作戦
帰りぎわ、新米君が出口の近くで「ありがとうございました」と声を掛けてくれた。
私は思い切って言ってみた。
「あの‥‥‥。おしぼり、嬉しかったです。ありがとうございました」
新米君は少し照れたように笑った。
「お袖、ごめんなさい。あ、足、お大事に」
私は恥ずかしくなってぴょこんと頭を下げてさっさとお店を出た。
「ねえ、ナナエ。明日もお店行きたくなっちゃった。付き合ってくれない?」
家に送ってもらっている途中に、お兄さんの車の中で思い切って聞いてみた。
「え? いくらヘルシーだって言っても私の二の舞になったらダメだよ」
ナナエは心配そうな顔を向けてきた。
「お茶だけでいいの。あ、カプチーノがいいな。すごく美味しかったから。ちょっとナナエに話したい事もあるんだ。都合のいい時間に合わせられるから。家の近くからバス出てると思うから、一人で行き来出来るし」
「話なんか寮でいくらでも出来るのに。あ、分かった。新米君に会いたいんでしょ」
ナナエが冷やかしてきた。はっきりとそうは言えないけれど、ま、そういう事だ。
「カプチーノが飲みたいの」
そう言う私にお兄さんが口を挟んできた。
「あいつ、大学一年の
私は自分が赤面しているのが分かって恥ずかしくなった。またナナエがからかってくる。
「ナツって正直だよね。すぐ顔に出て可愛い。いいよ。今日は私の話ばっかり聞いてもらったから。ねえ、お兄ちゃん、新米君は明日もいるんでしょ? いる時間は?」
「夏休みは定休日以外毎日いるよ。11時から15時までと17時から21時まで。それから、新米君はやめてな。ハルトくんって呼べばいいよ」
私達は13時にレストランで待ち合わせる事にした。
翌日、レストランでカプチーノを飲みながら、私はナナエにケンタの話をした。
イノシシ事故の事。彼氏ではないけど疾風学園で待ってるって約束をした事。でもあれから一回も会った事も話した事もなくて本当に高校で会えるのか分からない事。そんなケンタがいるのに新米君の事を好きになっちゃいそうだって事。
「ナツは本当に正直で素直な子だね」と切り出した。
「休みは明日までだよ。いいじゃん。別に付き合うとかそういうの抜きに、明日二人でお茶でも飲んで楽しいひとときを作ってみたら? ちょっと作戦を一緒にに考えてあげる」
ナナエはそう言って、新米君、じゃなくてハルトくんの方に目を向けた。
「15時から17時まではハルトくん、仕事入ってないんだよね。ハルトくんの都合をお兄ちゃんを通して聞いてみてもらうから。
近くに喫茶店が一軒あるんだ。バス停の反対側だけど距離的にはバス停からここまでと同じ位だから、ナツの足でも大丈夫。ここから喫茶店までも歩いて10分位だからハルトくんも大丈夫だと思う。一時間半位は話せるはずだよ」
「えー、でも‥‥‥。ちょっと考える。夜電話していい?」
「分かったよ。電話待ってる。勇気出しな」
とりあえず店を出ようとした時、ハルトくんが近づいてきた。
「あの、明日も二人はここに来てくれるんですか? 昨日ちょっと織田さんとお話したんですけど、お二人のお休みは明日までだって聞いて。
せっかくだから四人でお喋り出来たら嬉しいなって思って。もし来てくれるなら、15時から17時の間なら織田さんも僕も仕事しなくていいから。
あ、無理しなくていいんですよ。もし嫌じゃなかったら‥‥‥」
「嫌じゃないです。勿論、来ます。ね、ナナエ。ナナエも大丈夫だよね」
これだ!と思った。二人きりでなんて会う勇気はない。ここで、四人で、が最高にいい。そう思った。
「仕方ないな、付き合ってあげるよ」
ナナエは私の方を向いてそう言い、ハルトくんの方を見た。
「ごめんなさい。こっちの話です。明日、楽しみにしてます。私達は14時頃に来て、少し二人で先にお喋りしてますね。今日もご馳走様でした」
そう言って席を立った。
お店を出てからナナエは仕切りに攻めてきた。
「ホントにいいの? 四人で。明日は最終日だよ。後悔しない?」
「いいの。四人が」
「まあ、さすがに大学生のハルトくんと中学生のナツと二人きりだと、気まずいのかな。挑戦してみればいいのに。私だったら全然平気だけどさ」
ハルトくんと私が二人っきりで無言で座っている所が目に浮かび、やっぱり私には無理無理と首を振った。ナナエは私に比べてずっと大人っぽくて、お姉さんみたいだ。
「あーあ、あんなに頑張って作戦立てて損しちゃったな〜。でも、ま、いっか。四人で話せばきっと楽しいお喋りが出来そうだね。でもハルトくんに言いたい事があるんならちゃんと言うんだよ」
ナナエはそう言ってくれた。
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