第15話 気にしない

 二人は、その効能を知っているからか、黄色い液体を見て固まっていた。


「ごめんね。黙ってたんだけど。

 どうしても気持ちが悪くなって、正直に話したくなった」


「だんな。ちょっとはさみかして」


「そこの戸棚にペン立てにあると思うけど」


「よいしょ」


 席を立ったカイリちゃんは、そのままハサミを手にして、手の甲に突き立てた


「!? 何してるのっ!!??」


「ためすには、傷がひつようだと思って」


 そういえば、さっき飲んだけど何もなかった。みたいなことを言っていたような気がする。

 健康体なら、飲んでも何も感じないのか。


 いや、最大レベルが上昇しているはずで、もしかしたら持っているスキルのレベルも上昇しているはず。


 それに気がついていないということは、俺が一番最初に飲んだ時のように、なんの効果もなかった時と同じだろうか。


「いたたたたた」


 ピューっと血が吹きして、床をカイリちゃんの体液が滴る。

 直接でも良いが、その床に落ちた血を舐めたいなと思ったが、流石に自重して。


「は、早くこれ飲んで!!」


 と、2リットルペットボトルに入った【復活の薬】を手渡して


「ごく、ごく、ごくごくごく」


 めっちゃ飲むやん。



「ねぇ、あんなに、飲んでも大丈夫なのぉ?」


 椅子に座っていた佐々木さんが指差しながら言ったが、俺にもわからん。

 瓶には200ml程度しか入っていなかったようで、ペットボトルには10ぽんぶんが入っているが。

 もしかしてその200mlが1回分だとすれば。


 カイリちゃんは大丈夫なのだろうか?


「ぐび、ぐび、ぐびぐびぐび」


 ああ、まだ飲んでる。

 結局ほとんどを飲み干して、ペットボトルに残っているのは100mlくらいか?

 10分の9を飲んだカイリちゃんは、9本分の【復活の薬】を飲んだことになる。


「カイリ、光ってるけど大丈夫なのぉ?」


 俺とカイリちゃん相互を交互に見ながら佐々木さんは心配そうに声が上ずっている。


 さっぱり俺にもわからん。

 どうして発光しているのか。


「あ、あわわわわわゎゎゎぁぁぁあああ??」


 変な声を出しながらカイリちゃんは小刻みに震えながら。


 いつの間にかその手の甲につけた傷は塞がっていて。


「なんか、ふわふわするぜえ」


 と、口調が荒くなって「シュッシュ!」とシャドーボクシングを始めた。


 量が多すぎるといけない効果が出る、いけない薬なのだろうか?


「でぇ? カイリはほぉって置いて良いわよぉ。

 何を言いたかったのかしらぁ」


「えぇぇ? カイリちゃんにこそ言いたかったんだけれど」


「言ったところで、何も気にしないわぁ?

 どうせぇ、どうでも良いことでしょぉ?」


「どうでも良くはないけど。

 この薬は、増える。結局このペットボトルは実はまだ5本くらいあるし、まだ増えると思う。

 だから、カイリちゃんを助けたのは俺の力じゃないし、なんか恩義を感じて結婚するとか言ってるけど。

 なんか、現実味がないというか。

 俺は何か、騙しているような気がして。それで居心地が悪いというか」


 

 佐々木は、少し考えるようにして目を閉じて。

 そうしていっ時すると瞳を開いて俺を見据えた。


「別に、良いんじゃないかしらぁ?

 運も実力のうちよぉ? 

 というのも、ダンジョンでドロップしたレアの剣を使ってダンジョン攻略して上位トラベラーになったとして、それは剣があれば自分も攻略できる。実力を発揮できる。なんていう人なんてごまんといるわよぉ。でも、そんなことを言ってる人はレアの剣を持っていないし上位のトラベラーではないわぁ。

 狂墨やカイリや私みたいな才能(タレント)を持ってダンジョン攻略をしていても、実際に私たちはそんな才能を望んで得たわけじゃないのぉ。

 この才能(タレント)は神からの贈り物とかぁ、いう人も確かにいるけれどぉ。私にはただの運だとしか思えないのぉ。

 運良く良い才能(タレント)が手に入ったから、こうやってSランカーをやってるのよぉ?


 対人戦に置いては、格闘技が一般人で流行ってるけれどぉ。単純な肉体戦だと、私たちは全く歯が立たないと思うのぉ。

 でも、運良く才能(タレント)が凄いから、一般人には絶対に負けない。


 あなたがぁ、手に入れたその薬もぉ。

 

 あなたの運が良かったから手に入れられてカイリたちに使用したのぉ。


 恩を着せて何が悪いのぉ? あなたが持っていて、私たちは持っていない。運よくそれを手に入れたとして、私たちが持っていないものを使ってもらって、感謝しないことはないのぉ。

 だから、そんなに変に思い込むのはやめて頂戴」


「んん。だんなもいろいろ考えてたんだねー」


 と、能天気にカイリちゃんは佐々木の言葉を聞いていた。

 シャドーボクシングは辞めていて、額からたらりと汗をかいていた。

 5分も経ってないけどね。


「べつに、私を助けてくれた薬がいっぱいあって、たいりょうせいさん、できるものだったとしても

 りこんはしないから安心してー」


「えっと」


 言葉に詰まる。

 一人で抱え込んでいただけだったのかもしれない。

 少しだけ、安心した。スッキリはしないが、一緒にいるのはカイリちゃんの意思なのだと確認できたので、軽くなった。

 

「言いたいのはぁ、それだけかしらぁ?」


「まぁ、他にもあるけdーーーーーー『ピンポーン』ーーーーあ??」


 

 自宅に訪ねてきた最初の訪問者だった。

 会話の途中なのでイラッとしたが、流石に居留守を使うわけにはいかない。

 渋々インターホンの方まで歩いて、そこに映る数人のスーツ姿の強面たちを見て萎縮する。


「はい。誰ですか?」


『あ、どうも。私証券を扱う会社をやっておりまして。

 本日は投資の件でお伺いをさせていただきました』


「け、結構でsーーー「あけたよー」ーーーうう??」


 カイリちゃんがドアのロックを解除して、彼らを家の中に招いた。

 そりゃあ、カイリちゃんや佐々木さんを実力でどうこう出来る人間はほとんどというか、地上を探してもいないが、無用心なのが心配になる。

 俺がそこを支えてあげるべきなのだろうが、カイリちゃんの速攻攻撃には反応できないのが俺なのだ。


「なんで??」


「お金はね、つかわないといみがないんだよ?」


 その言葉は、俺は聞き覚えがあった。



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