竜血のフランヴェルム参上!?

飛来し竜血

 はなちゃんの鑑定を終えた僕たちは、改めてはなちゃんに乗って村に帰ることにした。


 アトラスシティーから出たところで、街道をのんびりと歩くはなちゃん。

 その背中はどこか嬉しそうに揺れている。


「今日は一段と揺れるね~」

「だけどなんだか心地いいです」

「僕も同感だよルナちゃん」

「パオ」


 そう言いながら僕がその背中をなでてあげると、はなちゃんは嬉しそうに長い鼻をあげた。


「そうだ、帰ったらまた水遊びしようよ。こんないい天気だもん、絶対気持ちいいよ!」

「パオン!」

「それいいですねっ。ルナもまた一緒したいです!」


 手を合わせて目を細めるルナちゃんに、セレナさんが食いつく。


「え、なになに!? なんか楽しそうなんだけどっ。お姉ちゃんも入れてよ~!」

「え~、ルナはユウキくんと二人がいいのに~」


 頬をプクーっと膨らませるルナちゃんを、僕はなだめた。


「まあまあルナちゃん、楽しいことはみんなでやったほうが楽しいと思うよ」

「ゆ、ユウキくんがそう言うのなら……」

「パオ」


 渋るルナちゃんをはなちゃんが鼻でなでたその時だった。


「ブロロロロロ……!」


 重低音の唸り声をあげるはなちゃんが巨体を硬直させて、向こうのある一点に鼻を向ける。


「え、どうしたのはなちゃん? ――あれ!?」


 はなちゃんに質問した矢先に、地平線の彼方から赤い光の点みたいなのが目に飛び込んできた。


「何だろう……!?」

「ルナ、なんだかイヤな予感がします……!」

「……来る!」


 そして僕たちの目の前で赤い光の点が地面に突っ込んだ。


「うわあああ!!」


「ひゃあああああ!?」


「ううっ!!」


「プオオオオオオ!!」


 とてつもない衝撃の余波で、僕たちは目を開けていられない。

 というかはなちゃんにしがみついてないと吹き飛ばされそうだよ!


 衝撃波が収まったところで目を開けると、目の前の地面にクレーターのようなくぼみができていた。


「これは……!」


「あ、あ、あ、あ……!」

「――ルナちゃん?」


 後ろを振り替えると、ルナちゃんが愕然と口を開け放って震えている。


 それによく見ると彼女の脚を包む白いタイツがじんわりと湯気を放って濡れていた。


 もしかしてルナちゃん、お漏らししちゃったの……!?


 背中の上でお漏らしされちゃったはなちゃんを見てみると、彼女は突然できたクレーターの中心をにらみつけている。


「――ほう、わらわの姿を恐れぬどころか逆ににらんでくるとは」

「この声は……!?」


 クレーターの中心で仁王立ちしていたのは、見たこともない姿をした女の子だった。


 頭の下で二つに結んだ、ボサボサの紅い髪。

 その頭には湾曲した一対の黒い角が生えている。

 ほんの少しの布に包まれただけの露出が激しい服装は、見てるこっちが目のやり場に困るほど。

 背中のコウモリのような黒い翼と尻から伸びるトカゲのような尻尾が、まるでドラゴンのようだ。

 そして額には赤い結晶のようなものが。


「ま、魔物……!? でも人の姿してるよね……?」


 ドラゴンのような女の子はスーッと浮き上がって、瞠目する僕とはなちゃんの前に移動する。


「ブオオン!」


 はなちゃんが長い鼻を振り下ろすも、ドラゴンの女の子はそれを片手で受け止めた。


「プオオ!?」

「そんな!」

「ふむ、なかなかの力じゃなあ。ほれっ」


 ニカッと笑うドラゴンの女の子は、軽くはなちゃんの鼻を払う



「ズオオオオオ!!」

「まあ待て待て、ちぃと話でもしようではないかっ」


 落ち着き払って話をしようとする女の子に、激昂するはなちゃんが突撃しようとするのを僕が慌てて止める。


「待ってはなちゃん! とりあえず話だけでも聞いてみようよ。――君は何者なの?」

「わらわか? フランヴェルム、ドラゴンの血を身に宿す|竜人(ドラグノイド)じゃ!」

「フランヴェルム、嘘でしょ……!?」


 この名前を聞いて、セレナさんの顔がたちまち青ざめた。


「知ってるの、セレナさん?」

「竜血のフランヴェルム、人々はやつをそう呼んでいるよ。あの気迫からタダ者じゃないとは思っていたけど、まさか竜血だなんて……! 確かその気になれば国の一つや二つ一瞬で消し飛ばすだけの力を持つって噂があるけど……!」

「え、それ本当なの!?」


 すっとんきょうな声をあげた僕に、セレナさんは重々しく首を縦に降る。


 僕にはちょっと変わった女の子にしか見えないけど、そんなに危険な存在だなんて……。


「あ、あ、あ……竜、血……!」


 ルナちゃんに至っては顔から血の気が失せて目も虚ろ、おまけに呂律もまわっていない。


「それで、竜血のフランヴェルムさんが僕たちに何の用なの?」

「ほう、わらわを恐れぬか。やはり暴食のグラタンに勝ったというのも間違いではなかったようじゃ」

「ぐ、グラタン!?」


 忘れもしない、グラタンといえばこの前僕たちがやっつけたあの悪いドラゴンじゃないか!


 もしかしてフランヴェルムってグラタンの仲間なのかな……?


「――グラタンの仕返しに来たの?」


 僕の質問にフランヴェルムは肩をすくめ、素っ気なく息を吐いて応える。


「まさか。人間ごときに負ける弱いドラゴンなど、わらわの眼中にない。今興味があるのは他でもない、お主じゃ!」


 そう告げたフランヴェルムが指差したのは、なんと僕だった。


「ええっ、僕~!?」


 フランヴェルムに突然指名された僕は、キョロキョロとしてうろたえてしまう。


「そうじゃ! ――ときにお主、名を何という?」

「ゆ、悠希だけど……」


 恐る恐る名乗ってみると、フランヴェルムは豪快に笑って見せた。


「わーっはっはっは! ユーキか、いい名前じゃのう!」

「そ、そうかな~?」


 いい名前と言われて悪い気はしないよね。


 だけどフランヴェルムの次なる言葉で僕は凍りつくことに。


「それではユーキよ、わらわと力比べをしてみないか?」

「――え?」


 国の一つや二つ簡単に滅ぼせる相手と力比べたまなんて、勝てる気がしないんだけど!?


「はなちゃん、逃げよう! こんな相手に僕たちが敵うわけがない!」

「パオ!」


 はなちゃんに踵を返すよう指示したけど、方向を変えたところでいつの間にかフランヴェルムがまた正面についていた。


「そののろまな足で逃げられるとでも思うか?」


 ニシシと不敵に笑みを浮かべるフランヴェルムの言うとおり、はなちゃんの足で彼女から逃げきることは無理みたい……。


「わらわとて本気は出さんよ。ちぃと力比べに付き合ってくれるだけでよいのじゃ」

「ゆー君、どうする……?」


 セレナさんが相談してくるけど、僕は腹をくくらざるを得なかった。


「分かった。君との力比べ、受けてたつよ」

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