第233話 彼女をその気にさせるコツ ④
すると、草壁が突然田村にむかってこんなことを聞いた。
「恋愛経験豊富そうだから、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんすか?」
20過ぎた大学生が、高校生に恋愛相談って、どういうつもりだろう?と思ってあやが隣で驚いていると、草壁がこう切り出した。
「女の子をデートに誘うコツってなに?」
見ると、大真面目な顔をしている。
ちょっと、一応恋人って言う設定のある女子が隣にいる場で他人にそんなこと聞く、普通?何を言い出すんだろう?
草壁の意図がよくわからないあや。ドーナツを持つ手がしばし止まった。
「コツですか?――」
聞かれた田村はちょっと腕を組んで考え出した。つまらない質問に大真面目に答えようとしている様子。
「――まあ、最初はあんまりギラついたところは見せないようにしたいですよね」
「ウンウン。なるほど。草食系のほうがいいってこと?」
「……い、イヤ……ちょっとその表現の仕方は微妙に違うような気がするけど。なんていうか、自分をあんまりアピールしすぎない」
「ダメなの?」
「男っていつも勘違いするんですよ。女子は男のかっこよさに惹かれるとか、そんなふうに」
「違うんだ?」
「そりゃ、黙っててもモテるようなルックスなら話は別ですけどね。男の『どう?俺すごいでしょ?』みたいなアピールは却ってマイナスになることのほうが多いもんですよ」
「なるほど。なるほど」
「女の子っていうのは、自分のことを見てほしい、聞いてほしいって思うものなんです。そこで俺が俺がってやってもウザがられるだけでしょ?」
「ふうん、そんなもんか……」
「会話しながら、その子が気を使っているオシャレのポイントとかを目ざとく見つけて、さり気なくそこを誉める。そんなポイントを一つでも稼げたら、一歩その子に近づいたって感じにもなるし」
「難しいよな?」
「まあ、そうですけど……ただ、結局はその子の性格とか考え方に合わせないと、迂闊にただ誉めればいいとか思ってても実はコンプレックスを突っついて逆効果だったりしますよね?」
「ありえるかもな……」
「だから、長瀬さんがどんな人かが、ポイントですよ」
「ああ!なるほどね、公式があるわけじゃないよなあ」
(ちょ、ちょっと、会話がおかしなことになってない?)
延々と自分を無視するように続いた男子組の会話をここまで聞いたあやは必死に草壁に目配せをしようとするのだが、草壁がこっちを振り向きもしない。
そして、田村から
「そこは、僕よりそっちのほうが分かっていると思うから、作戦は自分で立てないと!」
「そうだよなあ」
草壁はすっかり田村との話しに夢中で、隣で目を剥いているあやの様子には一向気づいていない。
「長瀬さんって、固そうですよね?」
「固いってなんてもんじゃないよ……鉄壁」
「草壁さんも結構苦労してるんですね……ところで、草壁さん、やっぱりお二人は付き合っては居ないんですよね?」
「ん?」
草壁の目の前では、田村がニヤニヤ笑いながら、隣同士に座るあやと草壁を交互に見て勝ち誇ったような顔をしていた。
「あ……いや、付き合ってるよ」
虚ろな目をした草壁が、とりあえず今頃になって隣に座るあやの肩を抱いてそう言ってはみたが、完全に泥縄式。 普段はとても温厚なあやも思わず「なにやってくれてんですか!」と言って草壁の頭を張り倒さずにはいられなかった。
第47話 おわり
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