第48話泥棒の真似事

 王国内においてエルピスの仕事は、グロリアス家の家庭教師並びに王族魔導教師が大部分を占めているものの、もちろんこれ以外の様々な仕事がエルピスには回ってくる。

 例えば騎士団の訓練相手、宮廷魔術師達との意見交流会、王国技術開発部との異世界技術についての研究などなど。


 様々な仕事を割り当てられ常に何処かに仕事がある状態のエルピスだが、今日は珍しく一度も仕事の要請が舞い込んできておらず、久々の休暇を満喫していた。


 だが休日のエルピスの過ごし方などかなり適当なものだ。

 部屋にセラを呼び昔の自分についての話を聞いたりだとか、エラと共に食事をしたりだとか。

 もちろん読書なども嗜む程度にはするが、王国は国家としての傾向的に読書というよりは劇に力を入れているので、面白そうな書物は外国から取り寄せる必要があり、少々面倒くささは否めない。


 今も後数十ページほどになってしまった本を読み終えるのを惜しむように一枚一枚丁寧にページをめくっていると、不意に自室の扉が開く。

 誰か仕事の依頼に来たのかと読んでいた本を閉じて収納庫ストレージにしまい込み、飲みかけの紅茶を飲みきってから振り向くと、意外な事に立っていたのは騎士団の団員でもなく、メイドでも無く、ニッコリと笑顔を浮かべたグロリアスだった。


「こんにちはエルピスさん!」


「こんにちはグロリアス、どうしたんだ? 何かわからないところでもあったか?」


 基本的にグロリアスは一人でエルピスの部屋に来る事はなく、エルピス個人の時間を尊重してくれているのか、教師として彼らの前に立つ時以外はあまり接点がない。

 そんな彼がわざわざこうして自室に来てくれた事に少し驚きを感じるが、とはいえ何か重大な用事ならば聞き漏らしてはならないだろうと意識を切り替えて、エルピスは話を聞くために身体を向き直す。


「いえ、魔法の方に関していえばエルピスさんのおかげで問題なく。

 今日来たのは国王が用事があるとの事でしたので、それで呼んで来いと」


 おそらく彼には悪意は無いはずだ。

 彼からすれば尊敬する父が、わざわざ自分に頼んでくれた仕事をこなして見せようという決意のもと、こうしてエルピスに言いに来ているはずなのだから。


 だがエルピスからすれば国王がこうしてエルピスを人づてに呼ぶときは面倒ごとが起きた、ないしは面倒ごとを頼まれることが確定している時であり、一気に気分が落ち込んでしまうのも無理がない話だろう。

 こうしてグロリアスが来てくれた手前無為に断ることも出来ず、エルピスは苦虫を噛み潰したような顔にならないように必死に気をつけながら笑顔を浮かべる。


「ありがとう、なら今から国王様のとこへ行ってみるよ」


「先導は僕に任せてください!」


 そう言ってスタスタと廊下の方へ歩いていくグロリアスの背中を見て、エルピスも慌ててその後をついていく。

 国王の元へと向かうのに王子に先導してもらうというのは、なんともまぁ大臣や召使い達にでも見られたら面倒な事になりそうな事間違いない。


 なるべく人が来なければ良いなと心の中で思いながら、小さな背中を追いかけて歩いていると不意にグロリアスがエルピスに声をかける。


「そう言えばエルピスさんは本当は何属性の魔法が使えるんですか?」


 ──少し、ほんの少しだが跳ね上がった心臓を押さえつけて、エルピスはさも何を言っているか分かりませんというような表情をする。


 エルピスはこの国においてまだ基本属性である五属性の魔法しか使えないと嘘を突き通している。

 それをいまさら見抜かれたところで正直どうという事もないのだが、隠していた事を指摘されて反射的にそう言った行動を取ってしまったのは仕方のない事だろう。

 だが結果的に言えばその行動はグロリアスの言動に対する肯定でしかなく、隠していても仕方ないかと真実を伝える。


「全属性ですよ。秘密ですからね?」


「まさか……それ程までだったとは。僕達はそんな人に魔法を教えてもらっていたんですね」


「グロリアス様もいつか使えるようになりますよ」


「凄く遠い未来だとしても、そうなれば嬉しいですね」


 こちらを振り向き薄っすらと笑みを浮かべながらそう言ったグロリアスの背中を見ていると、不意にグロリアスが扉の前で止まる。

 扉の先からは国王の気配が隠されずに漏れ出しており、正直に言って気が重くなる。

 とはいえグダグダと考え事をしていたところで無駄だし、仕方ないかと腹をくくりエルピスは扉の奥へと足を進める。


「よく来たなエルピス、グロリアスも」


「今日はどんな面倒ごとですか? この前は貴族の調査、その前は盗賊団の監視。

 いくら僕が暇だからって危ない橋はあまり渡りたく無いんですよ?」


「まぁそう言うな、お前の行動には皆が助けられているんだから。

 そうそう、今回の件はグロリアスも関わっているから二人ともそこに腰掛けてくれ」


 部屋に入ったエルピス達を国王は椅子に座ったまま出迎え、近くにあった椅子に手で座るように指示を出す。

 言われた通り素直に椅子に腰掛け、沈んでいく自分の身体を軽く浮かして姿勢を保ちながら、エルピスは疑問を口する。


「それで今日は何をするんですか?」


「まぁそう急ぐな。今週は王国全土で防犯対策をしようという取り組みをしていてな、最終日である今日は王城の防犯をしようという事になったんだ」


「王城の防犯…ですか?」


 何かしら注意を呼びかけているのは知っていたが、まさか防犯週間などというものをしているとは露知らず、そんな行事があったのかと純粋に驚く。

 この世界においてどのような防犯がなされるのかはいまいちわからないが、防犯というくらいなのだから何かしらの対策はするのだろう。


「ああ。この城に住むのは俺やアルだったり力のある奴らもいるが、メイドや執事達みたいな戦闘が不得意な者達もいるからな。

 極力そもそも王城に他国の人間を入れないようにしているが、暗部などに潜入された時の対処をしっかりとしておかないと、そういう者達が真っ先に死ぬ」


「それで敵国の暗部の役を俺にしろと?」


「話が早くて助かるな」


 無茶言うな。

 そう言えたら楽なのだが、絶賛社畜であるエルピスにはとてもではないがそんなこと口にはできない。

 せめてもの抵抗として露骨に話を聞いてうなだれるくらいが関の山だ。


「という事は僕はエルピスさんの動きを見て、欠点の分析などをすれば良いんですね父さん」


「さすが俺の息子だ、よく分かってる。

 隣の部屋を王城内全部が観れるように改造してあるから、グロリアスはそこで──」


「──父さん、エルピスさんが良ければ僕、エルピスさんと一緒に行動してみたい」


 腰のポケットから鍵を取り出し国王がグロリアスに渡そうとしたその時、グロリアスが意外な言葉を口にする。

 先述した通り彼は基本的に他人の行動を阻害する可能性がある行動を嫌っており、国王も珍しく驚きの顔を見せた。


 父親としての一面をなかなか見せない彼だが、今日に限ってはそうも行かないらしく、驚きの顔から一転。

 真面目な顔をしながら、国王としてではなく父としてグロリアスに語りかける。


「言いたい事は分かるしお前が何をしたいのかも分かる。

 だが今回の件は実戦を想定したものであり、場合によっては死ぬ可能性もある。

 だから俺は信頼しているエルピスにこの仕事を任せた訳だし、もちろんお前の事を信用していないわけでは無いが、それでもだな」


「大丈夫だよ父さん。僕だって今まで何もせずに日々を過ごしてきたわけじゃ無い。自分の身は自分で守れるようになったって事を知って欲しいんだ」


 心配から参加させないようにしようとした父の意見に対して、子は信じてほしいと父に対して懇願する。

 こうなってしまえば父からすれば同意してあげる以外に逃げ道などなく、国王は渋々ながら首を縦に振る。


「まぁエルピスが居るから、死ぬような事にはならないと思うが気をつけろよ?」


「うん! 任せてよ父さん」


「──それでですが国王、今回はどこまでやって良いんですか?」


 和やかな親子の会話が終わるのを待ってから、エルピスは横から言葉を挟む。

 エルピスは幾つもの盗賊系統に属する技能スキルを獲得しているし、盗神の能力を技能スキルと同時に使用すれば、大っぴらに城の前から突入しても誰にも気付かれず最深部まで進む事すら可能だろう。


 それにセラとの訓練を経て特殊技能ユニークスキルの使い方だけではなく、一時的にとはいえ神の称号を二つ以上同時解放することもできるようになった。

 正直言って全力を出せば戦闘を抜きにしても、城の最深部まで行くのには疲労すらぜずに済む事だろう。


 だからこそエルピスはおそらくある程度エルピスの実力を見抜いているであろう国王に対して、質問を投げかけたのだ。


「城ごとぶっ壊すようなものじゃなかったら、破壊系は基本的に大丈夫だ。

 認識阻害に関しては完全に意識から外すもの程度ならばいいとする」


「了解しました。ならそうさせていただきますね、それで報酬ですが」


「安心しろ褒美はちゃんと用意してある。休日を一週間、更に特別ボーナス付きだ」


「休日を一週間ですか…大丈夫ですか? 僕一週間も休んじゃって」


「あぁ。王の言葉に二言はあんまりない。それに一週間分の仕事は先週させたからな、問題ない」


「まぁそれなら。一週間休暇かぁ、何処行こっかな」


 両親が魔界に向かってからこの一年近く、休みなく働いていたエルピスからすれば、一週間もの休みはかなり大きいものであり、浮かれた感情のままに王の私室を後にする。

 久しぶりの休暇で喜んでいるその後ろで、にったりと笑みを浮かべた国王が居ることにも気付かずに。


 f


「という事でルールは簡単。俺が待ち構える塔の最上階まで、騒ぎにならないようにくること。

 道中何人か殺せそうな職員がいたら、殺害判定のこのシールを貼ること。

 近衛兵と一部の宮廷魔術師はこの事を知っているが、だからと言って攻撃されないとは思うなよ?」


 国王にそう言われてから数十分後。

 王国の外壁辺りをウロウロしながら、エルピスはどうやって侵入しようか頭を働かせる。


 単純に前から行ったなら先ず間違いなく発見されるだろうし、それでは安全確認の意味がない。

 だがかなり高い壁を囲まれた王城に入る事が、正面から以外では不可能に近いのもまた事実だ。

 エルピス一人だけならば下水道や地中から強引に突撃できない事はないが、グロリアスを連れてとなると話は別だし、そもそも暗部がそんな見えすいた手段で攻めてくるかと聞かれればおそらくそんな事は無いので、何か静かに潜入できる手を考える。


「どうすっかな…これ」


 何処かに王族が緊急時に逃げる用の穴でも開いていないかと思ったが、転移魔法という便利なものがあるこの世界。

 わざわざそんな事しなくても良いよなという事にいまさら気付いたのを意識の外に置き、いよいよどうやって入ろうかと頭を悩ませる。


 グロリアスの知恵を借りられればいくらか楽なのだろうが、彼はこちらの動きから防犯対策を練るのが仕事なので、気楽に力を借りる事は今回出来ない。

 なんとか自分一人の力でなんとかしようと、エルピスは頭を回転させる。

 そんなエルピスの視界の端で、ふと荷物を積みながら入っていく馬車の姿が見えた。


 この世界での一般的な馬車は屋根付きの物で有り、荷物の中に紛れれば見つからないように潜入が出来るだろう。

 気分的には潜入任務をする忍者のそれに近いものがあり、ワクワク感を胸に秘めながらエルピスは手振りだけでグロリアスに指示を出し足を進める。


「そうは言ってもそのまま荷台に乗ったらいくらなんでもバレるだろうし……下から行ってみるか」


 何時もの如く無詠唱で魔法を起動して、自分の存在を認知させ難くし、そのまま全力で走って馬車の下に潜り込む。

 ただでさえ神の称号を解放中のエルピスは身体能力も通常の生命体のそれを隔絶しているのに、その上さらに認識をズラしているのだ。

 一般の兵士程度ではもはや知覚することすら不可能で、気配感知系の技能スキルないしは魔法でも使用されない限り見つかることはない。


 その考えは見事に当たり、荷台もしっかりと検査しているものの荷馬車の下までは調べられず、誰にも察知される事なく無事に侵入する事が出来た。

 グロリアスは少し遠くから遅れて堂々と正面から入ってきており、少ししてエルピスを見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。


「こう見ると中々どうして威圧感のある城だな」


「まぁ中に住んでる人が人ですし……」


「それもそう──ってえぇ!? え!? いやなんで居るの!?」


「しー、静かにしてください。あんまり大きい声を出すと見つかってしまいますよ、エルピス様」


 大声を出したエルピスに対して右手を口に添え、口の前で左手の人差し指をピンと立てエルピスに対し、静かにするよう伝えたのは今日朝から見かけることのなかったエラだ。


 いつものメイド服とは違いしっかりとした戦闘用の衣服に身を包んでおり、きっとエラも王に仕事を押し付けられたのであろうことが予想できた。


 グロリアスも最初は自分の後ろから現れたエラに声にならない悲鳴を上げていたが、すぐに相手がエラだと分かると落ち着きを取り戻したので問題はないだろう。


「王様に手伝ってあげる様に言われまして。

 わざわざ私が行くまでもないと進言したんですけど、行ったらカフェの優先予約券くれるって言うので来ました」


「物に釣られて来たんだ……。そういえばよく俺の位置が分かったね、結構キツめに気配遮断してるつもりだったんだけど」


「エルピス様は気配を消し過ぎなんですよ。自然に見えるその場所に、ですが何故か感じる違和感。

 そんなものを突き詰めていくとこう言う芸当もできるようになるんですよ」


 そう言いながらエラは嬉しそうに微笑むが、果たしてそう言うものだろうか?

 確かにエラには今の様な隠密状態で、何度か悪戯をしていてもすぐに見つかった事は何度かある。


 だがそれはエルピスが戦闘として集中して居ない、完全に自然体の状態だからであって、休暇を満喫する為に全力を出している今の状態で見つかるとは、とてもではないが思えなかった。

 目の前でパーカーの様なものを着込み、口元だけを露出させてニコニコと笑うエラを見て、まぁ気にすることも無いかと意識の外に捨てて話を進める。


「あ、そう言えば今回のこの件には、アルさんとマギアさんが絡んでいるとか」


「……本当に? あの二人が本気出すとロクな事になら無いんだよ……仕事ばっか増やすんだから」


 一度有った戦闘訓練という名の王様の暇つぶしに、嫌々ながら付き合わされた事の有るエルピスは過去の事を思い出し、嫌そうに眉を潜める。

 もちろんアルの戦力がどの程度なのかなど他人に言われるまでもなく熟知しているし、それに対する警戒ももちろんしているが、問題はマギアだ。


 手数で攻めるエルピスや技能で戦うイロアスとは違い、マギアはどちらかと言えば他人の思考を読み取り、そしてそれを利用して戦うという手法を取ることが多い。

 一対一で平地での戦闘ならば正面からそれらのものを叩き潰す事も可能ではあるが、こうして攻め込まなければならないような現状においてマギアの魔法は特に嫌な挙動をすることなど想像に難くないので、エルピスの気分が落ち込んでしまうのも仕方のないことだった。


 それに対してエラは王城に向かって徐々に足を進めながら、疑問の声を上げる。


「どうしてですか? 確かに強い二人では有りますけど、そこまで潜入という分野には精通していないように思いますが……?」


「潜入に精通して居ないから逆に──っ危ない!」


 会話をしながら自然に一歩前へと足を伸ばしたエラが地面に足を置くよりも一瞬早く、エルピスはその身体を自分の方へと無理やり引き寄せる。

 その瞬間小さな音共に小規模な爆発が先程までエラの足があった位置で発生し、嗅ぎ慣れない嫌な匂いを発生させた。


「──キャッ!! な、なに!?」


「大丈夫ですか!?」


「マギアさんが仕掛けた地雷だな。魔法だから罠探知系魔法には引っかからないぞ」


 罠に引っかかりそうになったエラの手を掴み無理やり自分の元へと引っ張りながら、エルピスは〈完全鑑定〉を使用して冷静に状況を見つめ直す。

 魔力を使って物理的に仕掛けられた罠を探知する方法は少なくないが、こうして魔法で作られた罠を探知するのは技術面からしてかなり難しい。


 何故なら魔力探知に使う魔力と魔法によって生成される罠の元は同じ魔力なので、相当気をつけて探さないと探知出来ないし、技能スキルでも物理的な物にのみ対応する技能スキルがおおいので、かなり念入りに探さないと見つけることが出来ない。


 本来ならば魔法を使って罠を作った場合、継続的に魔力を消費し続ける魔法をいかに賄い続けるかという課題が残る。

 しかし維持が難しくあまり実用的では無いこの魔法を、マギアは一年間エルピスと共に製作・研究して居たのだ。


 その結果エルピスの知らぬ間に二日や三日といった短い期間ならばマギアは自身の魔力を完全に消費せずに罠を生成することに成功しており、その事実を初めて知ったエルピスは驚嘆の言葉を漏らすとともに作戦内容を頭で組み立て直す。


「これ多分潜入可能なルートは全部潰しに来てるな。ここからは俺が通った場所だけ通ってくれる?」


そういいながらエルピスはエラに手を差し出す。

いつもならばさっと手をつなぐエラだが、今日はなぜか躊躇しているようだ。


「あ、手……つなぐんですね」


「嫌だった? できれば非常時だから我慢してほしいんだけど」


「そういう訳じゃないですよ? ただちょっと意外だなって……それだけです」


 普段の彼女らしくない行動をしているエラに疑問を抱きながらも、とはいえ彼女もそろそろ難しいお年頃になってくる頃だし、異性と手を繋ぐことが恥ずかしくなってきたのだろう。


 エルピスが15歳だから、今のエラは17歳程度だろうか、まだ種族的な要因から見た目で見ればエルピスより少し幼い程度の彼女だが、人間ならば多感な時期でもある。

 今後は必要ない時は触れないでおこうと認識を改めて、エルピスは罠の分析を始める。


 使用されている魔法は爆裂系、炸裂系の二種類であり、前者は火傷などの外傷を、後者は骨折などの内傷を引き起こす凶悪な魔法属性だ。

 一般的には使用禁止とされているこの二種の魔法だが、とはいえそもそも王を秘密裏に殺すため攻めてきた敵がルール違反がどうのといったところで、それをまともに相手をする義務もなし。

 敵を止めるという点に関しては確かに仕事をこなしていると言えるだろう。


「一応捕縛用に威力を下げてくれているとは言え、地雷に当たるとかなり痛いからね。気を付けて進もう」


「確かに、これ以上細かく場所を特定されると面倒ですしね」


「アルさん辺りは多分もう大方俺らが何処にいるのかは、気付いてると思うけど……やっぱり何人かこっちに意識を向けてるね」


 肌にピリピリと感じる敵意のうちのいくつかからは、好戦的な感情が感じ取れる。

 近衛兵や宮廷魔術師、ひょっとすれば王国の暗部なんかも今回の件に絡んでいるのかもしれないが、それを込みにしても随分と多い上にしっかりと殺気もこもっている。

 これだけ相手も警戒しているのだ、たとえどんな手を使おうともあの手この手でこちらの位置を探ってくることだろう。


 そちらがその気ならば迎え撃ちにしてくれよう、そんな想いを心に浮かべて、エルピスは静かに王城の中へと足を踏み入れるのだった。

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