ロリ巨乳でここはひとつ
これまで巻き込まれてきた命懸けの冒険が嘘だったかのように、修学旅行は極めて平和に進行されている。
現在は四日目の夜だ。
日程は五泊六日なのであと二日ほど残ってはいるが、この調子でいけば最終日まで問題なく過ごせるはずだ。
そう楽観できてしまうくらい、この四日間を頭空っぽにして楽しめていたとも言える。
直近の出来事で言えば、今日も学生らしいイベントがあった。
木刀が売られているお土産屋さんの前で風菜がゴネていて、カゼコに『そんなのいらないでしょ!』と叱られているところを、俺が『大和魂を思い出せ!』と言いながら風菜を庇ったりだとか。
結局最後は俺と風菜二人とも正座させられて結局木刀は買えなかったけどな! ガハハ!
……これ学生らしいイベントか? わかんない……知り合いに一般人が居なさ過ぎて……。
得られた情報は、風菜が俺と同じで誇り高きニポンの志を胸に秘めているという事だけである。後で一緒に木刀買いに行こうね、お姉ちゃんには秘密でね。
で、現在は宿泊先の旅館の一室だ。
魔法学園のクソ忙しい旅行スケジュールのおかげで、ホテルやらキャンプやら様々な場所で寝泊まりしてきた俺たち学生だったが、ここにきてようやく如何にも修学旅行っぽい宿泊先に訪れることが出来たわけだ。
もうみんなテンションマックスで枕投げ始めちゃってるからね。まだお風呂入ってないんだから落ち着いて。
「あれ、ポッキーどこ行くの?」
俺たちがいる場所はクラスの男子全員がぶち込まれた広い和室だ。
そこから出ようと襖を開けると、カバンの中のお土産を整理しているレッカに声を掛けられた。
「一階の売店で飲みモン買ってくる。れっちゃんも何かいる?」
「じゃあコーラで」
「オッケー、お汁粉ね」
「いやだからコーラ」
「はいはいジャスミン茶だろ? 分かってるって」
「お前さぁ……」
「ふはは」
流しつつ部屋を出ていく。
すると後ろから悲鳴が聞こえてきた。
どうやられっちゃんも大乱闘まくら投げブラザーズに巻き込まれてしまったらしい。
「覚悟しろレッカ・ファイア! お前を倒して今日からオレが本当の勇者だァ!」
「そ、そんな……大切なクラスメイトだと思っていたのに……」
やっちゃいなよ! そんな偽物なんか!
「闇に堕ちた仲間を救うのも勇者の役目だ……!」
「ぐはっ!」
「なにィっ!?」
「おいファイアが強すぎるぞ! 囲め囲め!」
意外とクラスの皆とも仲良さそうで安心した。
れっちゃんが彼らを全滅させる前までには戻りましょうかね。
◆
「やっ」
…………。
「なに?」
あ、固まっちゃってごめんね。
修学旅行先で自分の半身と鉢合わせた時の対応の仕方なんて持ち合わせてないからさ。
「……お名前、伺ってよろしいですか」
「マユです」
何で旅館にマユちゃんおるの。
「アポロが心配だったから。えへへ」
かわいい。まゆすき。
──じゃねえんだよ!!?
「意味わかんない意味わかんない。普通来ないだろ何でいるんだよ」
「いろいろと事情がありまして」
あまりにも急すぎて俺を思考停止に追い込んだ女の正体は、勇者と魔王の力によって生まれたもう一人の俺ことマユだ。
旅館の購買でちょうどコイツへのお土産を見てたら、ぬっと後ろから突然現れやがった。
背後霊の類だよお前……。
コイツとのやり取りが誰かに見つかると面倒になるため、とりあえず人気の無い場所まで移動することにした。
旅館の仲居さんですら来なさそうな端っこの、さらに人目に付かないであろう多目的トイレの中へと隠れてゆく。
なるべく周囲に気を配って移動したから見つかってはいないはずだ。
見られてたら本当にヤバい。
ロリを多目的トイレに連れ込む正当な理由なぞこの世には存在しないのだ。
修学旅行どころか最悪俺の学園生活が今夜終了してしまう。
「きゃっ♡ トイレに連れ込んでナニをする気なのっ」
「黙れ」
「アポロが冷たい。くすん」
この女すっかり調子が戻ってんな……。
元気になったこと自体はめでたいんだが、どうにも再会のタイミングが嚙み合わない。
「……」
「ん、なにアポロ。ジッと見つめて」
「いや、よく見たら結構ビジュアル変わったなって……」
改めて彼女の姿を眺めてみると、予想以上に外見の変化があったことに気づいて驚いた。
おそらくは色々な試行錯誤を経てこの姿にたどり着いたのだろう。
マユの見た目は既にほとんどコクからかけ離れている。
「髪も染めたのか」
「うん、茶髪は仲間内には誰もいなかったから。どうかな」
「似合ってんじゃない? オリジナリティ出てるし」
ヘアコーデに関しては小学生レベルで疎いから詳しくは知らんけど、誰とも被らない髪色にしたのはいい選択だと思う。
コクと違って髪を結っているのも特徴的だ。
「ツーサイドアップもいい感じだな。なんかふわふわしてるし」
「日々のお手入れのたまものです。触っていいよ」
「マジ? おぉ、やわっこい。モフモフだ」
猫を撫でる様に彼女を愛でていると自然に目が下へと向かっていき、ショートパンツに黒ニーソとかオタクが好きそうな恰好してんな……と思ったところで、一つだけ異様な何かが視界に映った。
ん? と。
違和感を覚えて視線を少し上げると、そこには彼女の上半身。
そして長袖のシャツに重ね着でニットのベストを着た上からでもわかる程の大きな膨らみが、そこにはあった。
「……??」
思考が停止した。
「ん……? んん……?」
意味が分からない。
「アポロ、どうかした?」
「いやお前がどうかしてないか? 何か変なのついてない?」
冷静に戻ってもやはりおかしい。目の錯覚などではなかった。
このロリにこんな”デカいなにか”など付いている筈がない。
コイツのベースはコクなのだ。
正真正銘、まごうこと無きスレンダーでドストレートなロリっ娘だったはずだ。
なのに……何だ……なにが起きている……?
「──あぁ、なるほど。アポロはコレが気になってるのか」
揺れてる。
「おっぱい大きくなったんだよ、私」
「胸は数日で膨らむモンじゃないんだが」
「正確には大きくした、だね。マユぱわ~です」
マユぱわ~って?
「魔王と勇者のパワー、略してマユぱわ~。修行を音無と部長に手伝ってもらってたら上手くコントロールできるようになったから、試しに形態変化をやってみたの。怪我を治せた力だし肉体の急成長も可能だと思って」
「あぁ……実験したら偶然胸がデカくなったのか、なるほどな」
「違うよ? 巨乳にしようと思って巨乳にしたの」
何でそうなるんだよ。
傷を治せるから胸をバインバインにできるって、それイコールになってないでしょ。
「どうせボールか何かを詰めてんだろ? 流石に不自然にデカすぎだ」
「んっ……」
「あれ?」
うわわわ本物だぁ……!
「もう。別に触ってもいいけど、次からはちゃんと事前に言って」
「二度と触りません本当に申し訳ありませんでしたごめんなさい!!」
流石にトイレの床に土下座できるほど肝は据わってなかったので、深々と頭を下げた。
コクとして頑張ってた俺と違って容易く巨乳属性を手に入れやがったマユが気に食わなくて、どうせボールか詰め物だと思ったから取ってやろうと考えたのが良くなかった。
俺は今日、ロリを多目的トイレに連れ込んで胸を触った犯罪者になりました。自首しなきゃ……。
「ていうかアポロ、ふざけてる場合じゃないよ。アポロの手を借りたくてここに来たんだってば」
「ちなみに俺はいま人生で一度しかない高校の修学旅行の真っただ中だよ」
胸を触ったことは謝るがいつもの面倒ごとはまた別だ。
少なくともこの旅行が終わるまでは物語みたいな事をするつもりはないからな。
凄く最低なこと言ってるのは分かってるけど勘弁してください! 高校二年生最後の秋なんです!
ゆるして!!
「それは私も理解してたけど……このままだと、あの群青って男の子が危ないんだ」
「群青?」
あいつはレッカのお兄さんと二人旅をしている筈だぞ。
何でここでその名前が出てくるってんだ。
「すごーく端折って説明すると、アポロの代わりにあの子が組織の残党に狙われるようになったの」
「悪の組織の残党ってまだ残ってたの……?」
「あいつらにレッカのお兄さんも怪我させられちゃって、やばい。数の暴力」
ゴキブリかよあいつら。
もういい加減そろそろ滅んでくれないかしら。
ロリの次はショタですか?
俺と同レベルの犯罪者集団だな本当に。
マフティーの名のもとに制裁を下すべきか、これは。
「いや、さすがに親友の兄貴と小学五年生の男児が狙われてるってなったら放っておけんわ」
「ごめんね。本当は私一人で何とかしたかったんだけど、アポロに対しての義理立てよりあの子の命の方が優先度高いと思ったから」
「そこまでストレートに言ってくるなら謝んなくてもいいよ?」
子供の命は地球の未来だからね、しょうがないね。
燃えるレスキュー魂!
「アポロ、レッカはどうするの?」
「あー……うん、せっかくだし協力してもらおうか」
もうこの際コクに変身して、マユの事はうまく誤魔化しつつダブルヒロイン体制にしてやる。
ハーレムだよ、やったねれっちゃん!
ふふふ……修学旅行に来てまでこんな事したくなかったぜ。
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