第19話
グロ注意?
一応ね。
鼻につく腐敗臭と真っ昼間から響いている喘ぎ声。響いているのは喘ぎ声だけじゃない。権威あるものの醜い笑い声と苦痛に歪められた絶叫。
街を見渡せば転がっている無惨な人の死体。
この世の地獄とはまさにこのことだろう。
「へぇー。同級生かい……王都の人間がよくもまぁここの雰囲気に耐えられるね。ここは人を痛めつけ、血を見て喜ぶ狂人共の住まう場所だってのに」
「……まぁ僕にも色々あるんだよ」
僕は乾いた笑みを浮かべる。
血を見て喜ぶ狂人。その分類の最上位にいるのが血を喰らう吸血鬼だからね。
「そうかい。それで?パルシア。何の用だい?」
「里帰りです!」
「そうか。そうか。……まぁとりあえずはまぁいつもどおり死体の回収を頼むぜ」
「はいです!」
パルちゃんは女性の言葉に元気よく頷く。
「行くですよ!」
「うん。あ、アーレス。君は君のしなきゃいけないことをしてきていいよ?」
「え?あ、あぁ」
僕はアーレスにそう話し、歩き出したパルちゃんの後を追っていた。
アーレス。
終焉騎士はアンデッドを倒すためなら何だってする連中だ。こんなところで好き勝手している悪人たちからの協力を一切躊躇なく受け取れる連中だ。
アーレスが挨拶しなきゃいけない相手は多いだろう。
「行くですよー!」
「ん」
僕はアーレスをその場において元気よく歩き出したパルちゃんの後についていった。
■■■■■
蝿がたかり、ウジの湧いた女性の死体。
元の顔がわからなくなるくらいのひどい火傷に、頭がかち割られて頭蓋骨が見えている頭部。腹には大きな穴が空いていて、内蔵がぐちゃぐちゃになって見える。その穴にはたくさんのウジが蠢いている。……そして、お腹には胎児と思われるものの残骸が残されている。
手も足も原型を求めないくらいにズタボロにされ、ほとんど骨しか残っていない。
何をしたらこんなに酷くなるんだという死体。
「蝿は邪魔です!ウジも邪魔です!」
そんな死体を前にパルちゃんは一切眉をひそめることなく蝿とウジをはたいていく。
「よし!」
ある程度ウジ虫が居なくなった段階でパルちゃんは死体をバックに入れていく。
パルちゃんのバックが赤色なのは……。
「ドンドン行きます!」
その後もパルちゃんは順調に死体を集めていく。
「あ、おじちゃん。死体の回収です!」
「お?おぉ」
ガリガリにやせ細ったいい年の中年にパルちゃんは声をかける。
中年はパルちゃんに顔を向ける。その血で真っ赤に染まった顔を。
「もう取れるところはとった。どうぞ」
中年は自身の手に握られたズタボロにされた死体をパルちゃんに渡す。
何をしていたか……そんなの言うまでも無いだろう。
「ありがとうございます!」
パルちゃん中年から死体を受け取る。……中年の行動に対して何の疑問を抱かない。当たり前の日常会話のように笑顔を向け合う。
これが国外酔街なのだ。……これこそが。
……間違いなくここは地獄よりもひどいだろう。
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