不気味の森へ行きましょう


 準備を整え、四人はすぐに森へと出発した。大きな荷物は宿において、シンとシンジはハーフパンツのポケットに必要なものを詰め込んだ。魔物との戦いもあるとなれば備えは重要だ。傷に効く薬草に、魔法で魔力を消費したときのための回復薬、そして何より戦う時の武器、シンは短剣を腰に、ヨウサは学校支給の杖を装備しているが、どうにもシンジとガイにはそれらしき武器は見られない。代わりにガイは身軽な三人と違い、背中にリュックを背負っている。

「準備はバッチリ、後は目的のものを今日中に見つけられるかよね」

 出発早々ヨウサが気合を込めて言うと、シンジが神妙な表情で頷いた。

「目的の森はみんなから『不気味の森』と言われている場所だからね。気をつけて挑まないといけないよ」

「でも、どうして『不気味の森』なんだべ? 一体何がどう不気味なんだべか?」

 シンの問いにガイがメモを眺めながら答える。チユから預かったメモだ。

「チユの説明によると〜、あの森は不思議なことに陰の気と陽の気が入り交じる森らしいよ〜。だから貴重な植物や魔鉱石も取れるけど、魔物も多いらしい〜。ありがたい森に思えて実は怖い〜。何とも不気味〜」


 このアルカタ世界には、大きく二つの力がバランスを取って存在している。一つは陽の気。光の力とも言われ、日中に多く存在する。多くの精霊族がこの力を糧にしており、陽の気を持つ動植物は彼らにとって大切な食物だ。もう一つは陰の気。これは闇の力とも言われ、夜に多く存在する。また魔物や闇族と言われる一部の種族はこの気を好む。陰陽どちらも互いを侵食する性質があるためか、魔物は精霊族に対しては攻撃的だ。


 ガイの説明にヨウサがまっさきに反応した。

「それで貴重な植物が育つのね。確かに、そう聞くと不気味さはあるわね」

「話だけじゃなくて、見た目にもそうなんじゃないかな……」

 そう切り出したのはシンジだ。周りを見れば鬱蒼と茂る木々に、背の高い草や蔦、獣道が目の前に続く以外、人が作ったような道は見当たらなくなっていた。先程までは陽の光も差し込み、明るい森だったのだが様子が一変、薄暗く空気がしっとりと重い。やけに高い所で木々の間から木漏れ日が差し込み、それが眩しいくらい、地面に近いところは薄暗かった。

「空気が重いだべな。陰の気を感じるだ」

 シンが珍しく真剣な表情で周りを見回す。つられてヨウサとガイも周りに目線を送ると、森の奥は薄暗くてぼんやりして見えた。四人のおしゃべりが止まれば、途端森に響く奇妙な鳴き声に気がつく。鳥なのか動物なのか、はたまた魔物なのか……聞き覚えもない鳴き声だ。

「ホントに不気味だなぁ〜……。ね、ねえ〜、これ早く帰らないと、夕方には真っ暗になるよぉ〜」

 そうガイが怯える通り、これだけ薄暗い森では恐らく夜は早いだろう。そう考えると、許されている時間は思ったより短そうだ。

「なおのこと急がないとね。でも、陰の気が強いだけじゃなさそうだね。水の気配も感じるし、これくらいだと精霊も好む強い魔力もあるよ」

 シンジも周りを見回しながらそう言うと、ヨウサが早速気配を探り出した。

「この辺りは不気味な感じしかしないけど……。でも確かに、心地よさも少し感じるわ。ねえ、日の当たる場所を探さない? そこなら確実に陽の気も満ちているはずだわ」

「それはいい考えだべな! そういうことなら、オラに任せるだ!」

 言うが早いが、シンは胸元の丸い石に手をかざした。

飛翔ひしょう!』

 そうシンが唱えたのは呪文だった。途端、その石からぶわっと強い風が沸き起こり、シンの体が空中に浮き上がった。シンが胸につけている石は、風の魔力を増幅させるアイテム、風の魔鉱石だ。

 シンはそのまま頭上を覆う木々の天井をすり抜け、森を一望できる高い位置に空中静止した。空から見下ろしてしまえば、森の様子は一目瞭然だ。見れば彼らがいた位置から随分進んだ所に、木々がなく、開けた原っぱが見えた。日当たりも良さそうなその場所は、花畑のように見えた。

「花畑……これはありえるだな!」

 早速シンが森の中に戻ると、話を聞いたヨウサは目を輝かせた。

「これだけの水の気配もあるんだもの。その花畑、怪しいわ。探している古代植物があるかも。行ってみましょ!」

 シンが見たその方向に四人が進むと、程なくして視界が開けた。シンとヨウサの予想通り、そこには一面色とりどりの花が咲き乱れていた。原っぱを囲う森は薄暗く見え、逆に原っぱは眩しいぐらいに引き立っていた。赤や黄色や青に橙、紫と、まるで虹を草原に放り投げたかのような美しさだ。

「きれい! こんな場所がこの森の中にあるなんて、想像できないわね!」

 着いた途端、ヨウサが嬉々として言う傍ら、シンジが花をあれこれ見比べながら首を傾げていた。

「花がいっぱいあるのはいいんだけど、肝心の薬の材料はどれだろう?」

「どれだかわからねーべから、全部持ってっちまえばいいんでねーべか?」

 シンのあまりに大雑把な提案に、ヨウサがぴしゃりと言い切る。

「駄目よ、そんな乱暴なやり方。森に住む精霊に怒られちゃうわ。確か『ラベンダー』っていう古代種でしょ。紫色の花でいい香りがするって。そういう花を探せばいいのよ」

 そうヨウサが提案していると、その間にもガイが花畑の中に潜り込んでいた。

「ねぇ〜ヨウサちゃん、この花じゃないかなぁ〜?」

と、ガイが手にしていたのは、紫色の小さな花をいくつもつけた可憐な花だった。その花の香りを嗅いだヨウサは、途端ぱっと顔を輝かせた。

「すっごくいい香り! きっとこれよ! ガイくん、チユのメモと見比べてみて」

「花の形も合ってるよ〜! 大丈夫〜!」

 ガイはメモと花を交互に見比べながら言った。その様子を見ていた双子は、ヨウサの手に握られた花に鼻を寄せていた。

「ふぅん……こういう香りなんだ。今まで嗅いだことのない匂いだね」

「これのどこがいい匂いなんだべ? ちっとも美味しそうでねーべさ」

「そういう香りじゃないの! さ、手分けして探すわよ!」

 食欲旺盛なシンの反応に、またしてもピシャリと言い切ると、ヨウサは率先して花畑をうろつき出した。そんなヨウサと、鼻の利くガイの働きもあって、目的の花はあっという間に十本以上見つけることができた。

「これで材料一つクリアだね〜」

 言いながらガイはリュックからかごを取り出し、その中に花をしまう。どうやら彼のリュックは、材料を入れるためのものだったようだ。

「続くは、香りの強い植物『プタスタス』と魔物トカゲ『シルビラニア』の鱗ね。ねえ、ガイくん。鼻がいいんだもの、それっぽい香り、どこからかしないの?」

 ヨウサが尋ねると、ガイは珍しく真面目な表情であごを押さえた。

「それがね〜、森に入ってすぐにいろんな匂いがしてさ〜……」

「それもそうだね、植物多すぎるもんね」

 ガイの言葉にシンジが共感すると、ガイは思いがけず首を振った。

「それが、いろんな匂いがする中で、そのスースーする匂いってのが、結構強くてね〜。なんとなくこっちの方向かな〜ってのは、わかってるんだ〜」

 その言葉に、残る三人が目を丸くする。

「ええっ!? ガイくん、もう匂いの見当がついているの!?」

「よく匂いわかっただな。オラなーんにも感じなかっただ」

「僕も……。てか、ガイ。そーゆーことは早く言ってよ……」

 そんな三人を尻目に、ガイは早速ある方向に向かって歩きだしていた。

「なんかね〜、割と水の気配から離れる場所にあるみたいなんだよねぇ〜」

 そう言いながら歩みを進めるガイの後ろを、三人がついていく。原っぱを抜け、草をかき分け進む道は、どうにもどんどん薄暗い方向に進んでいるように思えてならない。シンが周りの気配を探れば、陰の気もだいぶ強くなっているように感じた。

「なんだか……ますます不気味な所に踏み込んでる気がするんだけど……」

と、少々怯え気味に呟くヨウサの隣で、シンジは上を見上げながら真剣な表情だ。見れば木漏れ日の数も減り、どんどん薄暗くなっている。

「ねえ、シン。ちょっと陰の気が強すぎない?」

「だべな。これは魔物が出てきてもおかしくないだべよ」

 その言葉に続けて、シンは短剣を手に取る。いつ魔物が現れてもいいように、との準備だ。

 そんな三人の緊迫感とは裏腹に、ガイはひたすらクンクンと鼻を鳴らしてどこか呑気な様子だ。

「臭いぞ〜臭いぞ〜……こっちかな〜……」

「……なんだか、ガイ……犬族みたいだよ……」

 思わず突っ込むシンジである。

「失礼な! 犬族みたいにしっぽないも〜ん。耳だってもふもふじゃないやい〜。それよりも〜……」

「それよりも?」

 ヨウサが聞き返すと、ガイが後ろを振り向いた。いつもの細い目が相変わらず間が抜けているのだが、心なしか緊張感があるように見える。

「なんだか〜……スースーする匂いに混じって、いや〜な匂いもするんだよ〜……」

「嫌な匂い……?」

 シンジが首をかしげると、ガイは怯えるようにゆっくり頷いた。

「なんか〜……ま、魔物の匂いというか〜……」

 そんな話をしているガイの周りが、急に暗くなった。

「へっ……?」

 急なことで一瞬ビクリとなるガイだが、その直後、背後でしゅるしゅるという何かの音がする。

「え、え、え〜……こ、これって〜……」

 恐怖で声が震えるガイだが、あまりに怖くて後ろが向けない。ガイの正面にいる三人は、ガイよりもはるか上に視線を向けて、口をあんぐりと開けている。

「え、えええ〜! ちょ、ちょっと待ってよ〜……! こ、これ、後ろに何かいるよね〜!?」

 ガイが叫んだ途端だった。背後の何かが思い切り息を吸う音がして、慌ててガイが背後を振り返れば――案の定とでも言うべきか――ガイの身長の数倍はあろう巨大な魔物トカゲが大口を開け、威嚇していた。

「で、出た〜!!」

 思わず叫んで、ガイが一目散に駆け出す。その横で予想外な行動に出たのはシンだった。

 突進してくる巨大トカゲに対して、逆にシンも突撃していた。巨大トカゲの突進を避けるように大きく飛び上がると、風を切る音がして、手に握られた短剣が振り落とされた。

「せいっ!」

 ガキッという鈍い音がして、シンはそのままトカゲの真横に落下した。見れば短剣を握る右手を、かばうように左手で押さえている。短剣の攻撃を鱗に弾かれたのだ。

「いって〜だ! ホントに剣なんて通用しないだな!」

などと叫んでいるが、今の攻撃で完璧に怒りの矛先はシンに向いた。ガイを追いかけていた魔物トカゲは、くるりとシンの方を向いた。

「待って、ガイくん! 今はシンくんを狙ってるわ!」

 逃げ足の早いガイの首根っこを掴んでヨウサが止めると、その隣でシンジも背後を向き、襲ってきた魔物を確認していた。

「すっごい大きなトカゲ……。その割に体は平たくて大きな鱗……これって……」

 シンジが様子を確認すると、魔物越しにシンがニヤリと言った。

「きっとこいつだべ! 薬の材料のもう一つ、トカゲの鱗!」

 その言葉に、慌ててガイがメモを開く。それをヨウサも覗き込み、大きく頷いた。

「間違いないわ! この大きさ、この体の形に鱗の大きさ、きっとこいつね、『シルビラニア』よ!」

「まさか、草を探していたのに、トカゲの方を先に見つけるなんて〜!」

と、ガイは頭を抱えているが、双子は逆に笑みを浮かべていた。

「トカゲ探す手間が省けたべ! まさに『イッセキニソウ』だべな!」

「それを言うなら『一石二鳥』、草じゃなくてチョウ、鳥ね。でもシン、戦い方決めてなかったよ、作戦は?」

 兄のおとぼけに突っ込みつつ、即座に戦い方を確認するシンジに、シンは短剣をしまいながら叫んでいた。

「剣が効かないなら、オラとシンジの魔法で攻撃だべ! ヨウサ!」

「えっ、私?」

 急に声をかけられてヨウサが驚くと、シンは大声で叫んだ。

「こいつに隙ができたら、ヨウサの魔法を頼むだべ! 一番確実に気絶させられるのは、ヨウサの魔法だべ!」

 いつもはおとぼけているが、いざ戦いとなると判断は早い。シンの指示にヨウサは大きく頷いた。

「任せて!」

「さあ、行くだべよ!」

 シンの掛け声にシンジも戦闘態勢を取った。

「動きを鈍らせるよ!『氷刃ひょうじん』!」

 呪文とともに、シンジの右手から一直線に冷気が吹き付ける。シンジは水だけでなく氷系の魔法も使えるのだ。その冷気を足に受けた巨大トカゲはビクリと足をあげ、即座にシンジに向き直った。

「来る!」

 その直後、シルビラニアはシンジに大口を開けて突っ込んできた。体の大きさの割に動きが早い。その大口をすんでのところでかわすが、かわすだけで精一杯、シンジはそのまま草むらにずざざっと滑り込んだ。

「さすがトカゲ、動きが速いだべな! 脚からいくだべよ!『火焔かえん』!」

 シンの呪文とともに、向かい合わせた両手の間に燃え盛る炎が発生した。そしてボールを投げるように振りかぶると、その炎を巨大トカゲに投げつけた。狙ったのは、シンジの魔法が当たった脚とは逆側だ。

 ジュッという焦げ付く音が響き、炎はトカゲに直撃した。シンジを探していたトカゲは、急な背後からの攻撃に跳びはねた。大きさの割に甲高い悲鳴をあげると、痛みにのたうち回って大暴れしたのも一瞬、距離をとっていたシンめがけ尻尾を大きく振り回した。

「あっぶねーだっ!」

 気がついたシンは、胸の魔鉱石に手をかざし、トカゲのはるか頭上に飛び上がった。

 四肢のうち二本を攻撃しても、まだ動きは衰えない。

「鱗が頑丈なんだよ〜! 余計怒って攻撃的になってるよ〜!」

 遠巻きから見ているガイが、双子に向かって大声で叫んだ。

「シン!」

 呼ばれて視線を送れば、弟のシンジが、草むらに身を潜めた状態で叫んでいた。

「気を引いて! 召喚魔法にする!」

「判っただ!」

 その短いやり取りで十分だった。シンは即座に弟の戦略に気づき、自分がなすべきことを理解したのだ。

 召喚魔法は精霊の力を借りて、より強力な攻撃を繰り出す魔法だ。しかしその分、発動までに少しばかり時間がかかる。シンジが術の発動準備に入っている間、シンはあえて危険な行動に出た。彼は飛んだままトカゲの視界に飛び込んだのだ。のたうち回りながらも敵を探していた巨大トカゲは、現れた敵にその頭を突撃させてきた。それをギリギリでかわすが、まだ距離はシルビラニアの攻撃範囲内。右目に写った敵に向け、またその大首を振りかぶり、頭突き攻撃を仕掛けてきた。

「ほいっ!」

 またしてもそれをかわすと、シンはシルビラニアの頭上を飛び越え、今度は左側で呪文を唱えた。

「こっちだべ!『火焔かえん』!」

 即座に打ち放たれた火の玉は、大トカゲの左あごに直撃した。燃え盛る炎を顔に食らい、さすがに巨大トカゲがひるんだ。叫び声を上げながら大きく上体をのけぞらしたのだ。

「今だ!『召喚――青女せいじょ』!」

 草むらからチャンスを狙っていたシンジの呪文が響いた。途端、草むらからびゅおおっと凍てつく冷気が吹き荒れた。それはまるで冬の吹雪のよう、氷を含んだ鋭い冷気は、一瞬でシルビラニアの後ろ足と尻尾を凍りつかせた。

「ヨウサ! 続けて頼むべ!」

 シンの掛け声に、杖に力を込めていたヨウサがニヤリと微笑んだ。

「まっかせといて! いくわよ……『雷申らいしん』!」

 唱えた直後、まさに光のごとし、一瞬だった。パリッと雷の線が杖から巨大トカゲに伸びたかと思った途端、シルビラニアの体が瞬時に光り、遅れてバチバチと激しい放電の音が響き渡った。あまりの音に森の鳥が驚いて飛び立った程だ。

 たちまち巨大トカゲは凍った下半身をそのままに、上半身だけぐったりと倒れ込んでしまった。

「やっただべ! 気絶しただべよ!」

 巨大トカゲが舌を出して伸びている姿を確認して、シンは地上に降り立った。草むらに隠れて魔法を放ったシンジも、そこから姿を出し、ため息を付いた。

「大きい上に動きも速いから、油断ならない魔物だったね」

 シンジはそう言いながら右手を振り上げる。見ればいつの間にか氷の剣を握りしめていた。そう、この氷の剣こそ、彼の魔法で作られるシンジの武器だ。

「それにしてもホント、鱗まで大きなトカゲ……。どうやって剥がしたらいいのかしら?」

 ヨウサが恐る恐る近づいて呟くと、そのヨウサの後ろで、更に恐る恐る様子を見ながら近づくガイが、メモを読み上げる。

「鱗は古いものほど剥がれやすくなっているって、メモにはあるよ〜。もしかしたら、攻撃して傷んだところなんかは剥がれやすいんじゃないかな〜?」

 ガイの言葉にシンが短剣を取り出しながら答える。

「それならオラが攻撃した脚がちょうどいいべ!」

「いや、僕の凍らせた所の方がいいかもよ。焼き付いていて材料として使えなくても困るでしょ」

 兄にそうシンジが提案すると、シンも納得いったように手を打つ。

「おお、そうだべな! じゃあ早速この脚を……っと!」

 双子は手にした短剣を、凍りついたトカゲの脚に突き刺した。鱗の境目に合わせ斜めに剣を差し込めば、あれだけ頑丈な鱗もぽこっと皮膚から浮かび上がった。彼らの腹ほどもの大きさがある鱗を、二人がかりで引っ張れば、意外とすんなりそれは剥がれた。

 そんな調子で二、三枚鱗を剥がせば、それをガイはまたリュックにしまう。二、三枚と言っても巨大な鱗だ。それだけでリュックの横幅は随分と広がってしまった。

「さて、残るは『プタスタス』って植物だべな。どこにあるんだべ?」

 気を乗り直してシンが言うと、即座にガイが先陣を切って進みだした。

「こっちだよ〜。匂いはこっちからするもの〜」

 そんなガイに続いて行けば、鬱蒼とした森にふさわしくない光景が広がっていた。大きな樹木以外、ほとんどの葉っぱが踏み荒らされ、食い散らかされ、荒れ地のような状態になっている所にたどり着いた。

「ひどい荒れようだね……。もしかして、さっきの大トカゲかな?」

 現場を見るなり呟くシンジに、ヨウサが同調する。

「草の先っぽにある花が全部食い荒らされているから、そうじゃないかしら? こんな様子じゃあ……目的の植物は無事なのかしら?」

と、ヨウサが心配したのもつかの間、即座にガイが荒れ地のすみっこを指さして言った。

「あ、あの草っぽいよ〜! どうやら匂いが強すぎて、あの魔物には美味しく感じなかったのかもねぇ〜」

 ガイの言葉に、シンも思い出したように頷いた。

「そういえば、生で食べるなって、チユも言ってただべな。毒だからとか……」

「そんな毒の強い植物が、どうして薬になるのかなぁ……」

 シンジも続けて呟くと、ガイは何を言うんだとばかりに首を振った。

「ヤダなぁ〜、毒と薬は紙一重なんだよ〜。薬だって使い方を一歩間違えば毒と一緒なんだよ〜。さ、この辺の草はどっさり頂いたよ〜。はやくチユの所に戻ろう〜」

 言いながらさっさと草を摘み終えたガイは、それをリュックにぎゅうぎゅうに押し込んだ。空を見上げれば、木々の隙間から弱々しい青色が見えた。間もなく夕暮れが来るだろう。山の夕暮れは、あっという間に夜になる。急いで帰ったほうが良さそうだ。

「そうだべな、急いで戻るべさ!」

 四人は急ぎ足で、不気味の森を後にした。




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