寄り道一時
「ここら辺から結構冷えてきましたね。そろそろ着替えましょうか」
「寒い~。やっぱ帰ってもいいかな?」
「ダメです」
千里眼を用いた観測とテレポートを使用して移動でグレイシア手前の村まで来た心美は吐いた息が白くなったことで寒さを感じて足を止めた。
まだグレイシアまでは少し距離があるが、グレイシアの寒さが届いているのかこの村も十分に冷たい空気が漂っている。
アオバは身体を抱えるように自身の腕を回し、唇を震わせながら心美に帰宅を懇願してみるが、そんなことが許可されるわけもなく言い笑顔でバッサリと断られてしまう。
「とはいえ……かなり寒そうですね。グレイシアに続く道では最寄りの村らしいですが、ここでこれだけ寒いとなると、グレイシアはもっと寒いに違いありません。行くだけならすぐですがついてその気候に適応できずに行動不能になるのは好ましくないので……少しこの村に滞在して身体を寒さに慣らしていきましょうか」
(アオちゃんは寒そうだけどココミも寒いと思ってるのー?)
「アオバほどではないですがそれなりに寒いと思ってますよ。あまり急激な変化には体も悲鳴を上げてしまいますからね」
心美は心を読む瞳をアオバに向けたままユキの問いに答えた。
アオバの心のはとにかく寒い、冷たい、凍えるといったようなもので埋め尽くされているが、心美はそこまで深刻な状態ではない。
「何でもいいからどこか入りませんか? ちょっと休憩したいです」
「分かりました。もしかしたらまだ知らない情報が手に入るかもしれないので聞き込みがてらどこかで休みましょう」
心美がそう告げた途端、アオバの心は太陽が差したかも如く明るく灯ったのだった。
♡
「ああ~、生き返ります~」
「こら、はしたないですよ」
心美達は近くの喫茶店に入り少し休むことにした。
アオバは注文した温かいミルクを啜りながらだらしない声で一時でも寒さから逃れたことを喜んでいる。
それを咎めながら心美も温かいハーブティーを口にして辺りを見渡す。
お客さんはそれほど多くはないがちらほらと見受けられる。
「いいお店ですね。家から近ければ通いたいくらいです」
「あら、嬉しい。でもそういうってことはお客さんは旅の人かしら?」
心美は自宅でもよくお茶をしており、こういった落ち着いた雰囲気は好きだ。
この店の雰囲気はとてもよく、落ち着いてお茶を楽しめているので、心美も気に入ったのだが気軽に通うには少々距離がある。
そんな距離も心美にとってはそれ程問題にはならないのだが、それを口外することなく心美はひとり言を漏らしたが、近くを通った店主らしき女性に拾われてしまったようで話しかけられる。
「はい、こちらにはグレイシアに向かう途中で立ち寄りました。グレイシアまでまだそれなりに距離があるはずなのに結構寒いんですね」
「そうなのよ。でも向こうは雪も降り積もってもっと寒いらしいわよ。あなたたちは何をしに行くの?」
「探し物と観光ですかね」
「グレイシアは年中あんな気候で雪は珍しくもなんともないけど、降らない地域は降らないから観光に行く人もそれなりにいるって話ね。雪遊びで盛り上がるのも楽しいわよ」
「そうですね。雪で遊ぶのも悪くないかもしれません……が」
心美は無難な返事をするものの、アオバがこんな状態ではみんなで遊ぶというのも難しい話なのかもしれない。
そんな視線がアオバに向いたのを店主の女性も察したのか、それ以上は何も言わず、他のお客さんに呼ばれて行ってしまった。
(ねー、私の名前いっぱい呼ばれたー! ユキアソビって私と遊んでくれるのー?)
「違います」
ユキと雪。
決してユキの名前を呼んでいたわけではないのだが、無邪気に勘違いして遊んでもらえると思っている白い毛玉は、アオバと対極的に元気だった。
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