第8話特殊技能

「ーーふぅ、今日はもうここら辺でいいかな」


 雪合戦やカマクラ造りなど色々と有った冬を飛ばして、今の季節は日差しの暖かい春。

 そろそろ訓練では無く実戦をしようと最近森の中に入ったりしているのだが、中々どうして戦闘にすら発展しない。


 原因は分かっており、外出に母が付いて来ることになったからだ。

 龍種が住まうこの森では普通大人がついてきたところでどうにもならないが、龍種よりも更に強い両親が居ては他の生物も襲ってすら来ない。

 この前の散歩の時などーー


『あら、貴方確かここら辺を仕切っているーーなんとか言う名前の龍よね?』


『はい、名をイプリオンと申します。その節はどうもありがとうございます』


『良いわよ、跳ねっ返りの龍を躾けてあげるのも私の仕事みたいなもんだから』


『そう言って頂けますとありがたいです。そう言えばそちらはお子様ですか?』


『そうよ名前はエルピス。跳ねっ返りの子達に手を出さない様に言っておきなさいね?』


『そ、それは勿論です! 貴方達に手を出す様な事は絶対に致しません!』


 ーーと言われたほどだ。

 言動からも分かるように、龍達は母を恐怖の対象としている。

 普段なら母が森の中に入って来たらずっと引きこもり出す龍がああして散歩の時に出会ったのは、今思えば時折森に入ってきたエルピスとの関係性を聞きたかったからだろう。


 エルピスからして見れば龍は貴重な本気で戦えそうな相手であり、そしてもし戦うのなら今後龍と戦う時用の対抗策を知るという意味でも一度は戦っておきたかった相手だ。

 だが無理やり戦闘をお願いするというのも嫌だし、それでどちらかが死んだりするのは余り望ましくない。


 そう言った理由からエルピスは、こうしてフィトゥスと本気で剣の訓練をしているのだった。


「剣技はともかくとして、エルピス様はまだ実戦経験が足りませんね。勘で剣戟を避けるのは悪い事とは言いませんが、それでも確実に避けれるわけでは有りませんし」


「とは言ってもフィトゥスくらいの相手だと目視で避けようと思っても避けれないし、だから勘でよけてるんだけど予測で避けようとすると軌道修正されて、どちらにしろ攻撃を食らうんだよね」


「気配察知でもあれば、かなり楽になるんですけどね。ーーこの後はお昼寝ですか?」


「うん、ちょうどそれぐらいの時間だね。じゃあちょっと寝てくる」


「お休みなさいませ」


 持っていた剣を何時もの場所へと戻し、エルピスは歩いて寝室へと向かう。

 〈経験値増加Ⅴ〉を持っているとは言え秋から特に目立った能力の強化は無かったが、目に見えない技術面ではかなり強くなれたと言っても良いだろう。

 具体的に言うなら無詠唱で唱えた魔法を同時に発射するとか、そういった類のものだ。


 フィトゥスとの会話にも上がっていない様に剣戟の方はまだ伸び悩んでいるが、そちらもあと少しでどうにかなりそうなレベルまでは来ている。


「部屋には誰も居ないか…よし、なら問題なくできるな」


 部屋に入り誰も居ない事を確認すると、エルピスは盗神の隠蔽によって隠して居た手作りの鞄を持って窓から外に出る。

 目指す先は秋にみんなで遊んだ広い池だ。


 池のほとりに近づくとエルピスは鞄を下ろし、その場に腰を下ろす。

 ここ一年で魔法の使い方は大分上達したはず、そうなると次に手に入れたいのは強い武器だ。


 鍛治神の称号があるので武器を作ろうと思えば作れるのだろうが、素材が無いのに作れる訳がないし、フィトゥスに頼んだら素材くらい幾らでも持ってきてくれそうだが、そんな事にフィトゥス達を頼るのは申し訳ない。

 そこで#特殊技能__ユニークスキル__#〈ガチャ〉の出番だ。


 サイコロを振れば思った通りの出目が出て、じゃんけんをすれば必ず勝ち、運が絡む勝負ならばこの家で一度も負けたことの無い程の強運を今のエルピスは持っている。

 それが両親やみんなの気遣いだという説も否定できないが、それを含めたとしても運が良い方だと思う。


 つまりは〈ガチャ〉をすれば良い武器が出るはずーー出るはずだ。


「でもどうやって使うんだろ? #特殊技能__ユニークスキル__#〈ガチャ〉なんて言ってみたりーーうぉッ!?」


 最早ヤケクソで#特殊技能__ユニークスキル__#発動〈ガチャ〉と唱えると、目の前に転移の際に見たステータス画面と同じ様な半透明の画面が出てきた。


 それのせいで不意に思い出した同級生達の顔を頭から振り払い、まさか本当に出てくるとは思って居なかったガチャ画面を見る。


 ガチャページ〈ガチャP0〉

 お詫びガチャ(無料)オススメ

 ノーマルガチャ消費P100

 レアガチャ消費P1000

 期間限定誕生日ガチャ(無料)


 最初はまるでミミズがのたうち回った上に死んだ様な汚い字だったが、一度この世界の言語に変わったかと思うとそのままの流れで日本語に変わりしばらくすると落ち着いた。

 記載されている文面には二つも無料という文字が掲げられており、エルピスはそれを何度か見直す。


 そもそも何を消費するかも分からないのに無料というのがなんなのか分からないが、考えていてもしょうがないので取り敢えずはお詫びガチャから引いてみる。

 お詫びと書かれたそれを直接押すと、半透明の画面一杯に薄い白色の魔法陣の様な物が現れた。

 魔法陣の中心に『タップしてね』と書かれており、言われた通りにタップすると魔法陣が様々な色を見せながら回り出して、まるでスマホゲームの様に虹色の卵が十個出てくる。


 このガチャのレアリティの基準がまだ分からないけれど、普通は虹といえばそれなりのレアリティのはずだ。

 それが運が良くなったとはいえこんなにも出るものなのだろうか?

 まぁ多分その点も含めてお詫びなのだろうが。

 さてさて結果はどんな風になっているかな…?


 排出一覧

 1.鍛治室

 2.万能砥石

 3.聖剣

 4.#神造水__エクリサー__#

 5.無限水筒

 6.魔剣

 7.魔導の書

 8.龍種の核

 9.#幻想馬__ユニコーン__#の角

 10.武具作成の極意


 ガチャからまるでただの棒切れの様に簡単に現れたのは、魔剣と聖剣とその他諸々。

 目の前に転がるそれらを魔法で強化され見た目とは裏腹にかなりの量が入る鞄に入れていく。

 不壊と絶対切断を基本能力として持つ聖剣と、対象の血で強化され敵を斬り伏せる程に強くなる魔剣。


 鑑定結果にそうでているからおそらくそういう能力なのだろうが、期待していたものよりもはるかに上のものが出てきたというのがエルピスの感想だ。


(そのニ振りがこの程度の方法で手に入るというのは、なんと言うかまぁ……嬉しいことは嬉しいんだけど) 


 これで接近戦が有利になるが、伝説の剣を振り回したら周りにどんな被害が出るか。

 一度くらいは試し振りをしておかないと、後々なにが起きるか分かったものではない。


「まぁでもそう言うのを調べる為にわざわざここまで来たんだし……試し切りして行くか」


 そう言うとエルピスは聖剣を手に取り、短剣並みのサイズの魔剣を腰に挿す。

 そしてこの世界に来て何度したか分からない構えを取り、剣を無造作に上段に構えた。

 魔力は軽く垂れ流し、力は込めずになるべく脱力する。


 目の前の物全てが切れると信じ、頭の中で切断されたそれを想像し剣を振り下ろす。

 背中の筋肉を意識しつつ肩、腕、手首指先まであらゆる神経を研ぎ澄まし、切ることだけに全神経を集中させる。


 まず始めに空気が切られ次に草木が切られそして時を待たずして湖が切れる。


「えええええええぇ!? 湖割れたんだけど……」


 切れ味云々の話ではなくそもそも斬撃波でも飛んでいるのでは無いかと思えるほど切れる聖剣を、エルピスは少し怯えながら鞄の中に仕舞っておく。

 困ったものは取り敢えず後回しにしておくに限るのだ。


 魔導の書や鍛治室など気になるものもあるが、後回しでいいだろう。

 次は誕生日記念ガチャだ。

 ……と言うより誕生日記念とは一体なんなのだろうか?

 もしかして逐一このガチャは更新されていたりするのだろうか?


 ーーまぁどうでもいいか。

 ポケットに入れて居たはずなのに無くなって居たスマホを思い出しながら、エルピスは慣れた手つきで画面をタップする。


 排出一覧

 1.技能スキル〈気配察知〉レベル十

 2.#特殊技能__ユニークスキル__#〈メニュー〉

 3.調味料セット

 4.世界地図

 5.称号〈勇者〉

 おまけ:神からの忠告(本)


 背中から妙な汗が流れ落ちて行くのが感じられる。

 恐らくあの時であった神はエルピスがこの世界に来て直ぐに〈ガチャ〉を使うと思っていた筈だ。


 だが安全な環境下でぬくぬくと暮らしていたエルピスは、ガチャという能力に頼らずとも暮らしていける為に、いままで使ってこなかった。

 つまり何が言いたいかと言えば、学校で出た提出物を一週間間違えて居た様なーーレンタルビデオの返却日を忘れて過ごして居た時の様なーーそんな気分だ。

 頭がクラクラして胃が痛くなって来るのが実感できふ。


「あ~もう良いや。次に行こう」


 獲得できた#技能__スキル__#は気配察知か、噂をすればなんとやら、まさかこんなに早く手に入るとは。

 まだ獲得した実感や気配の感覚が掴めないが、慣れてきたら遠くの敵でもわかる様になるだろう。

 後は調味料セット。これは単純に嬉しい。

 塩だけでも良かったのだが、砂糖があれば今後料理がさらに美味しくなるだろう。


 これは後でフィトゥスに渡しておこう。

 メニューは使い方がいまいち分からないから、後回しにしておく。

 後は……後回しにしたが、この本は読んでおいた方が良いだろう。

 多分勇者の称号は、これと関係しているんだろうし。

 取り敢えず読んでみよう。


 [まず君の転移の件だが、本当に悪かった。

 いくら原因不明の事態とはいえ、こちらの不手際には違いない。

 謝って許されるとは思っていない、好きな様に罵ってくれ。

 先ず君の神の称号だが、早急に隠して欲しい。

 それはその世界の一般的な生き物の身には余るものだ。

 長い年月をかけて狂信とも言える程に自らの身体を鍛え上げた才能ある者が、ギリギリ使えるようなシロモノ。

 権能を酷使していないからまだ生きているが、今の状態で権能を使用すれば君は間違いなく死ぬ。

 気を付けてくれたまえ。

 それとそちらの世界は毒や病気に対する完全耐性を無効化する#技能__スキル__#や耐性を無効化するものもある。

 こちらも同様に気をつけてくれ。

 それと勇者達は五年後にそちらの世界に着く。

 恐らく数年は表立った行動はしないと思うから、その間に力を付けて欲しい。

 最後に少し早いが、五歳の誕生日おめでとう。

 あと手紙は本当に早く読んでくれ、書き直しが地味に大変なんだ。

 日本担当の神より]


 神の言葉に申し訳なさを感じながら、エルピスは称号を隠蔽する。

 雄二達は五年後にこちらに着く様だが、神様の見立てでは数年は行動しないらしいから、その間に技能スキルや技術を磨いておくことにするか。

 さて今から称号を隠しておくか。


(完全隠蔽が確かここをこうやって……出来たかな)


 身体から力が抜けていく感覚が持続して居るが、これが身体機能の低下か。

 正確な表現をするのなら風邪をひいた時のような感覚というのが一番近いだろうか、頭は痛くないし体も発熱していないが、いつもより体が重く感じられる。


(緊急時には全部解除出来る様にしておかないと)


 どうやら権能は隠蔽すると、体感的にではあるが身体能力が半減するようだ。

 とは言え神様関連で獲得したスキルは当てはまらないみたいだし、別にそこまで困る事では無い。


 使い方が分からないからなんとも言えないが、魔眼なども問題なく作動している様だ。

 ーーんっ? あの木の下に誰かいた様な……もう誰かに見つかったか、ちゃちゃっと家に帰らないとな。


 鞄の中に〈ガチャ〉で手に入れたアイテムを詰め込み、エルピスは足早にその場を去るのだった。

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