Ⅴ トリアングルム・エクスプレス

トリアングルム・エクスプレス(1)

 昼間の王都の空は青い。いつかルカが見せてくれた幻想と同じ色をしている。曇りの日ばかりのヴァレリオスとは真逆の気候は、陽差しの暖かさと涼やかな風が心地よい。寒い時期になると逆に、湖の周辺は他よりも暖かいのだという。

 時折遠くの空に、帆船によく似たシルエットを見付けることもあった。聞けば海を渡って砂漠の国まで行く国営の運搬船で、リゲルが乗ってきた飛行船の比ではない程の大型船だと教えられた。隣国との平和条約締結より八年、外交面での難局を抜けたヴェスパー王国は、順調に貿易収支を上げている。


 白さが眩しい王宮は、磁気浮上を利用して宙に浮いているらしい。魔力を帯びた巨大な磁鉄鉱とビスマスの反磁性によって、王宮全体が、浮力に必要な魔力を半永久的に自給自足する仕組みになっているのだそうだ。

 その下に広がる湖には、河川が流れ込んでいる。王都は豊かな水を保有している為、街に水路が多い。蒸気機関のみに力を注ぐヴァレリオスとは違い、水力を併用することで澄んだ空気を保っている。

 女王陛下の住まう所に相応しい、自然と技術の共生を目指す美しい街だ。


 リゲルは何故か宮殿と一緒に浮かぶ、客人が使う建物の一角に身を置いていた。雇われの身なのだから、普通に考えれば使用人に相応しい部屋に住むべきだろう。けれども女王は、以前褒美を与え損なっているのでその代わりだと、リゲルをそこへ住まわせた。

 仕事は日によって様々で、蔵書の整理を手伝ったり、庭師に薔薇の剪定を教わったり。魔法薬は甘くて美味しいものを一日に三度飲めることになったので、空腹感は嘘のように収まっている。


 ルカがやってくれば低空飛行する鳥の形をした乗り物で湖を一緒に渡って、記憶を取り戻すべく試みと真剣に向き合う。

 まず初日に、かけられている魔術の状態を解析する装置に入った。これはオズワルドのものと違って痛くも気持ち悪くもならない、人間用の安心出来る代物だ。その後は魔術師にも、そうでない人にも沢山会った。魔法薬の賢威、催眠術の第一人者、著名な医者に、人口に膾炙する占星術師。挙げればきりがない。

 そうしているうちにリゲルは魔術義肢というものの、本来の恩恵を実感した。出会った魔術師の数人は、先の戦争で失った体の部位を魔術義肢で補っていたからだ。彼らのそれは全て軍が公開した技術により作られ、政府から支給されたものであった。 


「俺の師匠の所属する秘密情報部は、国外での仕事が主体でね。いつ帰国するのか分かれば、あの人にも意見を聞きたいものだけど」

 訪ねた魔術研究施設から歩いて帰る道すがら、ルカが自身の師匠の話に触れる。煙突よりも水車を多く見かける街中には橋が多い。リゲルは歩く道のりに面白味を感じつつ、ルカに問う。

「ルカの師匠って、どんな人なの?」

「名は、メセチナ・ブランシュ。博識で穏やかで実直、大気を操る魔術に長けた魔術師だ。師匠にしてみれば、俺は戦時に強制的に取らされた弟子なんだろうけど、独創者の疎かにしがちな魔術の基本をよく教えてくれた。俺が魔法薬の調合が得意なのは、師匠のおかげだよ」

「いい人そうだね」

「最も尊敬する独創者だ。将来は一緒に仕事をするものだと思ってたから、俺も昔は秘密情報部に所属したいと考えていた」

「保安局にしたのはどうして?」

「色々理由はあるけど、即位して間もない女王陛下が、傍で手助けをして欲しいと仰ったから、というのが大部分かな。女王陛下は以前から、歳の近い独創者である俺達に目をかけてくれていたんだ。俺はその恩を返すまでは国内で活動しようと、保安局を選んだ。そしてオズワルドは、特定の機関からのお誘いまであったにもかかわらず、話を蹴った」

「ひでえ」

「なんとなく、中央機関に属したくない理由も分からないでもないけどな。あいつはいつもそうだ、何を考えているのか説明しようとしない。今回の君のことだって、きちんと意見交換してから方針を決めたかったのに」

「俺、その辺りの事情とか、オズワルドから全然聞いてなかったんだけど」

「驚いただろ。でも誤解しないでくれ、君の意思を蔑ろにするつもりは無かった。君の身柄をこちらで預かると一方的に通告したのは、そうでもしないとオズワルドが女王陛下に会おうとしないからだ」


 湖の周囲に並ぶ建築物は、王宮に合わせた重厚かつ優美な様式のものが多い。保安局本部もその一つである。

 ルカとはいつもなら、保安局前の通りでお別れだ。けれど今日は、これまでの経緯を説明するから寄っていけと誘われた。中に入るとルカが同僚らしき男に帰ってきた旨を伝え、二階の一室を借りると別の人間に声を掛ける。

 通されたのは、少人数での会議に使うような部屋だ。そこでルカは自分と女王陛下のことを、リゲルに話してくれた。



 まず、ウィステリア女王陛下のこと。

 女王がリゲルのオーラを見てくれたのは、ルカがオズワルドとリゲルについてある危惧を抱き、思い悩んでいるのを見兼ねた為だ。

「オーラを通して本質を見れば、リゲルとやらが善い者か悪い者かくらいは判断出来よう。その者が善い者であるならば、リゲルとオズワルドとお主、皆で話し合って、それからどうするか決めれば良いではないか」

 そう言って、ルカに協力してくれることになったのだという。

 また、兼ねてよりオズワルドを中央機関に招きたいと考えている女王にとって、リゲルを王宮で引き取るという名目で間違いなくオズワルドを呼び出せるのは、悪い話ではなかった。かつては王都に住んでいたオズワルドだが、その頃も様々な理由をつけては、呼ばれた王宮へなかなか出向こうとしなかったのだ。

 斯くしてリゲルのオーラを確認してみれば、善悪どころかその正体までもが、すんなりと判明した。つまり、女王は記憶を失う前のリゲルを知っていて、以前にも同じようにオーラを見たことがあるようなのだ。

 自前の装置でリゲルを調べたオズワルドも、その正体を知っていて然るべきと、女王は瞬時に察した。しかしその時の対応からは、女王には珍しい戸惑いがあったと知れる。そうして女王はオズワルドの意見を仰いだのだが、残念ながら話は殆ど出来なかった。


 未だに女王は、リゲルが何者なのかをルカにさえ伝えてこない。オズワルドの意見を聞かないままに、自分がリゲルにその正体を告げてしまって良いものかと、考え込んでしまっているらしい。



「そもそも俺は、君とオズワルドのことを何故危惧していたか……これは、今となっては杞憂だったと言わざるを得ない話になるけど」

 そう前置きしたルカは続けて、リゲルを王都へ呼ぶことになった理由を説明し始める。


 ルカは様々な腑に落ちない点から、リゲルの正体は魔術師だと見抜いていた。オズワルドがそれを本人に伝えないのは、何か不都合があるからではないかと疑っていた。そして、もしかしたらリゲルの正体は、オズワルドが探し続けているとある魔術師なのかもしれないとも。

 ルカが絶対に阻止したいと考えていたのは、オズワルドが長年探し続けている憎むべき魔術師を、その手で殺めて罪を負ってしまうことだ。もしリゲルが件の魔術師であるならば、何か事が起きる前にオズワルドから離した方が望ましい。そう考え、リゲルの身を王都へ移すべきかと悩んでいた折、女王と顔を合わせる機会があった。

 悩みを話して返ってきた女王の提案は、ルカにとって有り難いものだった。リゲルが善いオーラを持つ者ならば、オズワルドの憎む魔術師である可能性は極めて低くなるからだ。


 オズワルドに電話をかけて、リゲルを女王陛下が雇うと伝えた。提案ではなく決定事項として伝えたのはオズワルドを飛行船へ呼び出す為で、実際はリゲルのオーラが悪いものでなければ、ヴァレリオスに戻るか、王都へ行くか、その最終決断はリゲル本人に委ねるつもりだった。


 女王が飛行船であの時ルカを隣へ呼んだのは、リゲルのオーラが善いものだった為、顔を突き合わせている全員での意見交換に入ろうとしたからである。ルカもこの結果には安堵した。

 しかしそれならば、リゲルが記憶を取り戻すための試みに対して、オズワルドがどうにも消極的であるのは何故か。気乗りしない素振りであるのが理由あってのことならば、多少なりとも考えを本人に説明するべきだ。

 ルカは記憶を取り戻したいリゲルに協力してやりたいと考えているので、オズワルドが何を考えているのか皆目見当もつかなかった。リゲルが仮に、戦争中の魔術師抗争が原因で呪いを受けた者であるならば、例え呪いの解除が困難でも生涯国の支援を受けられる。記憶を取り戻すことで派生する利点は思いつくが、不都合など思いつかない。何か見落としている点があるならば指摘して欲しかった。その為に、オズワルドとの話し合いが必要だと考えた。



 結果的には、オズワルドは何も説明しないまま去ってしまった。だが、女王陛下とのやりとりから確信を持てた部分もある。


 オズワルドは恐らく、リゲルが何者であるか知っているだけでなく、どうして今の状態に置かれたのかという理由まで分かっている。工房にある装置を使ったならば、リゲル本人も忘れている魔術戦の記録を抜き出せているからだ。

 あの装置はそもそも、魔術具の持つ記録を見る為に作られたものである。対象の物体が、いつ何処で誰に、どんな魔術を用いたのかを知ることで、戦いの痕跡を読む。それだけに特化したもので、他の情報を読み取ることはない。

 つまり、リゲルは魔術を使って戦った経験がある魔術師。それも、戦歴を見ればオズワルドが特定出来てしまうような魔術師だ。



「女王陛下もオズワルドも、知っているのに名を口にするのを躊躇う魔術師……君は一体、何者なんだろうな。陛下が改めて雇うと明言して、王宮の客間を宛てがわれている位だ。俺が考えていた悪い魔術師とは真逆の、信用していい人物なのは間違いないんだろうけど」

「う、うん。あの、魔術師同士なら分かる匂いってやつ……? 最近、あれが俺にも少し分かるようになってきたから、自分でも魔術師なのかもって思ってるよ。でもオーラの善悪っていうのは、どうやって分けるんだろう。例えばだけど、俺が昔誰かを殺してたら善人じゃないよね?」 

「まあ……善悪というのは、視点や時流によって変わる部分もあるからな。女王陛下の視点で見たら、自身や国家に好意的であれば善、悪意を抱いていれば悪。仮に戦時中なら、国の為に敵を殺す者も善だろう。でも、どうしてそんなことを聞くんだ。何か思い出したのか?」

「それは……」


 リゲルは勿論、思い出したいのだ。

 魔法薬で空腹が満たされていても、家族がいるならば会いたいし、自分にこんな厄介な呪いをかけた奴が誰なのかも知りたい。

 オズワルドは何者でもないリゲルのままでいいと言っていたけれど、今のままでいい筈がない。その言葉を鵜呑みにして記憶を諦めてしまうのは、最良の選択だとは到底思えなかった。

 忘却の魔術は呪いと絡み合っていて、それらを解くためには何が有効な手段であるのか、調べ始めて数日経った今も見通しが立たないままだ。まずは女王にお願いして自分の正体を教えて貰うのが一番の近道である気がするのだが、相手は雇い主とはいえ、やんごとなき身分の御方だ。あちらが呼び付けてくれない限り、会って話すのは難しい。


「……ヴァレリオスにいた頃に見た、夢の話なんだけど」

「夢? それは、君の記憶なのか?」

「多分」

 リゲルは夢の話を、ルカにしてみることにした。

 オズワルドも以前、拘束の魔術をリゲルにかけた折に、自分の師匠について言いかけたことがある。ルカにも師匠がいると知って、やはりあれは現実に起きたことだと思えた。あの夢の中で女王は確か、ルカとオズワルドを師から離して護衛に付けるとか、そんなことを言っていたから。

 それに王都へ来たことで、新たに分かったことがもう一つある。夢の中で女王と会った場所は、王宮の何処かだ。空気の匂いも床に映る空の色も、夢と同じ。偶然の一致だとは考えられないから、あの夢は過去に実際体験したことだと、自信を持っていいと思う。


 覚えてる夢の内容を、詳細に説明していく。

 白い床に映った美しい空のこと。女王から、ルカとオズワルドを自分の護衛にすると提案されたこと。誰かを仕留めて来いと命令されたことも、その後に何処かの崖で感じた、足元の遺体らしき感触も、全てを。

 ルカは最後まで黙って話を聞くと、ピクリと片眉を上げた。驚きと疑念が入り交じったような反応だ。


「……確かに俺とオズワルドは、ウィステリア様の護衛を任されていた時期があった。ウィステリア様が王太女の頃、先代の女王陛下がご存命だった頃の話だ。当時は平和条約が結ばれる直前で、魔術師が次々に狙われる事件が起きていた。だから、ウィステリア様の警備が厳重になったのは当然と思っていたけど──その夢での会話は、まるで俺達を師匠から引き離す意図があったみたいに聞こえるな……」

「何の為に?」

「いや……それは、」

 部屋には他に誰もいないのに、ルカは周囲を気にする素振りを見せた。少し考えてから、リゲルに尋ねる。

「その夢の話、他の奴にしたか?」

「ううん。夢が自分の記憶だって確信したのは、王宮に住み始めてからだから。まだ、ルカにしか話してないよ?」

「誰にも言うな。君の夢が実際にあったことだとしたら、大事件だ」 

「どういうこと?」

「俺も混乱している。けど事実、俺達が女王陛下の護衛に就いた後で、一人の魔術師が何者かに崖で殺されている。オズワルドの師匠、マグヌス・ディアマンテだ」

「……えっ⁈」

 天才と謳われた魔術師、マグヌス・ディアマンテ。世界で初めて魔術義肢を用いたとされる独創者。

 リゲルが唯一持っている本、『新訂版・三十五年戦争と魔術義肢の歴史』に記されている名だ。それが、オズワルドの師匠だというのか。


「じゃあ……俺が? オズワルドの師匠を、殺した……?」

「そうだとしたら、俺が危惧していた内容は正しかったということになってしまう。オズワルドが探している憎むべき魔術師というのは、師匠を殺した犯人なんだ。仇討ちするつもりはないとは言ってたけど、本心はどうだか……俺とあいつは戦時に未成年だったから、師匠と共に作戦に赴いたことは一度も無かったけれど、影でその戦いを支えたパートナーみたいなものだった。自分が関与出来なかった時期を狙ってマグヌスを殺した奴を、あいつは恨んでる筈だ」

「で……でも、オズワルドは俺に毎日、魔法薬を作ってくれてたよ。機械人形だって優しかったし」

「魔法薬は下手な調合をすると苦味が出るが、毒が混ざっている場合も同様に苦い。心当たりは?」

「そ、そんな……」

「でも君が、本当に女王陛下に命令されてマグヌスを殺したとしたら、話はもっと複雑になってくる。君に呪いをかけた上に、記憶喪失にした奴は誰だ? 何の為にそうした? その場合、より罪に問われるべきは女王陛下である可能性が高い。オズワルドは恐らく、黒幕がいるとまでは考えてないだろう。あの装置では、マグヌスと直接戦った相手のことしか分からないから」

「だって、それじゃ……もしそうだったら、ルカはどうするの? 女王の味方なんだよね?」

「勘違いするなよ、俺は保安局所属のルカ・エルムンドだぞ? 女王陛下は尽くすべき存在だが、それ以上に守らなければならないものがある。この国の法だ」

「じゃあ、本当に俺がマグヌスを殺してたら、俺と女王を捕まえるの?」

「捕まえるのは俺の領分じゃない。第一これはまだ、一つの仮定に過ぎない、俺も俄には信じ難い類のな。曖昧な部分の多い夢じゃ真相に至れない、思い出すんだリゲル。この莫迦げた憶測が外れていたとしても、マグヌスの死の真相には辿り着けるかもしれない、オズワルドが探している、真の暗殺者に。例え何処からか圧力がかかろうと、俺は事実に基づいて行動すると誓う。思い出して、真実を証言してくれ」

 

 信じ難いのはリゲルも同じだ。まさかそんな筈が無いと考えながらも、夢の一幕を思い返して不安になる。


「……ルカは、女王陛下がマグヌスを殺そうとするなんて、現実には有り得ないと思ってるんだよね?」

「動機が無い。そもそもマグヌスと女王陛下には、あまり接点は無かったんじゃないかな。ただ、よく知らないからこそ誰かにそそのかされたという可能性は、否定出来ない」

「……?」

「マグヌスには、敵国との二重スパイじゃないかって噂があったんだ。勿論、根も葉もない噂だ。俺の師匠は笑い飛ばしてた。けど本気で疑ってる奴もいて、そういう奴は魔術師達が次々に襲撃された事件も、マグヌスの仕業なんじゃないかと訝んでいた──いや、現在進行形でそう信じてる奴がいる、というのが正しいか。マグヌスが死んでから、魔術師が狙われる事件はぱったりと無くなったんだ」

「……倒したんじゃないの? その襲撃事件の犯人を、マグヌスがさ」

「俺もそう思う。マグヌスは独創者の中でも珍しい能力の持ち主だった、あれで大人しく負ける筈がない。相手が他国の強者だったとしても、相打ちが妥当な所だ。そうでなければ君みたいな状態にされたというのも……まあ、無きにしも非ずだけどな」

「……! え、ええええ? もう何が真相なのか分かんなくなってきた! 俺は、誰なんだよ……?」

「その意気だ。思い出さなければ、あらゆる可能性を狭めることは出来ない。俺が必ず、君の記憶を取り戻してやるよ」

「……ほんとにやばい記憶だったらさ、逃げてもいい?」

「ふっ。浅はかだなぁリゲル少年は。逃げられない自信があるから、こんな話をしてるに決まってんだろ。ついでに言うと、軍警察相手に黙秘は通用しないからな」

「ああああ! 王都こえええ! やだ、思い出すとしても王都ではやだ! オズワルドの所に帰ろうかな!」


 バタン!

 突然、凄い勢いでドアが開いた。ルカが息を切らして走ってきた男を見て、表情を引き締める。

「何があった、緊急か?」

「ルカ、その子がリゲル・ジョン・ドゥだな? 大変だよ、オズワルドが決闘を申し込んだらしい」

「……いつもの事だろ? もしかして、久々に王都でやるのか。誰と?」

「だから、そこにいるリゲル・ジョン・ドゥとだよ! 賭けの対象としない特例の魔術決闘として、女王が認めたと発表があった。明朝、王都のウィザード・コロッセオで、君はオズワルド・ミーティアと戦わなければならないんだ!」


 ……あの負け無しのオズワルドと、俺が決闘?

 嘘だろ。ウィザード・コロッセオで行う正式な魔術決闘っていうのは確か、相手を殺しても罪に問われないんだ。もしも俺が、マグヌスを殺した犯人だったとしたら。俺は明日、確実にオズワルドに殺される。

 女王はどうして、魔術を使えない俺とオズワルドの決闘を認めたんだ。

 まさか──俺が死ねば、自分がマグヌスの死に関わっている証拠が葬られるから……?


「──リゲル、至急王宮へ戻ろう。何としても女王陛下に面会して、決闘の撤回を願うんだ」


 ルカに引き摺られるようにして、王宮へ戻った。


 面会を二度、三度と重ねて申し出て、翌朝までルカと二人で粘ったものの、女王陛下が応じることは無かった。

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