第3話 全刑事殺人事件

「連続刑事殺人事件が起きている。きみに解決してほしい」

 警察庁長官からの依頼だった。

 迷探偵は同僚を殺された刑事に同行して、捜査を始めた。いずれ殺人姫が現れるにちがいない、と彼は思っていた。

 殺されずにどうやって逮捕するか? 

 その方法がわからなくて、迷探偵は悩んでいた。

「『あなたは刑事ですか?』と殺人犯は訊いてくるそうだ」と刑事は言った。

「生き残った警察官が言っていたんだ。刑事は殺された。ただの警察官は殺されなかった」

 刑事と迷探偵は殺人現場へ行った。

 白いチョークで倒れていた人が描かれていた。血痕はなかった。迷探偵はそのことを気にも留めなかった。自分の鈍さを、彼は後日知ることになる。

「おれの同僚で、親友だった。必ず仇を討つ」

「犯人は誰か、目星はついています」

「ほう。何者なんだ?」

「殺人姫です。きは鬼ではなく、姫です」

「ふうん」

「不思議な力を持っています。身体を動かさずに人を刺すんです。超能力者だと考えています」

「全方位殺人事件と全白衣殺人事件の犯人なんだろう?」

「そうです」

「きみはどちらの現場にも居合わせていたそうだな。しかし事件を食い止めることはできず、犯人を取り逃した」

「はい……」

「今度は逮捕できるのか?」

「やってみせます」

「期待しないよ。おれ自身の手で逮捕してやる」

 刑事と迷探偵は連続刑事殺人事件の現場を訪ね歩いた。

 1か月で30人の刑事が殺されていた。

「ちくしょう、おれの前に現れやがれ!」

 刑事と迷探偵は蕎麦屋に入った。刑事は天ぷら蕎麦を食べ、迷探偵はカツ丼を食べた。

 彼らの隣に美しい女がいて、カレーうどんを食べていた。

 その口の中に3枚の舌があるのに、刑事は気づいた。迷探偵は気づかず、カツと白米を夢中で食べていた。

「あんた、何者だ?」

 3枚の舌がある美しい女は上目遣いに刑事を見た。

「あなたは刑事ですか?」

「そうだ。あんたは殺人姫か?」

「いいえ、わたくしは宇宙人ですわ」

「連続刑事殺人事件の犯人だな?」

「いいえ、全刑事殺人事件の犯人ですわ。わたくしの娘を追う刑事をすべて殺してやりますの」

 舌がびょーんと伸びてきて、刑事の首に巻き付いた。刑事は拳銃を取り出そうとしたが、その前に絞殺された。刺殺ではないので、血痕は残らない。

 迷探偵は何もできなかった。

 恐ろしい舌を見つめていただけだった。

 確か、殺人姫が宇宙人の母、と言っていた。

「あなたは殺人姫のお母さんなのですか?」

「そうよ。あなたは刑事ですか?」

「僕は探偵だ……」

「そう。探偵には用はないですわ」

 美しい宇宙人はカレーうどん代を支払い、店を出た。

 蕎麦屋の主人は震えながらレジを扱っていた。

 1年後、日本の刑事は全滅することになる。誰も後任になりたがらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る