思い反する対峙3

黒髪を大きな白い帽子で隠した少女が、ゆっくりと、しかし確実に近づいていた。彼女の歩む先には、腕だけをだらんとした、どこか無機質な立ち方をしている白い紳士がいた。穏やかに賑わう舞踏会の会場を楽しげに見つめるでもなく、ただ呆然と宙を見つめているその一つ目は、近づいてくる少女になどもちろん気づかない。帽子の下から静かにその紳士を大きな藍色の瞳で捉え、少女はそっと唇をかんだ。そして握りしめたその手を紳士に向けてかざし、立ち止まった。見ればその握りしめた拳が光っている。何らかの術が発動しているのだ。

「クーフさん……!」

少女が絞り出すように呼びかけた時だ。

「クーフ! 右よ!」

穏やかな空間を切り裂くような厳しい口調の声が響いた。直後、一つ目紳士はその言葉に反応し即座に右を向きがてら、その長い右手で手刀を繰り出した。

その動きに、リタは慌てて後ろに飛び退いた。

「残念だったわねぇ、お嬢ちゃん」

冷たい響きで女の声がした。突然の騒ぎに会場がざわつく中、女の威圧的な声はかき消しもされずに少女の耳に届いていた。リタが紳士の方を改めて向けば、いつの間に移動したのか、白い紳士の背後であの妖艶な女魔術師、アニマが見下すような視線を向けて嘲笑していた。

「きっとここに現れると思っていたのよ。ここの国民が気軽に参加できる、この大きな舞踏会だからこそね。……待ってたのよぉ、ここで貴女に会えるのを」

意地悪い笑みを浮かべる女に、リタは帽子の下から睨むような視線を向けた。

「こっそり近づいて、クーフを助けようって魂胆だったんでしょうけど……甘いのよ。このワタクシが気付かないとでも思ったの?」

妖艶な表情に冷たい笑みを貼り付けて、刺すような瞳で女魔術師は言い放った。その視線を逃げることなく大きな瞳で受け止め、黒髪の少女はきつく口元を結んだ。

「貴女、クーフに好意を寄せているんでしょう? すぐに分かるわ。あれだけ分かりやすければねぇ。フフ、好きな男に攻撃されるなんて、どういう気分かしら? ウフフフフ……」

そう言って女魔術師は意地悪に微笑んで、白い紳士、クーフの肩に頭を乗せて甘えるようなそぶりを見せた。

「さあ、お楽しみの時間よ。……ねえ、クーフ……あなた、ワタクシのために、あの小娘を仕留められるかしら?」

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