初心を忘れず 2



 で、こういった田舎に住む人々の生活を支えている、この地域で一つしかないスーパーに訪れたところ。


「……コク?」

「こんにちは」

「えっ。……こ、こんにちは」



 あ! やせいのレッカが あらわれた!



「──まさか、こんなに早く会うとはね……」

「ホントだね」


 とりあえず話は後に回して、お互いに買い物を済ませてから数分後。

 食材の入ったレジ袋をプラプラさせながら、俺はレッカと二人で、見るからに廃れた商店街を歩いていた。

 マジでド田舎な場所だけど空気がウマい。

 めっちゃ大都会の中心にある学園にいた頃とは大違いだ。心なしか気持ちが安らぐし、なんならレッカも無表情だけど目は穏やかだ。


 まるでいつもの休日に二人で散歩をするように、車通りが全くない道路の端を歩く。


「コク、この前はすまなかった。少し気が動転していたんだ」

「あれが当たり前。こちらこそ、何も言わずに去ってしまって、ごめんなさい」


 お互いに自分の非を認めて、歩きながら謝罪をする。

 たぶんレッカに非はないと思うけど。マジで色々とごめんな。


「レッカはどうしてこんなところに。学園は」

「部員が一人、謎の美少女に連れていかれたんだよ? 授業なんか受けてる場合じゃないでしょ」


 その節は本当にお騒がせいたしました。あの後輩ちゃんすっごく頼りになります。


「でも、理由はもう一つあるんだ」


 なんだろ。


「悪の組織から放たれた刺客が君たちを追っている。狙いがコクなのか、あの白い少女なのかは分からないけど……」

「もしかして、私たちを守るために?」

「勘違いしないでくれ。きみたちに同行してるオトナシを守るためだ」


 わぁ~! ツンデレっぽいセリフだぁ~~!!

 しかし確かにツンデレっぽいセリフなんだが、状況を鑑みるとガチの可能性もあるんだよな。コクに対しての好感度ってどうなってんだろうか。


「僕らはオトナシを奪還して、君たち二人も保護するつもりだよ。……できれば協力して欲しいところだけど」

「無理。あなた達と一緒に居て目立ってしまうと、ヒーロー部だけでは対処できないほどの、組織が手を回した大勢の人間から一気に狙われることになる。加えて警察の上層部には組織のスパイもいるから、最悪の場合は警察全体も相手取ることになって、ヒーロー部全員がお尋ね者になる可能性も捨てきれない」

「……スパイに、情報操作の可能性……大変な事態になってるな」


 隠すべき秘密はそのままにするが、共有した方がいい事実はどんどん教えていくつもりだ。

 この旅路においては、レッカたちヒーロー部は壁であっても敵ではない。共通の敵である組織の情報は互いに知っておいた方がいいだろう。


「……部長に言われてようやく気付いたよ。きみは、ヒーロー部を争いから遠ざけるために、あぁ言って僕の前から姿を消したんだな」

「…………」


 な、何の話です……? ライ会長どんな説明したん。

 一旦そういう事にしといた方がいい感じなのかな。


「いや、あの白い少女の為か。……それにしたって不器用すぎないか? 事前に言ってくれたら、何だって協力するのに」

「違うし。未来、見えてるし。レッカのことなんか嫌いだし、勘違いしないで。わぁ、殺される」

「おいおい……」

 

 割と勘が鋭いタイプなのか、ガバガバな嘘は割と早い段階でバレるらしい。未来が見える云々は、この様子を見るに半分くらい信じてなさそうだ。あえてバラしたりはしないけど。


「レッカ、あそこのベンチで、少し休もう」

「うん」


 俺は自販機でジュースを二本買い、ベンチに座っているレッカに向かって、片方を投げた。


「ほれ」

「んっ」


 やはりというか、しっかりキャッチするレッカ。いつも通りだな。


「……コク。買ったジュースを投げて渡すの、ポッキーの真似か?」

「えっ」


 やっべ、すげー普通にアポロムーブしてたわ。

 別にこれくらいなら大丈夫だろ。俺とコクは知り合いの設定だし。


「そ、そう」

「ハァ。きみの様子を見るに、あいつも元気そうだな。どうせ連絡は取り合ってるんだろ」

「……レッカ、なんか落ち着いてるね」


 数日前の激昂してたアレから想像できない程に冷静だ。

 もしかしたら俺に謎の美少女ムーブで引っ掻き回されすぎて、いろいろと慣れてしまったのかもしれない。

 

「一歩離れた位置から」

「……?」

「冷静に俯瞰して物事を見ろって意味。そうしろって部長に説教されたんだ。……僕もまだまだ未熟だったよ」


 どうやらここ最近の出来事やライ会長とのイベントも相まって、普通の巻き込まれ型ラノベ主人公から、一皮むけて成長したらしい。


「それじゃあ俯瞰しているレッカは、これから何をすればいいか、見通せているの?」

「ただ闇雲に逃げているようには見えないし、恐らくキミたちには目的地がある。だから護衛というわけではないけど、そこにたどり着くまでは、キミたちを付け狙う敵は僕たちが相手取るよ」


 おいおいおい一皮むけて成長どころじゃねぇぞ。めちゃめちゃ有能キャラになってんじゃん。お前だれだよ。俺の知ってるレッカは、米を炊くときに水の分量を間違えておかゆを作っちゃうようなヤツなんだぞ。あのポンコツを返せ。


「……その代わりと言ってはなんだけど、ポッキーを返してくれ」

「返せ、と言われましても」

「居場所や連絡先を教えてくれるだけでもいい。親友に会いたいんだ」

「…………」


 し、親友だなんて照れるぜ、ばかやろーめ。目の前にいるわあほ。

 正面切って親友って言われたせいか、ちょっと顔が熱くなってきた。やめろよ、俺がチョロいみたいじゃん。ぶっ飛ばすぞおまえ。

 どうしようこれ、コナンくんみたいに正体を隠しながら電話で知り合いに生存報告をする流れか?


「……彼は今、安全な場所にいる。けれど、連絡を取り合うことで場所が割れてしまうと、逃げ場がない」

「でもコクは連絡しているんだろ?」

「頻繁に話しているわけではない。彼とは心が通じ合っているから、お互いにやるべき事は常に理解している」

「心……」


 心が通じ合っているというより、二人で一人だからな。てか一人だわ。理解してて当然と言える。


「……き、聞いていいかな?」

「なに」

「その、二人って……つ、付き合ってんの?」

「ブフッ」


 思わずジュースを吹き出してしまった。

 何だその質問中学生かよ。面白過ぎるわ。


「げほっ、ごほ! ……っぅ゛ぁ……はぁ、もしそうだったら?」

「やっぱり何でもない……」

「レッカ、かわいいね」

「何だよ急に!?」


 突然有能なキャラになったかと思ったが、年相応な部分があっさり出てきて安心した。やっぱ変わってないわコイツ。


「物理的に不可能だから、安心して」

「なにその言い訳……ていうか、別に二人が付き合ってようが僕には関係ないし」

「じゃあどうして聞いたの?」

「うっ」


 やばいマジでニヤつく。その弄りやすい反応やめてくれ。楽しくなっちゃうから。

 ハーレムはおろかヒロインすら居ない俺が、お前の先を越すことは絶対にないから安心しろよ。


「……ポッキーの連絡先は教えてくれないんだな?」

「私からも連絡はしていない。あっちが大丈夫だと判断した時に限り、非通知で繋がってくる。だからレッカの方にも、近いうちに連絡が来ると思う」

「そうか……それなら、いいけど」


 こんな俺の事を心配してくれるレッカに感謝しつつ、飲み終わったジュース缶をゴミ箱に投げ入れた。そろそろ帰ろうかね。

 あと、明日にでも男の状態でレッカに電話してやるか。生存報告的な意味も含めて。


「そうだコク。これ、ジュース代」

「いい。さっきのはあなたへのお詫びだから」

「お詫びって……」

「すべてが終わったら全部話して、贖罪として何でも言うことを聞く。だからそれまでは、もう少し──秘密にさせて」


 そう言って僅かに微笑む。

 デフォルトが無表情なコクとしては珍しい微笑を見せたせいか、レッカは目を見開いて驚いた。

 久しぶりに美少女ごっこをした気がする。……何かもう少しやりたい気分があるな。


「……コク。きみは──」


 言いかけた瞬間、レッカのスマホが着信した。

 それに応答した彼は、真面目な表情に切り替わる。


「……はい、了解です。すぐに向かいます」

「どうしたの」

「部長から。この町の入り口付近にあるコンビニで、怪人が現れたらしい。しかも子供を人質に取ってるって」

「……なら、私も行く」

「へっ?」


 俺の提案にレッカは素っ頓狂な声を上げた。

 ここらへんで一度共同戦線を張って、コクの好感度を上げておきたい気持ちがある。

 わざわざ謎の美少女に変身して、この物語に割り込んできた者として、そこには譲れない信念があった。


「私が死角から魔法の矢で、怪人を攻撃する。それで隙が出来た瞬間、レッカが子供を救出して」

「大丈夫なのか?」

「顔はフードで隠す。それにここで子供を見捨てたら、オトナシに顔向けできなくなる」


 後輩に顔向けできないってのは本当だ。協力してもらってる以上、アイツができない分のヒーロー活動はなるべく代わりに俺がやる。


「……ちゃんとオトナシの事、考えててくれたんだな。嬉しいよ」

「うん。でもレッカのヒロインなのに、いつの間にか奪っちゃってゴメンね?」

「言っていい事と悪いことってのがあるんだぞ」

「寝取りだぁ~、ざまぁみろハーレム男~」

「ケンカ売ってるんだな……?」


 レッカのハーレム事情を逆手にとって弄り倒すとかいう、まるで男の姿だったときの様なダル絡みをしつつ。

 早急に現場へ駆けつけ、見事なコンビプレーで子供を救出し、ついでに怪人もやっつけたのであった。俺たち二人が手を組めば、勝てない敵などいないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る