不思議な薬屋さんの秘策1


 夜になって、シンたち四人は前もって予約していた宿屋に戻った。このあたりの一般的な宿屋を借りたのだが、さすがは観光地。南の国のリゾート感がたっぷりだ。木々の木目を活かした優しい色合いの壁に、涼し気な素材の布製の絨毯が、色鮮やかに空間を彩り、宿泊客を迎え入れた。天井は高く、大きな窓からは涼しい夜の風が入り込む。食事のできる開放的なテラスには、夜光草の花が飾られ、青白い光が涼しげに見えた。

 しかし、そんなリゾート気分に浸る余裕もない四人は、そそくさと自分たちの部屋に荷物を置きに行ったのだった。

「それにしても、今回も大事件の予感だね」 

  宿泊する部屋から出るなり、青髪のシンジは神妙な口調でそう呟いた。昼寝もしたからか、顔はスッキリした表情だ。そんなシンジに続いて、兄のシンと友人のガイも部屋を出る。

「そうなんだべ、薬屋のお姉さんに報告したら、まさかあのうーたんが!」

「王女様だったとはねぇ〜……」

 シンジの言葉に、シンもガイも困ったように唸る。それを聞きながら部屋に鍵をかけると、シンジは難しそうな表情で首を傾げる。

「で、肝心のリタさんの件はどうなったの?」

「それがね〜、薬屋のお姉さんは確認したいことがあるって〜、また明日来いって言ってたんだ〜」

「じゃあ、仲間のクーフさんを助ける方法は、まだやっぱりわからないの?」

「そういうことになるだ」

 兄シンの答えに、思わずため息をつくシンジだが、シンは更に重い口調で続けた。

「それに、フェイカーが居たって事は、やっぱりここに星魔球があるに違いねーだ」

「間違いないだろうねぇ〜……。あの大臣は『探しもの』を頼まれていたみたいだったし〜。きっとフェイカーが星魔球の在り処を探させているんじゃないかなぁ〜……」

とのガイの推測に、シンは思わず唇を噛んでいた。

「まだその星魔球のヒントすら、オラ達は見つかってないだべよ」

「うーん……課題が多すぎるね……」

 兄の言葉に、弟は更に深いため息をつく。そんな双子の眼の前では、ガイが細い目をさらに細くして唸っている。

「ホントだよ〜! 今回も、人様の厄介事に首突っ込んでる場合じゃないよ〜! ボクらの進級課題も進めないと〜、ボク達進級できないんだから〜!」

「わかってるだべよ! でも慌てたってしかたねーべさ。まずは、飯だべ!」

 その言葉にシンジも、そして口調の厳しかったガイまでも、ニヤリと表情が緩む。

「そうだね! 腹が減っては戦はできぬ!」

「いやぁ、戦いたくはないけど〜、腹ごしらえは大事だよね〜」

 そう言いながら、三人は廊下を足早に進んでいく。食事は外のテラスで食べられるようになっている。別部屋のヨウサとは、そこで待ち合わせ中だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る