第49話 担当教員
今年は異例の年だ……と、混合クラスの担当教員であるハリソンがクラス内を見渡し意地悪気な笑みを浮かべた。
軍学校の教員には精神的な強さと高い指導力を求められ、それに加えて元軍人という決まりがある。
現役軍人にも劣らない体躯のハリソンは、壮年と称される年齢になったばかりの心身共に健康な男性だ。年齢的にも引退するには早く、怪我や病気といったものもない。
引退した元軍人だと言われても信じられず、皆不可解な面持ちで講壇に立つハリソンを見つめている。
「入学式で軽く説明を受けたとは思うが、文官、武官、混合クラスの授業内容は基礎的なもの以外異なり、担当教員の指示には絶対服従となっている」
ハリソンの射貫くような眼差しに、どこからか唾を飲み込む音が聞こえる。
「本来この学校に混合クラスなんてものは存在しない。今年に限り特別措置として作られたクラスだ。どれだけ特別扱いなのかと呆れもしたが……毎年二、三名でも多い貴族の坊ちゃん達が、今年は十名近くも入ってきているなら納得だ。しかも、あのロティシュ家の跡継ぎまでいるんだからな」
静かだったクラス内は一瞬で騒がしくなり、ニヤッと口角を上げ私に視線を投げたハリソンに肩を竦める。
「この混合クラスは学校側の配慮によって新設されたクラスだ。他の学年の者達は文官、武官、両方のクラスに籍を置き、将来必要なものだけを選択して受講している……が、このクラスは違う。必要なものだけでなく、全て叩き込むつもりだ」
「……全てって?それは、どういう……」
窓際の席に座っている線の細い少年が、思わずといった感じでか細く声を発した。
「俺が必要だと思うもの全てだ。基礎的なものは勿論、実践的なものから特殊技術まで、合格の域に達した者はどんどん先へ進ませる。それと、他のクラスや上の学年に引けを取らないよう、毎日夕方にみっちり基礎体力訓練を入れるつもりだ」
無茶だと声を上げず皆黙って聞いているのは、ハリソンが口にした内容がどれほどキツイものなのか分かっていない所為だろう……。
「特別クラスなのだから授業内容も特別であって然るべきものだろう?途中で限界だと思った者は俺に言え。直ぐに他のクラスに移してやる」
「……それは文官でも武官でも、希望したクラスに移してもらえるのですか?」
セヴェリが訊いたことは皆が知りたかったことなのだろう。
期待を込めた目でハリソンの言葉を待っている者が多数だが、恐らく平民と貴族との間で摩擦が起きないよう、又はそれ以上の何かが起こったときの為に距離を離しているのだろうから、事はそう簡単にはいかないはずだ。
「可能だ。だが、此処は貴族のお坊ちゃん達が通う王都の学園ではなく、実力だけが物を言う場所だ。貴族であろうと、元帥の孫であろうと、脱落者は此処での序列は底辺だと思え」
ハリソンの人を煽るような態度や口調は態となのだろう。
しかし、先程から度々私に狙いを定めて挑発するような発言をするのは何故なのか……。
コレは喧嘩を売られているのだろうか?と、天井に向かって真っ直ぐ手を上げた。
「……セレスティーア・ロティシュだったな」
「はい」
ハリソンが私の名を呼んだことで一瞬にしてクラス内の視線を集めてしまった。
頬を引き攣らせながら平静を装う私を嘲笑うかのように、元凶であるハリソンは腕を組み講壇に置かれている小さな台に腰掛け、顎をしゃくり横柄な態度で続きを促してくる。
さて、彼は一体何がしたいのか……。
意図がさっぱり分からない中、一先ず顔に笑みを張り付け口を開いた。
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