第41話 マネージャー




 いくらなんでも早すぎる。


 夕立あさひと桜田優太が出会うのは、高校に入ってからのはずだ。


 それが入学前の春休みに出会うだなんて。


 バタフライエフェクト? 私が前の時とは違う行動をしたから歴史が変わった?


 急ごう。


 あさひちゃんがもし優太君と付き合いだしたら、またあの歴史が再現されてしまう。



「ねえ優太君。なにか私に言う事ない? 例えば夕方に降る雨の事とか、朝に昇る太陽の事とか」


「……天気の話? 今日は一日晴れるらしいよ」


「そうじゃなくて。実は見ちゃったんだよね。優太君が可愛い女の子と話してるの」


「?」


 しらを切るつもりだろうか。


 いや、優太君はそんな事が出来る人じゃない。


「夕立あさひちゃん、て知らない?」


 私はストレートに質問した。


「あ、知ってるよ。道端でぶつかっちゃって迷惑をかけたんだ。でもどうして真理がそれを?」


「だから見てたんだって。で、どうするつもりなの? 彼女と付き合ったりするの?」


「それはないよ! ……だって……僕の好きなのは……真理だから」


 優太君のもじもじする姿が愛らしくて、思わずキュンとしてしまう。


 そうだった。


 彼は私の事が好きすぎて、40万も貯金した上に私の事を毎日日記に書く人だった。


「優太君。誰かと付き合いたいなって思った時は、私に教えてくれないかな? 相談にのりたいんだよね」


「え、でも……」


「なに?」


「僕が付き合いたいのは……」


「私は駄目」


「………うん」


「ごめんね」


 私たちが付き合って、あの狡猾な悪魔の目に留まったら、優太君はまた狙われるだろう。


 そもそも私みたいなクズは、優太君に釣り合わない。






「聞いてよ真理ちゃん。私に専属マネージャーさんが付くことになりました」


 ふふん、とドヤ顔で言った後、梨花ちゃんはコーヒーを口に含んで「あちっ!」と忙しそうだ。


「良かったね」


 私が言うと、


「今までは仕事によってマネージャーさんが代わってたんだけど、これからは一人なんだって。嬉しいな。私の仕事ぶりが認められたんじゃないかな」


「良かったね。女優業が順調なんだね。そういえば映画はどうなったの?」


「来週から撮影だよ。とりあえず教えてもらった映画の子とは違う演技でやってみるよ」


 前の人生で、私が見た彼女の映画は、変な違和感しか残らなかった。


「変に演技しなくてもいいんじゃないかな」


「え?」


「あの映画。素の梨花ちゃんじゃダメなのかな?」


「このままの私って事?」


「うん。私は詳しい事はわからないけど、今の梨花ちゃんは映画にぴったりな気がする」


 ちょっとネガティブで、だけど正直に自分をさらけ出せる素直で可愛い女の子。


「うーん。じゃあちょっと考えてみる。真理ちゃんの方はどうなの?」


「こっちはとりあえず落ち着いてるかな。まだ入学式終わったばっかりだし。学校を変えてほしいってお願いしたけど駄目だった」


「そうなんだ。私も同じ高校だったら良かったのに」


「梨花ちゃんはお仕事あるでしょ?」


「そうなんだけどね。何かあったら言ってね。いつでも駆け付けるから」


「ありがと」


 私は、梨花ちゃんに一通り話していた。


 前の人生で私がした事。私がされた事。


 これからしようと思っていることを。


 でも手のひらの数字の事は話していない。


 話したところで、どうにかなるものではないからだ。


「でもよかったね。仕事ぶりが認められて」


 私が言うと、梨花ちゃんは顔を曇らせて、


「でも実は、マネージャーさんがなぜか二人も立候補してきちゃったんだよね」


「え? 二人?」


「うん。元々、卯月さんっていう優しい感じの人が担当してくれる予定だったんだけど、そこに毒島さんって人が、無理やり入って来たの」


「感じ悪い人だね」


「そうなの。なんかため口で、まぁ私は年下なので当然なんだけど。色々決めつけてくるんだよね。女優向いてないからやめろとか、アイドルやれとか無茶苦茶いってくるの。アイドル? 私がアイドルなんて絶対無理だから」


「梨花ちゃんはアイドルはやりたくないんだ」


「女優が向いてないのはわかってるけどね……でもまあ。一応私は自分では女優だと思ってるし?」


「そんな卑屈にならないの」


 あれ?


 私はふと、あることを思い出した。


 天満梨花は、マネージャーに裏切られて自殺する。


 あれ? あのマネージャー。なんて名前だった?


「どうしたの?」

 

 怪訝な顔で首をかしげる梨花ちゃん。


「うん。ちょっと思い出したことがあって」


 私は、前の人生で知っていたことを話した。


「え。じゃあ私はお金持ちになった後、そのお金を全部マネージャーさんに持ってかれちゃうの?」


「そういう事になってたね。しかも週刊誌だと……ファンに襲わせたのもマネージャーかもしれないって記事があって。それで優しくして取り入ったんじゃないかって」


「え? それって毒島さん? まさか卯月さん?」


「それが……ごめん。名前まで覚えてないんだ」


「うう~。どうしよ。どうしよ真理ちゃん」


「なんとか思い出せるといいんだけど……」


「そうだ。マネージャーさんたちに会ってよ。実際に会ったら何か思い出すかもしれないでしょ?」


「いいけど。私は、週刊誌とかテレビとかで見ただけだから、実際に会ったり見たわけじゃないよ?」


「それでもいいよ。私、真理ちゃんの事信用してるから」


 おかしな事にならなければいいけど。








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