不思議な薬屋さんの秘策8

と、女性二人は納得顔だが、一方のシンとシンジは顔を見合わせている。

「そういうもんだべかな?」

「まあ、でも気持ちはわかるよ。もしシン達が危険な目に遭っていたら、僕だって自分にできることはしたいって思うし」

「いやあ、さすがシンジ〜。ボクが万が一危険な目にあったら助けてくれるんだねぇ〜」

「えー、ガイはどうだろう……」

「えええええ〜! ひどいよ〜!」

などと、シンジはいつものようにガイをからかって遊んでいるようである。そんな男子三人をよそに、薬屋のお姉さんは黒髪の少女に釘を差した。

「とはいえ、この中で一番魔術師に見つかりやすいのは、アンタだからな。用心していきなよ」

 その言葉に無言で頷くリタだったが、ヨウサがふと首を傾げていた。

「そうよ、そこなのよね……。いくらなんだって、私達も正体を隠してお城に入らなきゃいけないわ。女魔術師はともかく、フェイカーがいるのよ。見つかったら厄介だわ。さすがにこないだみたいなフードは無理だし、全身きぐるみって訳にもいかないし……」

 ヨウサの言葉にシンも首を傾げた。

「なんでだべ? 仮面とか、帽子とかメガネはつけて行っていいんだべか? それなら結構隠せるでねーか」

 しかしそんなシンの言葉に、ヨウサは呆れ顔だ。

「それよそれ、シンくんの喋り方。昨日だってフェイカーにバレそうになって危なかったのよ。しかもシンくんもシンジくんも――まあ私もだけど――結構外見が特徴的だからわかりやすいわ」

「まあボクは自分で言うのもなんだけど〜、結構地味な顔だからねぇ〜。ボクはさておき、シン達は変装には十分気をつけないと〜」

「いや、ガイくんもそこそこ特徴的よ……。目とか声とか頭とか……」

「いやぁ〜それほどでも〜」

「別に褒めてないって」

 などとヨウサとガイの漫才の間、双子はお互いに顔を見合わせていた。

「どうやって隠すべかな?」

「シンは喋らないようにするとして……帽子……は必要だよね」

 すると、薬屋のお姉さんがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

「ふむ……。お前たちの顔を知ってるヤツがいるのか……。おい、見習いさんや。君たちにいい変装を提案しよう」

 その言葉に、その場に居た全員が振り向いた。

「変装の手伝いをしてやるよ。そのかわり、また一つ仕事を頼まれてくれ」

「えええ……」

「まただべか……」 

お城の侵入する時にも、仕事を頼まれた双子はげんなり顔だ。それもそのはず、重たい荷物を城まで運ぶという結構な重労働だったのだから。

「今度はなんだべ?」

「できればあんまり大変な仕事は……避けたいけど……」

 そんな双子に、お姉さんはニヤリと意地悪く微笑んで、紙切れを取り出しメモを取り始めた。

「まあ仕事は単純さ。薬草の元になる植物を取ってきてほしいのさ。ここから東の森にある。今日の夕方までに取ってきてくれれば、明日の舞踏会に間に合わせてやるよ」

と、お姉さんはメモした紙切れをシンに差し出した。それを渋々受け取りながら、シンもシンジも浮かない顔だ。

「ホントだべか〜?」

「また大変なお仕事じゃないといいけど……」

 そんな双子に、薬屋のお姉さんは片方の口の端を歪めて、意地悪に微笑むだけなのだった。

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