を唱えた。


 その瞬間、時間の流れは元に戻り、空気に重さが無くなった。


 同時に、彼女は後方こうほうばされ、私は万千にき飛ばされた。


「――!?一体何が?」


 万千もたまきも何が起こったのか理解りかい出来ないでいた。


 しかし、女性のにぎっていたものは、不発ふはつに終わったらしく、私がこうまで飛ばしたのだろう、彼女はとてもおどろいている様子ようすだった。


 私は生きている。もちろん万千も。


 使ったのはひさしぶりだったが、えずうまくいったようだ。


 とてもつかれた。


 長い時間がぎた様な。おまけにこれを使うと、貧血ひんけつの様な、立ちくらみに感覚かんかくが来る。


 何かしら私の体に影響えいきょうが有るのかもしれない。


 それは手紙に書いてあった事と何か関係があるのだろうか、それだけが心配しんぱいだった。


 ――その場に居た全員が動けずにいた。一体何が起こったのか、理解でき無い様だった。


 私でさえ説明せつめい出来ない事が起こったのだ。


 それでも、けが人が出ずにんで良かった。


「フフフッ…。フハハハハハッ!」

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