適正鑑定

 アトラスシティーの中心に向かうと、そこには尖った屋根の白く神々しい建物があった。


「あれが教会か~。ずいぶん立派だけど、具体的にはどんな場所なんだろう?」


 十字架の代わりにバツ印のオブジェがついた教会に目を見張っていると、セレナさんが僕の疑問に答えてくれる。


「適正鑑定もそうだけど、教会の神官様に大きな怪我や病気を治してもらうこともあるんだよ」

「へー、病院みたいな役割もあるんだ~」

「あと身寄りのない子供たちを引き取ったりもするかな~」

「教会っていろんな役割があるんですね」


 そんなことを話していた矢先、大怪我をしたような若い男が担架で教会に運ばれるのが目に入った。



「あの若いのも魔物にやられたんかね~?」

「最近ドラゴンの仲間があちこちで出てるらしいよ」



 周囲の人たちのヒソヒソ話をするのが耳に届いて、僕はここが異世界であることを改めて実感する。


 ドラゴンなんてのもいるんだ……。しかもそんなドラゴンと戦う人たちもいる、まるでゲームかファンタジーみたいだよ。


「どうしたんですかユウキくん?」

「あ、うん。なんでもないよルナちゃん」


 ルナちゃんの声かけで我に返った僕は、改めて教会に足を踏み入れることに。


 入り口のそばには受付らしい黒の修道服を着たシスターさんたちが待っていた。


「この教会に何かご用でしょうか?」

「ああ。この子の適正鑑定をしてもらいたくてな」

「そうですか、分かりました、ホロスコープ神の加護のままに」


 ゲイツさんの申し出に、シスターさんは指で何やら印を結んでから案内を始める。


 もちろんはなちゃんはセレナさんに任せて教会の前に置いていくことにした。


 真っ白い廊下を歩いていると、僕たちは赤い扉の前で止められる。


「ここから先はご本人様のみ入室が許されております。どうぞ」


 それから僕一人が赤い扉を通過すると、そこはステンドグラスの窓が目を引く一室だった。


 部屋の中心に歩くと、ちょうど天井から差し込む光に照らされた台座の前で止められる。


 そこにはゲームの回復担当みたいな白い服装をした女の人が待っていた。


「初めまして、私は適正鑑定を務めさせていただく神官のトレインと申します」

「僕は悠希です、よろしくお願いします」


 にこやかに微笑むトレインさんを見て、僕の緊張も少しほぐれる。


「それでは台座の水晶玉に手をかざしてください」

「はい」


 トレインさんのいう通り僕が台座の水晶玉に手をかざすと、それはぼんやりと微かな光を放った。


「これは……」


 それを見たトレインさんは、なんだか微妙そうな顔をしている。


「あれ、どうしたんですか?」

「その……申し上げにくいのですがユウキ様が魔法をお使いになるのは難しいかと」


 顔を伏せるトレインさんの言葉に、僕はガッカリしてしまった。


「僕は魔法が使えないんですか……」

「申し訳ございません。適正自体は全属性に恵まれているのですが、なにぶんにも魔力量が非常に乏しく初級の魔法さえお使いになるのが難しい状態でして」

「そうですか……」


 魔法を使えないと宣告された僕は、肩を落として退室する。


 そしてシスターさんの案内で教会を出ると、待っていたルナちゃんたちが興味津々に寄ってきた。


「ユウキくん、鑑定の結果はいかがでしたか?」

「それなんだけどね……」


 僕が鑑定で分かったことを話すと、ルナちゃんたちも残念そうな顔に。


「そうでしたか、それは残念ですね……」

「うん、僕も魔法を使ってみたかったなぁ」

「気にすることないよ、魔法なんか使えなくってもゆー君はゆー君だもん」

「セレナよ、それは何の慰めにもならないのでは?」


 気がつくと僕の周りはどんよりとした空気に包まれていた。


「ごめんなさい、僕のせいで皆さんまでガッカリさせてしまって。やっぱり魔法のない世界から来たんだもん、魔法を使えなくて当然だったのかもしれません」

「ユウキくん……」

「でも気にしないでください、僕も魔法なんかなくってもやっていけるよう頑張りますから」


 空元気を張ってはみたけど、やっぱりみんな浮かない顔のままで。


 すると今まで外で待ってくれていたはなちゃんが、僕の身体に長い鼻を絡めてきた。


「あはは、くすぐったいよ~。――そうだよね、はなちゃんがいてくれるなら僕は大丈夫」

「パオ」


 僕がその鼻をなで返して、嬉しそうに鼻を曲げるはなちゃん。


「はなちゃんはすごいです、しょんぼりしてたユウキくんをまた笑顔にしました」


 ルナちゃんに指摘されて、僕は自分の顔に手を触れる。


「あ、ほんとだ」


「パオ」


 もしかしたらはなちゃんの動物としての不思議な何かが、僕を元気づけてくれたのかも。


 適正鑑定が残念な結果に終わったところで、僕たちははなちゃんに乗って村に帰ることにした。


 だけどルナちゃんの様子がちょっとおかしい、ずっとうつむいているんだ。


「どうしたのルナちゃん、まだ浮かない顔してるね」

「そ、そうですか? ……ルナ、ユウキくんに何もしてあげられませんでした。お姉ちゃんやはなちゃんみたいに、ルナもユウキくんを励ましたかったのに」

「ルナちゃん……」


 また気まずい雰囲気になってしまったまま村に到着したんだけど、様子がおかしい。


「あれはまさか、ドラゴンの集団か!?」


 ゲイツさんの言葉通り、村には見慣れない二本足のトカゲみたいな生き物が押し寄せていた。


 あれがドラゴン……!?

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