第56話 まるで友達のように4
「はい。リリアに頼まれてたやつ」
ユカさんはそう言ってチケットを私たちに手渡した。
何かなと思いつつ、渡されたので受け取ればそれは映画の券だった。
「……映画ですか?」
「リリアのファンの人、あなたにもあげるね。もちろんタダ」
「いやいや、貰えないですよ!?」
何で映画かはともかく。今日初めて話したユカさんからタダで映画の券をもらえるわけもなく私はそう言った。
「別に余ってたし期限もあるし。うち、よくいろんなチケット余ってるから平気だよ」
「いや、でも」
「私が頼んだんだから大丈夫よ」
少し悩んだけどリリアちゃんがそう言うのでお言葉に甘えることにした。
そうして私たち四人はなぜかその足で映画館に来ていた。
スクリーンへの入り口を前にして、私はもう一度ユカさんにお礼を言った。
「あのー、ユカさん、チケット貰っちゃってありがとうございます。蛍ちゃんのぶんまですみません」
「へーき、へーき」
「あのー、それと私、山田飛鳥って言います。一応、蛍ちゃんの姉です。よろしくお願いします」
「飛鳥ちゃんね。それまじウケるよね。面白いからSNSで拡散していい?」
「……やめてください」
そんな感じてとりあえず自己紹介をして、なんとか私はこの場にいる。
もう流れにまかせようと思った。
「蛍ちゃん、蛍ちゃんの見たがってた映画だよ。よかったね」
「……映画は見たかったけど、そうじゃない」
蛍ちゃんもちょっと納得のいかないみたいな表情だった。
そうだよね、なんでこの四人で映画館にいるのかなって私も思っている。
「リリアも見たがってやつだよ。この映画人気なんだね」
ユカさんはそんなことを言っていた。
「ねぇ、リリア。今日映画見るために来たの?」
時間になって、じゃあ入場しようかって時に蛍ちゃんがリリアちゃんに言った。
「じゃあどうするの?広場にずっといたって仕方ないでしょう?」
「それは、……そうだけど」
「どうせこのあとレッスンだし。映画もそのうち来ようと思ってたから、ちょうどいいかなって思っただけよ」
私は二人が話しているのをチラチラと横目で眺めた。
◇◇
映画の内容はといえば、全く何も頭に入ってこなかった。
主人公の男の人が銃を持った男の人に追われていたなってことくらい。
映画のあと、私たちはお昼ごはんにハンバーガーのファーストフード店に移動した。
私も成り行きで一緒に来てしまった。
四人がけのテーブルで私の隣に蛍ちゃんが座った。
蛍ちゃんの前にリリアちゃん、私の前にユカさん。
このあと蛍ちゃんたちはシューティングスターのレッスンらしいので
私は適当なところで食べ終えたら早めにお店を出ようかななんて思っていた。
正直、どこを見て何を話せばいいのかぜんぜん分からない。
リリアちゃんを目の前にしても嬉しさよりも困惑の方が大きかった。
まあ、こうやって推しメンが斜め向かいの席に座っているのが嬉しくないわけではないけれども。
とりあえずポテトでも摘まもうかと思っていると携帯が震えた。
さっき映画が終わって電源をつけた時には特に誰からもメッセージとか来ていなかったけれど。
心あたりもないけどクラスの友達とかかなって。深く考えずに来ていたメッセージを見て私は声が出そうになるのをなんとかと抑えた。
『言うの忘れてたけどリリアに私たち付き合ってるって言ってあるから。話合わせてね』
メッセージの送り主は蛍ちゃんだった。
その蛍ちゃんは今、私の隣の席でジュースを飲みながら携帯を操作している。
しばらく蛍ちゃんを見ていたけれど目が合わないので仕方なくメッセージに返信した。
『何?どういうこと?付き合ってるって何?』
『黙って話合わせてくれればいいから』
私がそのメッセージを受信してあわてて蛍ちゃんを見ると、蛍ちゃんは携帯を鞄にしまった。
相変わらず、目は合わない。
何これ!?って。今すぐに蛍ちゃんの肩を叩きたいのをぐっと我慢した。
わざわざメッセージを送って来たってことは、今その話はしないほうがいいのかもしれない。今までこういう経験あるわけじゃないけど本能的にそう思ってとりあえず私も携帯を鞄に入れた。
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