本気の遊び
簡単にフィールドを整えて心美達は向かい合う。
お互いの陣地をには既にたくさんの雪玉が転がっていて、開戦の準備は万端だ。
(思いっきり遊ぼうね!)
「ええ、感覚を掴むのにはいい準備運動ね」
己の持ちうる力を全力で遊び尽くす事に使おうとているユキに対して、スカーは力を無駄遣いしていいのかという疑問を抱いたが、心美は体力魔力度外視で楽しんでもいいのではないかと考えた。
そう結論付けた理由として、この低温下での活動の感覚を掴むことを上げた。
温かいところでは何事もなく動けていたとしても、ここではどうなのか。
ここまで心美のテレポートを利用してきたたためそれほど疲れなどはないが、実際に自分で動いた時はどうなるのか。
まず、単純に防寒対策としていつもより多く、厚く着込んでいて、重量感があることが挙げられる。
心地よい気候だった森の中で過ごしていた心美にとって、厚着して活動する機会なんてなかった。
特にアオバは人一倍寒さに備えて厚着を重ねてきたにもかかわらず、万全な状態と葉程遠い状態にある。
ここには、いつも通りの常識は通用しないのかもしれない。
冷たい空気が肺に刺さり、いつもより早く息切れしてしまうかもしれない。
環境が足を引っ張って、自分の想像するベストな動きにいざとなった時身体がついてこないかもしれない。
いつまで、どこまでいつも通りでいられるのか。
そうじゃなくなったときにどうなるのか。
そして、どうすればいいのか。
この雪合戦は単なる遊びにすぎないが、そういった変化の度合いを測るものさしになる。
心美はそう考えて、ユキと同じく自分の持ちうる力をすべて用いて、全力で取り組もうとしているのだ。
「ユキは言うまでもないけど、スカーとアオバもしっかりこの気温下で動く感覚を掴んでおくのよ。特にスカー、影の中にいれば何の影響もないから関係ないとか考えていてはいけませんよ」
(分かってる……。ちゃんと色々試してみるよ)
「ボクは絶不調な状態でどれだけのパフォーマンスが期待できるのか確かめておかないとね……!」
こうして本気のお遊びが幕を開けた。
♡
初めに動いたのは当然心美とアオバだ。
というのも雪玉を持って投げるという行為を必要とする以上、雪玉を持つことができる二人がメインの戦いとなる。
あくまでもユキとスカーはサポート要員。
約一名はガンガンに介入する気満々なのが心美の心を読む瞳にその心を読まれていたがそれはさておき、お互いの第一投目が放たれた。
身体能力で言えばアオバの方に若干分のある勝負なのかもしれないが、アオバに低温下の弱体化があるのならそこまで差はない。
制球も悪くなくそのままの軌道で飛んでいけばお互い雪玉が当たってしまうという軌道で球が突き進む。
それを心美は真横に転移することで避け、アオバは普段よりも弱々しい茨で薙ぐことで防ぐ。
「まあ、単発だとこんなものですか。じゃあ、こうしましょう」
心美は少し角度を付けた位置からアオバを狙う。
雪玉が手から放たれた瞬間、転移した心美は挟むように狙う。
「ユキちゃん、スカーちゃん」
アオバは二方向からの攻撃には目もくれず、サポーター達に声をかけながら振りかぶる。
心美が姿を見せた先にアオバは反撃を行い、防御は任せる算段のようだ。
だが、そう来ることは分かっていた。
次に何をしてくるか分かるというのはそれだけでアドバンテージになるのだ。
(アオちゃんもっとガンガンやっていかないとココミには当てられないよ~。私も攻撃に参加していい? てか、するね)
(ユキは好きに動けばいい。雪玉もそんなたくさん飛んでこないなら何とかしてみせる。どうせ私は雪玉を動かせないし……)
(オッケー!)
ユキは片手間に魔法で雪玉を消し飛ばし、スカーは飛んでくる雪玉の影を押さえて止める。
珍しく少しだけやる気を出しているスカーは、どこか頼もしく攻撃に参加できないことを理由に防衛を引き受ける。
「そうでないと数のハンデを与えた意味がありませんよね。でもそれは私も同じ。そちらのチームよりも狙える的が多い……!」
心美は転移を繰り返しながらじっとアオバ達を見つめる。
特に現状最大戦力である雪がどのような行動を取ってくるのかに注目しながら、適度に反撃も行っていく。
「ユキなら……やっぱりそうするわよね」
心美は連続転移を繰り返して雪玉をポンポンアオバ達の陣地に投げ入れていく。
アオバもスカーもそれなり視野は広く見えている範囲の雪玉は自分で対応できているが、心美が広く動いて多角的な放射攻撃を仕掛けるとどうしても対処が間に合わないことがある。
いくつかの雪玉を凌ぎ切れずに当たっていると、攻勢に出ようとしていたユキが大量の雪玉を動かし始め、心美は眉をひそめた。
心美のテレポートは万能だが無敵ではない。
視界内へ転移するという関係上転移先を見ていないといけない。
その観測が肉眼ならそちらに視線が向くし、千里眼でなら多少なりとも意識のリソースが削られる。
それに連続転移にも僅かながらラグが存在する。
安置へと転移したとしても再度テレポートを行うまでの一瞬、その次の瞬間が安置であるとは限らない。
特にルールで陣地が設けられていて、その範囲外への移動が反則行為となるのならば、広範囲を恒常的に狙われると逃げ場が無くなる。
それこそがユキの狙いだったのだ。
竜巻のような大きな渦を描きたくさんの雪玉が心美の陣地を舞い上がる。
これの厄介なところは本来なら直線的に飛んでくる球を躱してやればよかったのが、常に陣地内を不規則に埋める攻撃となったことが回避が容易なものではなくなったということだ。
しかし、視野の広さで言えば己を俯瞰的に眺めることのできる心美が随一。
転移での回避ではなくアオバと契約したことで獲得した精霊術を用いて迎撃へと移った。
雪景色の中青薔薇の舞う幻想的な光景が繰り広げられ、心美は雪玉が己の身体に当たることを防いでいく。
それでも、低温と植物の相性が良くないのか、平常時の力を発揮することはできずにいくつかはヒットしてしまう。
「中々……面倒ですね……っ」
ユキの広範囲攻撃の様子を観測しながら、心も読む。
それでいて攻勢に参加できるフリーな状態にあるアオバの出方にも注意しなければならない。
だが、ユキの操る雪玉をあらかた破壊し終えたことで回避の方にもある程度余裕が生まれる。
タイミングを伺いながら反撃も行い、ユキとアオバの動きを牽制していく。
「そんなに攻め急いでいいんですか? もう既に持ち球のほとんどを失ってしまっているみたいですけど」
(こうしないとココミには当てられないでしょ? それに今勝ってるの私達でしょ? あとココミの投げる雪玉を防げばいいだけなら楽勝だよ)
「……まあ、あなたたち全員が守りに専念したらさすがに崩せる気はしないので、私の負けですね。降参します」
「え、ボクほとんど何もしていないけど勝っちゃった……」
(ほら、やっぱりユキを暴れさせればすぐに終わった)
いくら多角的な攻撃が可能とはいえ、側面や背後からの攻撃ができない以上、全員が前方だけを警戒していれば心美の投げる雪玉など容易に防げるだろう。
この時点で逆転はないと判断した心美は潔く負けを認めた。
結局ほとんど何もしないまま勝負が決したことに関してアオバ釈然としない様子で、スカーは計画通りいった感じだった。
こうして本気のお遊び雪合戦は、ユキの一人勝ちのような形で幕を閉じたのだった。
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