学園生活

 新しい高校生活が始まった。

 めでたい事に、オレとナツは同じクラスになった。

 これが高校生活ってやつなんだな。これまで経験してきた学校生活とはまるで違うなって思う。


 田舎の小学校は小さな学校で、最低限しか学校に行っていなかったから、そこでの楽しい思い出はあまり無い。

 転校して、六年生の思い出はその殆どがナツとの物でしかない。

 三年間過ごした盲学校はとにかく毎日必死だったし、友達を作ったり遊んだりする事もなかった。


 疾風学園は大きな学校で、色んな人達がいる。きっとこれが、いわゆる普通の高校生活なんだろうと思う。

 戸惑っているオレをナツは校内の色んな輪の中に連れ出した。

 ナツには中学の時からの友達も沢山いたし、初対面の人にも物おじせずに話しかけていた。おかげでオレにも沢山の友達が出来た。人間としての視野がとても広がっていると思う。

 

 目の見えないオレに、みんなとても優しくしてくれる。だからそれ程不自由を感じずに学園生活を楽しめている。

 勉強が苦手なオレは授業に付いていけない事が多いけれど、先生達も多めに見てくれているし、最低限の事は分かるようにナツを初め、友達が色々教えてくれるのでありがたい。


 ナツはすごく成長したなって思う。小学生の時は何でも真面目に考え過ぎて、自分を追い詰め、意地を張って壊れてしまいそうだった。友達もいなかったし、オレが守ってあげなきゃって思った。

 でも今のナツは何でもすごく楽しんでいるように見えるし、友達も沢山いる。



 授業が終わると部活だ。オレも陸上部員として、皆と同じグラウンドで同じ時間帯に毎日練習している。

 

 故障が多くて今年度からマネージャーになる事を希望していた中距離グループの一個上の先輩が、オレの伴走者になってくれた。沖田聡おきたさとしという名前で、伴走者兼マネージャー補助という事で承諾してくれたようだ。

 聡さんには伴走者の経験なんて勿論無いからゼロからのスタートだ。オレが盲学校でやってきた練習を伝え、中距離のコーチが時々見てくれて、試行錯誤しながら練習方法を練り上げていった。

 

 二人にとってはガイドロープの絆が頼りだ。絆を通してお互いの動きを感じ取る。微妙な張り具合や緩み具合を察知して、走る軌道や動きを調整していく。聡さんが常に声を出して誘導してくれるが、絆は声よりも微妙な所まで感じ取れる事が多い。


 ガイドロープの正式名称はデザーというが、っていう呼び名は誰が付けたのだろう?

 とてもしっくりくる。


 絆を通して伝わってくる物は色々ある。聡さんは盲学校の先生とは伝わってくる物が全然違う。

 盲学校の先生はとにかく一生懸命にオレを導こうとしてくれていた。決して速くは走れなかったけれど、安全にそしてオレが走る事を楽しめるようにいつも心掛けてくれていたと思う。


 聡さんはとても優しい人だと思う。背格好がオレに似ているし、いつも凄く合わせようとしてくれるのでやりやすい。

 だけど、ムリに合わせようとしてくれているようで導かれる感じをあまり持てない。

 何ていうのかな。例えば子ギツネのチャチャは本能で楽しく駆け回っていたから、オレもそれに釣られて速く走れるようになった。

 聡さんが全力で走ったら、オレは怖くて全然着いていけないのは分かっているんだけど、かと言って合わせようとしてもらうと、オレ自身にブレーキが沢山掛かってしまう感じ。とても難しい。


 聡さんはランナーだし、たぶんもどかしさを凄く感じているんだと思う。優しさ故にそういった物を表に出さず、そういった複雑な感情までもが絆を通して伝わってきてしまう気がする。


 そういった物を解消する為にもオレ達は折に触れて話し合い、走るスピードは以前とは比べ物にならない位速くなっていった。


 こんな感じでオレの学園生活はとても充実していた。

 何よりも嬉しかったのが、オレが走れる事、そしてパラリンピックを目指している事を、ナツが心から喜んでくれた事だ。同じ陸上部で一緒に頑張れるなんて夢のようだし、益々気合が入ると言ってくれた。

 盲学校で三年間必死に頑張って、ここに来れて本当に良かったとオレは思っていた。

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