投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜

42、奥さん見てください、この切れ味！

「やあ！」

「ぎゃあー！」

　なんてこともない。

　色欲のイレイザは、構えた鞭すら使うことなく一撃でレイラにやられた。

　なんという、かませ犬っぷりでしょう。

「ニア様、やった！」

「‥‥‥うん。凄い凄い」

　いや、レイラが強くなり過ぎたんだろうな。

「くぅ、なんて‥‥‥なんて、強さなの！」

　色っぽく倒れている色欲のイレイザ。

　服の乱れ方が素敵。

「ニア様、見ちゃ駄目です！ すぐにとどめを刺しますね」

　恐ろしい娘。

「お願い許して！ 何でも言うこと聞くから！」

　色欲のイレイザの懇願。

　何でも？ なんと甘美な言葉でしょう。

「そんな安い誘惑に引っかかる人はここにはいません。覚悟しなさい！」

　引っかかる男は多そうだ。

「色欲のイレイザ、一つ頼みがある」

「ニア様？！」

「‥‥‥レイラ、違うから」

　一人だったら、どうなっていたかはわからないけどね。

「イレイザは魔王と直接話せる？」

「もちろん！」

　倒れながら偉そうに胸を張るイレイザ。

　凄く‥‥‥凄く揺れた！

「じゃあさ、見逃してやっても良いが、魔王に伝言を頼めるか？」

「お安い御用よ！」

　ヨロヨロと立ち上がりニヤリと笑いながら、しなをつくる色欲のイレイザ。

「ニア様、信じて大丈夫ですか？」

　不安そうなレイラ。

「まあ、騙されても害はないし」

　魔王へ伝言が伝わらないだけだ。

「イレイザ、貴方がニア様に色目を使った罪は重い。ここで殺してあげたいけど、ニア様の言葉だから仕方ないわ。裏切ったら必ず殺しに行くから、必ず」

「‥‥‥ひっ」

　冷たい視線でイレイザを見下ろすレイラ。

　綺麗な顔なので威圧感が凄い。

　色々覚醒しちゃったようです。

「ニア様、何を頼むのですか？」

　ニコニコとこちらを向くレイラ。

　二重人格？

「俺たちは勇者の剣を手に入れたら、すぐお前を倒しに魔王城へ向かう、首を洗って待っとけ。せいぜい守りを固めとくんだな！って伝えてくれる？」

「わかったわ！ それだけでいいの？」

「ああ、頼んだ」

「他には本当に大丈夫？ 良いのよ好きにしても」

　胸の谷間を見せてくれる色欲のイレイザ。

　素晴らしい！

「貴方はやっぱりここで死になさい」

　煉獄の剣がメラメラと燃えてます。

「‥‥‥すいません、調子に乗りました。急ぎ伝えてきます」

　会釈すると、色欲のイレイザは走って出口に消えた。

　俺たちが通って来た道。

　まさか、教会通るの？！

「ニア様は私を好きにしてたら良いんです」

　ブツブツと何か言ってる大胆な娘。

「さて、宝箱を開けますか」

　宝箱を開けるのはなんかワクワクする。

　まあ、今回は中身が分かっているのだが。

「罠じゃありませんよね？」

「勇者の剣だってイレイザも言ってたし大丈夫‥‥‥かな？」

「あの魔族信用出来ません」

　レイラの意見には私情が入ってそうだが、確かに色欲のイレイザの信用度は低い。

「レイラ、宝箱を調べる魔法とか‥‥‥」

「ごめんなさい、覚えてません」

　申し訳なさそうにレイラ。

　勇者が覚えるような魔法じゃないか。

「宝箱の罠の定番と言えば、やっぱり開けたら宝箱がモンスターでいきなりガブリッ！ とかかな？」

「後は開けたら変な煙が出てきて、おばあちゃんになったりとかですか？」

　どこの昔話ですか。

「危ない所だった、ありがとうレイラ。何も考えずに開けちゃう所だった」

「そんな、私なんて」

　モジモジと嬉しそう。

「よし、俺は宝箱を調べる魔法を考えたぞ。レイラ少し下がって」

「凄いニア様！」

　宝箱から距離を取るために下がりながら、キラキラした目で俺を見るレイラ。

「いくぞ！」

　ドガッ！

　ゴロゴロゴロゴロッ‥‥ガシャーン！！

　カランッ‥‥‥カランッ‥‥‥

　‥‥‥。

「‥‥‥うん、成功だ」

　石を投げつけた宝箱はひしゃげ、転がりながら後ろの壁に激しくぶつかり、その弾みで蓋が開いた。

　中から剣が飛び出して寂しそうにカラカラと転がっている。

　‥‥‥強く投げすぎた。

　伝説の武器との初対面が台無しだ。

「流石、ニア様の魔法！ 中身まで確認出来ましたよ！」

　この娘は凄く優しい。

　大事に育てよう。

「これが勇者の剣！」

　寂しそうに転がる勇者の剣を見下ろす俺たち。

「レイラ使ってみてよ」

「ニア様が使って下さい。私はこの剣があります」

　煉獄の剣を大事そうに撫でるレイラ。

「勇者の剣なんだからやっぱり勇者が使わないと。レイラのために取りにきたんだし」

　勇者の剣を拾い上げレイラに手渡した。

　凄く真剣な目のレイラ。

「‥‥‥ニア様、私いっぱいがんばります」

「ほどほどで大丈夫だから。試し斬りしてみてよ」

　無茶はしないで欲しい。

「やってみます！」

　横に転がる大きな岩を見るレイラ。

「えい！」

　掛け声と共に岩は真っ二つ。

「ニア様、凄い切れ味です！」

「‥‥‥そうか」

　レイラが強くなっているので、岩が切れたくらいでは剣の強さがなんかピンとこない俺。

　レイラ本人には凄さが分かったのかもしれないが‥‥‥。

「レイラいきなりで悪いんだけど、ちょっとだけ剣借りても良い？」

　失礼な話だが、試したい欲求は強い。

「二人の剣です。一緒に使いましょう！」

　快く貸して頂きました。

　さあ、試してみよう。

　俺は日頃から剣など振ったことがない。

　──何に試そうか

　目に入ったのはその辺でゴロゴロしてる『王様』。

「やっぱ、貴方ですね」

　俺は軽く跳躍して、王様スライムの頭上から一気に剣を振り下ろした。

　剣の心得がないので、とりあえずおもいっきり叩きつけるのが一番のはずだろう。

　スパンッ！

「ギュー！」

　綺麗に真っ二つになり消滅する王様。

「‥‥‥凄え」

　斬った手応えすら感じなかった。

「‥‥‥ニア様、カッコいい」

　勇者の剣、勇者のために用意された伝説の剣。

　その名前は伊達じゃなかった。

「さて、やるか！」

「遂に魔王城に乗り込むんですね、私がんばります！」

　勇者の剣を握りやる気満々のレイラ。

「いや、レベル上げ」

「あれ？ ニア様、あの魔族への伝言は？」

　イレイザに頼んだ魔王への伝言の事。

「あれは魔王が信じるかわかんないけど、守りに集中してくれたら、少しの間でも人間にちょっかい出してこないかもしれないだろ？」

「ニア様流石です、嘘の天才です！」

　それ褒めてる？

「さて、もっと強くなって魔王をビビらせてやろうぜ」

「はい！」

　俺たちの洞窟ライフが始まる。