第46話 キャンプ編 part.1
☆キャンプ編 登場人物☆
木下真理:私
桜田優太:幼馴染
一橋達也:幼馴染の親友を演じている
荒木真子:親友
鈴木君:クラスメイト
田中君:クラスメイト
夕立あさひ:1年2組の生徒
ロッジの管理人のおじいさん
天満梨花:友達。女優。
卯月 千草:天満梨花マネージャー。
========
6月11日。
私は因縁の場所に行くことになった。
対策案は2つ。
梨花ちゃんのマネージャーの卯月さんに来てもらって、夜は近くのホテルに泊まる案が一つ。
もう一つは、カメラを仕掛けて一橋達也を罠にかける案。
私を襲う動画を撮影し、それをネタに退学に追い込む。
私は後者を選択した。
「気をつけてね真理ちゃん。私も行ければよかったんだけど。あとこれ、良かったら使って」
出発する前の日、私は天満梨花ちゃんにプレゼントを渡された。
「ありがとう。梨花ちゃん」
彼女から受け取ったプレゼントを、私は、金属バットと一緒にスポーツバッグの中にしまって持ってきた。
ロッジに向かうのは、全員クラスメイトで全部で6人。
男子が4、女子が2だ。
男子は一橋達也に優太君。それと鈴木君と田中君。
女子は、私と荒木真子の2人だった。
新幹線で3駅。それから車で迎えに来てくれるらしい。
全員が新幹線に乗り込んで、おのおの好きな場所に座る。
「ねえ真理。私、達也の隣に座ってもいい?」
真子が私に断って来たので、私は苦笑いしながら「いいよ」と答えた。
気がついた時には、彼女は一橋達也と付き合いだしていた。
アイツはヤバいヤツだとコンコンと説明したのだけど、全く聞く耳をもってくれなかった。
これ以上言うと、私と真子の仲に亀裂が入りそうだったので、今はもう放置している。
けれど前の記憶をあわせても、真子が辛そうにしている記憶はなかった。
もしかしたら、一橋達也は本当に、真子と真面目なお付き合いをしているのかも知れない。
なんてことあるはずがないな。
きっと裏があるはずだ。
私は、優太君とはあえて別の席に座った。
もう遅いけど、それほど仲が良くない事をアピールしておきたい。
時々優太君が、こっちをチラチラ見てくるのが可愛い。
いますぐ抱きしめてあげたい気持ちを押さえて私は窓際の席に座る。
窓の景色を見ているうちに、私はつい、ウトウトしてしまった。
昨日は緊張であまり眠れなかったのだ。
「優太さん。私、早起きして作ってきたんですよ。良かったら食べてください」
ん? 待って。
……聞いた事のある声が聞こえる。
優太君の方を向くと、スレンダーな女の子がお弁当片手に優太君に迫っていた。
「口を開けてください。はい、あーん」
あさひちゃんだ。
あさひちゃんがいる。
なんで? 彼女、呼ばれてないよね?
記憶をたどっても、前回の記憶であさひちゃんがいた記憶はない。
「おい……木下真理……」
背中にゾクリと悪寒が走る。
低く冷たい声。
「面白い事になってるじゃねえか……あのかわいい子は誰だよ?」
「知らない。たぶん通りがかりの女の子じゃないかな」
「へー。桜田優太君ってけっこうモテるんだね。通りがかりの人に弁当あーんしてもらうんだ」
「……別にいいでしょ」
「わかってるよ真理。心配なんだよな? あの、細くて可愛い女の子が、俺に酷いことされないか心配で心配で仕方ないんだろ? 大丈夫だ。安心しろ」
彼はそう言うと、私の隣に座り、
「優太に関係無いやつなら何もしねえよ」
「隣に座らないで」
「しかしお前も馬鹿だよな。罠だってわかってるのにノコノコやってくるんだからな。優太くんのお誘いを断われなかったんでちゅか? 残念なオツムでちゅねー」
「うるさい」
「さてあの子に聞いてこようかな。優太のお友達なのかどうか。親友しても気になるところだしな」
「チッ」
私は舌打ちし、一橋達也の横をすり抜けて、優太君とあさひちゃんの間に無理やり座った。
席がないので、あさひちゃんの膝の上だ。
「痛い痛い! 真理さん何するんですか!? そこ席じゃないですよ!?」
「あさひちゃんって、優太君と無関係な女の子だよね? お願い、話を合わせて!」
そう言って、お願いするように両手をあわせたが、
「何言ってるんですか? 私は優太さんの友達です」
「あさひちゃんが心配なの」
「意味がわからないです」
「お願い。他人のふりをして」
「嫌です。彼女でもない人に、とやかく言われる筋合いないですから」
「私、優太君の彼女だから」
「は?」
と、あさひちゃん。
仕方ない。こればかりは仕方ない。
「そうだよね? 優太君?」
私が聞くと、
「……う、うん」
戸惑いながらも頷いてくれる。
さすが優太君だ。
いますぐ抱きしめたい。
私は、あさひちゃんの方を向いて、
「だからね。あさひちゃん。悪いけど、帰ってくれるかな? 他人ってことで。GO HOMEだよ」
あさひちゃんは、鬼のような形相で私を睨みつけ、
「私は他人じゃありません。家にも帰りません」
「他人じゃないって事はお友達なのかな? だったら一緒に来なよ。湖畔のロッジでBBQしたり美味しいもの食べたりするんだよ。楽しいよ。同じ高校の生徒かな?」
時間切れ。
あさひちゃんはもう、ヤツの新しいターゲットだ。
「彼女は帰るんだって」
せめて今回は巻き込まれないでほしい。
私はそう願いを込めていったが届かなかった。
「行きます」
彼女は答えた。
―
一橋家で雇っている、ロッジの管理人のおじいちゃんが運転するマイクロバスに乗り換えて、私たちは目的地に向かって走り出した。
「真理。僕たち付き合ってるんだよね?」
「……うん」
さきほどからもう5回目だ。
よほど嬉しかったんだろうな。
ごめんね。この2月間で3回は断ってたからね。
念願が叶って嬉しいんだろう。
私も嬉しくないといえば嘘になるけど、時々こっちの様子を見てくる悪魔がいる以上、迂闊に嬉しそうな顔は見せられない。
「真理さん。席変わってくださいよ」
あさひちゃんが、私の顔のすぐ横で言った。
「無理だよ。運転中は席を立つのは危ないんだから」
「なんで真理さんが真ん中なんですか? 優太さんが真ん中に座ればいいじゃないですか?」
「……山の中だから……」
ボソッと優太君が呟いた。
意訳するとこうだ『バスが高い所を通るかもしれないから、高所恐怖症の真理を窓際に座らせられない』
なんてイケメン。しびれるほどカッコいい。
でもその代わり、ずっとあさひちゃんに睨まれ続けた。
―
マイクロバスを降りると大きな湖が見えた。
まずは荷物を部屋に置くことになり、ロッジへと案内された。
玄関をはいると、暖炉のある大きな広間があり、大きなソファーやテーブルが置いてある。
壁には大きな鹿のはく製や、優勝トロフィーのようなものが並んでいた。
私にとっては、吐き気を催すほどトラウマになっている場所だ。
「ここは親父がよく使うロッジなんだ。優勝カップとか壊さないでくれよ。親父に怒られちまう」
ヤツが笑いを取ろうとして滑った。誰も笑わない。
「いっぱいあるね」
気を使って優太君が言うと、一橋達也は頷いて、
「親父のやつ、ゴルフが趣味なんだよ。いろんな大会で優勝しててさ、特に凄いのはこのハワイでの大会だ。優勝賞金がなんと1000万。このトロフィーを一番大事にしてて、ちょっと動かしただけで、親父のヤツ怒り出すんだぜ」
「すごい。気を付けないとね」
「ああ、頼むぜ親友」
吐き気がする笑みで、一橋達也は優太君の肩を叩いた。
奥には小さな二人部屋があって、前回と同じ部屋割りになった。
『私と真子』『優太君と一橋達也』『鈴木君と田中君』
前回と違うのは、あさひちゃんが参加してきて、彼女は一人部屋を与えられていることだ。
心配だな。
「行こうよ真理。お昼ごはん神戸牛のお弁当だって。楽しみだね」
「ごめん真子。先に行ってて。ちょっとやることあるから」
「わかった」
私は部屋の中を一通りチェックして、持ってきたカロリーバーを食べる。
さすがに水道水は大丈夫だろうけど、それ以外は持ってきたもの以外を口にするつもりはない。
私は入口に鍵をかけて部屋を出た。
お弁当は『さっきお菓子食べちゃったから』と言い訳して食べなかった。
これからみんなで外に遊びに行くというので、一度部屋に戻る。
スポーツバッグから水筒を取り出そうとして違和感に気付く。
……バッグの中の物の位置が変わっている。
何度も確認したので間違いない。
さっき、ヤツが広間を出ていったタイミングがあった。
おそらくあの時だ。
当然合鍵はあるとは思っていたが、まさかここまでするとは。
これでもう、持ってきた食べ物も安全じゃなくなってしまった。
そして何よりもマズイのは、
……私の金属バットが無くなってしまっていた事だ。
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