フレッシュな果物と新しい衣装

 広場の中心にある噴水のへりに腰を掛けた僕たちは、籠にてんこ盛りの果物を食べることにした。


 多分リンゴとブドウだと思うんだけど、どれも甘い香りがして美味しそう。


 最初にリンゴを掴み取ったのはセレナさんで、ためらうことなく丸かじりにした。


「ん~っ! みずみずしくて美味しいね!」

「ブドウも甘酸っぱくて美味しいです」


 隣でルナちゃんもブドウを一粒ずつ摘まんで朗らかな笑顔になっている。


 僕も食べてみよっかな。


 まずはリンゴを掴んでかじってみると、口の中にみずみずしい果汁がジュワっと溢れる。


「うん、美味しい! はなちゃんも食べてみなよ!」

「パオっ」


 みんなが食べるのを待っていたはなちゃんにリンゴを渡すと、彼女はそれをまるごと一口で食べてしまった。


「プオン」

「はなちゃんも美味しそうに食べるね~」

「そうですね、お姉ちゃん。はなちゃん、ブドウも美味しいですよ?」


 今度はルナちゃんが渡したブドウを、はなちゃんはこれまた一房まるごと口に放り込む。


「わぁ、一口です~!」


 豪快な食べっぷりに目を丸くするルナちゃんの前で、はなちゃんは嬉しそうに長い鼻を揺すった。


「ブドウも美味しそうだな~。ルナちゃん、一粒ちょうだい?」

「はい、どうぞ」


 ルナちゃんからもらった一粒のブドウを口に放り込むと、甘酸っぱい果汁が口に染み渡るようで頬が緩んでしまう。


「ブドウも美味しいね!」


 そんなこんなで楽しく果物を食べた僕たちは、本題の洋服を買いに向かうんだけど。


「こらはなちゃん、街路樹の枝をもいじゃダメっ!」

「ブロロロロ……」


 少しでも目を離すとはなちゃんが街路樹の枝をもいで食べようとするんだ。


「あんなに果物を食べたのに、まだ食べるというのかね?」

「お父さん、はなちゃんはあんなに身体が大きいからね~。はなちゃんもまだ満足してないんだよきっと」


 セレナさんのいう通り、ゾウはとっても大食いな動物。


 本には一日に百キロ以上の植物を食べるって書いてあったっけ。

 今後はなちゃんの食事どうしよう……。


 少し頭を悩ませてるうちに、僕たちは洋服屋さんに到着した。


 看板の文字は棒人間か何かみたいでさっぱり読めないけど、入り口の隣に服を着せたマネキンみたいなのがあるからきっとそうだ。


 セレナさんにはなちゃんを任せてお店に入ると、中はところ狭しと洋服が陳列されている。


「いっぱいあるんだね~!」


 たくさんの洋服に目移りしていると、お店の人が出てきて声をかけられた。


「いらっしゃいませ。どのようなお洋服をお探しですか?」

「それじゃあこの子に合った普通の服を頼む」

「かしこまりました。それでは坊っちゃん、採寸をしますので奥へどうぞ」

「あ、はいっ」


 お店の人に促されて僕は奥のスペースに足を運ぶ。


「それでは採寸しますね。くすぐったかったら言ってください」

「はい」


 それからお店の人は目盛りのついた紐で手際よく僕の身体を採寸してくれた。


 ちょっとくすぐったかったのは内緒だよ。


 少し離れたお店の人が持ってきたのは、白いブラウスとサスペンダーのようなものがついたハーフパンツ、それから外出用の青い外套だった。


 試着してみるとこれがビックリするほどピッタリで、まるで素肌でいるような着心地だよ。


「いかがですか?」

「はい、すごくいいです!」

「それでは連れの皆様にもお見せしましょう」


 この服装のままみんなの前に行くと、ルナちゃんとゲイツさんが称賛してくれた。


「ユウキくんすごい似合ってます!」

「これなら村にいても自然だな」

「えへへ、ありがとうございますっ」


 こうしてこの服一式に改めて着替えて、似たような服もいくつかゲイツさんに買ってもらった僕は、その流れで靴屋さんにも足を運ぶ。


 そこで僕は新しく茶色いブーツを買ってもらえることになった。


「もうこれで立派なターラス民だねっ」

「いやー、本当にありがたいですよ~」


 セレナさんに頭をなでられて、僕は少しこそばゆいような嬉しいような感じになる。

 するとはなちゃんも負けじと鼻で僕をなで始めた。


「うひゃあ、はなちゃんもくすぐったいってば~!」

「はははは! 君たち本当に仲がよろしいっ」

「ルナもですよねっ」


 ルナちゃんまで僕の腕にひしっとしがみつく。


 こんなに可愛い女の子に密着されるなんてちょっと照れ臭いけど、みんなと仲良くなれて何よりだよ。


 ついでに寄った雑貨屋さんで腰ポーチをゲイツさんに買ってもらった後、ふとセレナさんがこんなことを言い出す。


「そうだ、せっかくならゆー君も教会で適正鑑定してもらおうよ!」

「てきせいかんてー?」


 僕が首をかしげると、セレナさんは指を立てて説明を始めた。


「さっき魔法を使うのに適正が必要だって言ったよね。その適正を教会が鑑定してくれるんだよ~」

「そうなんだ!」

「ルナも昨年鑑定してもらいました!」


 身を乗り出すルナちゃんに、僕は質問する。


「ルナちゃんはどんな魔法の適正があるって言われたの?」

「ルナはね、光の魔法に適正があるってなったんです」

「ルナってすごいんだよ。光の適正がものすごく高くて、頑張れば上級の光魔法も使えるようになるんだって!」

「もうお姉ちゃん~、ルナには光以外の適正はないんですよ~」


 自分のことみたいに得意気なセレナさんに、ルナちゃんは気恥ずかしそうだった。


「魔法か~、僕はどんなのが使えるんだろう?」


 まだ知らない自分の可能性に、僕は心踊ったんだ。

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