87、異世界の母



『──やっとあいつと離れたわね』


 そういえば、最近ずっと一緒に居ますからね。


『サトシ、あなたいったい何してるの‥‥‥』


 やっぱり怒ってます?


『怒ってるわよ。ちゃんと言う事を聞きなさい』


 女神様、トシゾウはそんなに悪い奴じゃありません。

 ちょっと我儘になってただけだと思うんです‥‥‥。


『あなたは、あいつの事を何も分かってない!』


 それはそうかもしれませんが‥‥‥。


『もう少ししたら、あいつと合流するんでしょ? その時さっさと実行しなさい』


 実行とは?


『分かってるでしょ? 殺すのよ』


 ‥‥‥嫌です。


『どうしてよ?! あんなデブに生きる資格はないわ!』


 ‥‥‥女神様、ごめんなさい。

 

『謝っても許さないわよ。やりなさい』


 無理です。

 俺にはトシゾウを殺す事は出来ません。


『ああ、もう! このままじゃあ、危険を冒してまで、あなたを召喚した意味がまるでないじゃない!』


 ‥‥‥召喚?


『‥‥‥そうよ』


 女神様がこの世界に、俺を召喚したんですか?!


『何よ今更‥‥‥なんとなく気付いてなかったの? あいつを消すために、私があなたをこの世界に召喚したのよ』


 全然気付いてませんでした‥‥‥そうだったんですね。

 なんか、色々回りくどい事してますね‥‥‥。


『あいつにバレないように、最善を尽くした結果よ。後はサトシがあいつを殺せば、全て上手くいくのよ』

 

 俺はその為だけに、この世界に存在してたと‥‥‥。


『その通りよ、物分かりがいいわね。『賢さ』が機能しないあなたに、ずっとガッカリしてたの。最後くらい私を喜ばせてよ』


 ‥‥‥俺は失敗作なのかな?


『悔しいけど、あいつの召喚したウメやユウカと違って、私の力では完璧な存在を造る事は無理だったみたいね‥‥‥』


 子供が非行に走る時って、こんな気持ちなんでしょうね。


『‥‥‥わけわかんない事言ってないで、頼んだわよ。もうすぐあいつが来るわ』


 女神様一つ質問良いです?


『‥‥‥何よ。あんまり時間がないわよ』


 それ、断ったらどうなります?


『なんとなく分かってるんじゃないの? この世界から消えてもらうしかないわね』


 また死んじゃいますか‥‥‥。


『あなたは私に召喚された不安定な存在。私には攻撃出来ないし、私が召喚を解除したら消えてなくなるわ。ウメやユウカが、あいつに逆らえないのと同じ理由ね』


 ‥‥‥なるほど。


『わかったでしょ? お願いだから、ちゃんと言う事を聞いて!』


 ‥‥‥善処します。


『‥‥‥じゃあ後は頼んだわよ。期待してるわ────』






 目を開けると夕暮れの空が広がっていた。

 

 ──悪い目覚めってやつだな。


 数時間ほど寝てたようで、暖かかった草原が嘘のように肌寒い。


「‥‥‥女神様、無茶言うよな」


 立ち上がり山の斜面から下を見下ろすと、トシゾウがフラフラながらも、歩く事なくこちらに走って来るのが目に入った。

 俺の姿が向こうからも見えたのだろう、拳を握りしめてこちらに向かって片手を大きく突き上げるトシゾウ。

 なんかカッコ良いが足はフニャフニャだ。

 今にも倒れそう。



「トシゾウさん頑張れ! あと少しだ!」


 気付いたら、俺は大きな声でトシゾウを応援していた。

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