不幸な少女1


 双子が急いで隠れたのは、先程の薬屋の中だった。そそくさと中に入り店の扉を閉めれば、商店街の喧騒が遠くに聞こえた。そっと扉の窓から外の様子をうかがうが、あの白い一つ目紳士は見当たらない。それを確認して、双子はほっと胸をなでおろした。

店の中に目を向ければ、先程話した店のお姉さんは奥にいるのか、カウンターにはいなかった。店の中の小さなテーブルに目を向けると――既にヨウサとガイが戻ってきていた。双子に気がついて、二人は扉に振り向いていた。

「あ、シンくん、シンジくんお帰り……って、え?」

「だぁれ〜、その人〜?」

 息を切らしている双子のその隣には、二人が初めて見る人物が立っていたのだから、驚くのも無理もない。そう、双子が一つ目紳士から助けた黒髪の少女だ。ヨウサとガイの質問に、シンは思わずこう答えた。

「いや……オラ達も知らねーだべが……」

「え……知らない人連れてきたの?」

 シンの発言にヨウサがもっともなツッコミをする。その間にもシンジが説明を試みる。

「不気味な紳士に襲われていたから、とっさに連れてきちゃった」 

双子の説明に、ヨウサもガイもまだ目が点だ。

「え、ごめん、言っている意味がわからないんだけど……」

「あの……」

 そこで初めて黒髪の少女が口を開いた。

「あ、ありがとう、助けてくれて……。私、リタって言います」

 少女の自己紹介に、シンとシンジも顔を見合わせ、笑顔で答えた。

「オラはシンって言うだ。魔術学校の生徒だべ」

「僕はシンジ。シンの双子の弟なんだ」

「あ、私はヨウサ」

「ボクはガイ〜! 只今ボク達、絶賛進級課題に取り組み中〜!」

 続けてヨウサとガイも自己紹介をすると、黒髪の少女リタはようやく微笑んだ。背丈は彼らより少し高く、年の頃は十五、六といったところだ。落ち着いてよく見れば、腰まで届く長い黒髪はつやつやだし、色白の肌に大きな青い瞳、小さいが筋の通った形のよい鼻に、ピンクの唇と、なかなかの美少女である。ただその美しい外見に一つだけ不似合いなのが、頭に乗せた大きな古びた帽子だ。少女には少々大きいようで、リタは挨拶と同時に、帽子の位置を直した。

「ところで一体なんだったんだべ? なんだか、あの白い一つ目に襲われてただべよ?」

「正確には一つ目紳士だけじゃないよ。変なツタの人? みたいなのもいたよ?」

 双子の言葉に、リタはうつむくように頷いた。

「実は……城の……兵士たちに追われていたんです」

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