その瞳に何を映す?①四つ目
「はあ……」
心美は大きめなため息をついて手元を見つめた。
テーブルに転がる球体を眺め、考えに耽りながら手を中で転がす。
球体の正体は心美の瞳だ。
心美にとってそれは手足と同じようになくてはならない身体の一部。
そんな身体の一部を心美は一定周期で綺麗に拭いていた。
温かいお湯で湿らせた布で、顔を洗うのと同じような感覚で瞳を拭う。
どれだけ放置しても目立った変化は見られないそれに対する行為として何の意味があるかは分からないが、要は気持ちの問題だろう。
心美だって女の子だ。
なるべく綺麗でいたいと思うのは至って普通のことだ。
では、そのお手入れの最中になぜため息などついているのか。
その理由はある瞳にあった。
「この瞳……結局何なんでしょうね?」
手元にある心を読む瞳、遠視の瞳、そしてこの謎の瞳。
初めてアオバを視ることができたこの瞳だが、その効果の確認や検証は後回しにしてきた。
だがこうしたふとした瞬間に、この何も解明されていない瞳の存在に頭を悩ませてしまっている。
「まさかアオバを視るためだけの瞳ってことはないでしょう。ですが他に何が見えるのか見当もつきませんね」
心を読む瞳は初めて開いた時にユキの心を読み取って、その瞳が心を読んでいるということが何となく分かった。
千里眼の瞳もすぐに使い方を理解できた。
だが、この瞳は何が見えているのか分からない。
頑なに開かなかった瞳が開いたきっかけであるアオバが関係していることは間違いないと当たりを付けている心美だが、その瞳に秘められた力を未だに理解することはできていない。
あれ以来己の意思で開閉できるようになったことはよかったが、今この場で試しに開いてみても特に見えている景色が変わるわけでもなく、謎は一層深まるばかりだ。
(ココミ、またやってるんだ)
「ええ、あなたやスカーの毛づくろいと同じようなものよ」
(そっか、それは大切だね)
心美はユキがとことこと近づいてくるのに気づき、なにが見えるか分からない瞳を閉じてこころを読む瞳を開いた。
身を綺麗にするという意味では、ユキやスカーも行う毛づくろいと同じ。
心美にとってこの行動も一種のルーティーンになっている。
(でもなんか元気ないね。何か悩み事?)
「いえ、この瞳について少し考えていただけですよ。開くことができるようになったのはいいのですが、なにが見えるのか分かりません」
(そういえば三つめも開いたんだっけ? 早く分かるといいね)
「そうですね。ありがとうございます」
ユキから励ましの言葉を受け取りながら心美はお手入れを完了させる。
その時、ユキは怪訝そうに心美と瞳を交互に見た。
(あれ……? 一、二、三…………四? ココミ、これ何?)
「そんなの私が聞きたいくらいですよ。気付いたら首の後ろ……うなじにあったんです」
心美が抱える悩み。
それは三つ目の瞳の効果が分からないこと。
そして――――新たに爆誕した四つ目の瞳の球体――――開かずの瞳が知らぬ間にうなじに存在していたことだった。
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