時間制限付きの魔法1


日中の厳しい暑さが和らぎ、ほんのり涼しさを感じ出す風が吹き始める頃……

シンとシンジはわしゃわしゃと頭を拭いていた。見れば身体ずぶ濡れ、まさに全身拭き上げ中だ。場所は小さな個室だ。鏡台一つに椅子一つ、籠が二つほど床に直置き去れ、その中には彼らの服が入っている。どうやら洗面所にいるらしい。

「それにしても、イキナリお風呂貸してくれるなんて、どうしたんだろうね?」

一足先に頭を拭き終えた青髪のシンジが首をかしげる。

「暑いからでねーべか。おかげでさっぱりしただ」

などとボサボサの赤髪を振るのはシンだ。風呂上がりだというのに、早速彼の髪はいつものボリュームである。

「でもお風呂なら別に今でなくたっていいじゃない?それにヨウサちゃんやガイ、それにリタさんを差し置いて僕らだけ入らせてもらうのは、ちょっと気になるよ」

言いながらシンジは少々訝しげな表情だ。しかし兄の方は微塵も気にしない。

「汗だくだったからでねーべかな。変装するのに汗だくじゃ気持ち悪いべさ」

「変装……。確かに変装用の服を貸してくれるって、試しに今日着てみろって言ってたけど……その為なのかな……」

シンの言葉にシンジはまだ腑に落ちない様子で、籠の中から1つの小瓶を取り出した。薬屋のお姉さんから渡された変装用の薬だ。チャポチャポと振ると茶色の小瓶の中の液体が揺れて見える。蓋を引っ張ればキュポンと音がした。思わず心配になって匂いを嗅ぐが、薬草独特の草っぽい匂いがしてシンジは眉を寄せた。味に対する不安はやはり拭えなかったようである。

「薬屋のお姉さん、風呂上がりにでも飲めばうまいって言ってたけど、ほんとかなぁ……」

弟の言葉に、シンもパンツ姿のままいそいそと小瓶を引っ張り出す。そしてシンジと同様の流れで匂いを嗅ぎ……やはりいい表情はしていない。

「うげ……草の匂いしかしないだべさ」

「でも薬屋さんは美味しいかもって」

「ホントだべか〜?」

「まずシン飲んでよ」

「嫌だべさ、シンジ先飲むだ」

「やだよ」

「じゃあ、やっぱりここはアレだべな……」

「せいの、で一緒に飲もうか」

双子は半裸のまま、片手を腰に当て、せいので一気に瓶の中身を飲み干した。

「うげー」

「マズイ…不味すぎるだべさー!」

などと叫んだのも束の間、二人は早速異変に気がついた。

「ん……あれ? 体がかゆい……」

「いや、待つだ……これは……ど、どういうことだべ……⁉︎」

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