不思議な気配

 せっかくだからランチを食べようという事になり、11時半頃三人でフォッリアという店に到着した。


「いらっしゃいませ」

 店員さん達に出迎えられ、店を見渡してオレはドキッとした。

 

 ここに来る途中にナツが話していたハルトくんという人が見えた。いや、見えてるわけじゃなくて、顔とか全然分からないんだけど、あそこにその人がいて何となく雰囲気が分かるという感じ。

 人をそんなふうに感じたのは、他にはナツだけだ。ナツはもっとはっきり分かるのだけど、このお店の中ではナツとその人にだけは存在をしっかりと感じる。


「いらっしゃい。よく来てくれたね。席、どうする?」

「途中から五人になれるなら、五人座れる角の方がいいよね」

「私はどこでもいいよ」

 ナナエのお兄さんとナナエとナツが相談しているのだろう。

「じゃ、こちらにどうぞ」と案内してくれた。


「ケンタ君ですよね? ようこそいらっしゃい。オレはナナエの兄でルイって言います。よろしく。後でご一緒させてもらいますね。ランチ、楽しんで下さい」

 感じのいいお兄さんだと思った。

「ケンタです。よろしくお願いします」


 ここではナナエが仕切ってくれている。

「何食べる? 去年みたいにお任せにしちゃう? ケンタは初めてだよね。サラダ、ピザ、パスタ、デザートに飲み物って感じで大丈夫かな。素材とかこだわってアスリートメニューにしてもらってるの。あ、ケンタは普通の人のように食べられるの? あ、ごめん。ちょっとどうやって食べるのか疑問で」

 

 そうだよな。目、見えないと普通食べられないよな。

「あ、みんなと一緒で大丈夫。ってかさ、イタリアンとか食べた事ないから、目見えてても食べ方分かんねぇかな。ナツにあーんってやってもらうから大丈夫だよ。うそうそ、それはない。けど、せっかくだから手取り足取り教えてくれよ。あ、足はないか」

 オレはちょっと動揺しているのかもしれない。わざとテンションを上げてしまってる。さっきからあのハルトくんって人が気になって仕方がない。


 そのハルトくんが料理を運んできた。


「いらっしゃいませ。後でご一緒させて頂く、梶春斗といいます。まずはランチ、ごゆっくり楽しんで下さい。お料理は普通にお出ししますが、必要な物とかご要望があればご遠慮なく。最初のサラダは自家栽培の有機野菜を使用してまして、ドレッシングはお体にいいを使用しております」

 

 真面目な口調で、エゴマオイルをやたら強調して最後に笑った。

 ナツとナナエは爆笑したがオレには意味が分からなかった。キョトンとしているオレにナツが昨年の出来事を話してくれた。

 

 今まで食べた事がないような美味しい料理が次々と運ばれ、フォークとナイフを初めて使いながら食べた。ナツに教えてもらいながら挑戦し、上手くじゃないにしても楽しく美味しく頂けた。


 食事をしながらナツとナナエは、フォッリアにまつわる話を楽しそうに色々と話してくれた。

 一昨年のナナエの失敗の事や昨年の出来事、ハルトくんの事を二人は新米君と名付けて笑っていた事など。新米君の話になるとケラケラと笑いが絶えない。

 オレは「ハルトくん」とか「新米君」という言葉が出てくるたびに、何故かドキッとしてしまい、顔を背けたくなるのだった。



「お待たせ。オレ達二時間仕事あくから、ご一緒させてもらうよ。オレら、飯、食べさせてもらうけど、何かもっと食べたり飲んだりする?」

 ルイさんの声だ。ハルトくんという人が着替えてきたのが分かる。

「私、紅茶もらおっかな。ミルクティー」

「じゃ、私も」

「じゃ、オレもお願いします」


「オレは本日のパスタとコーヒー頼むけど、ハルトも一緒でいい?」

 ルイさんはそう言うとウエイターを呼んで注文した。

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