31、親衛隊の給料は安い?



 ノーマルスライムさんを30匹倒した俺たちは、一度城に戻っていた。

 報告作業です。


「おお、どうであったか?」


 ヒゲのおじさんバルカン。


「とりあえず今回は依頼受けたけど、もう次は受けないよ」


「駄目ですニア殿、物事には過程というものがあります。徐々に強い敵と戦っていかなくては、すぐ命を落とされますぞ!」


「やっぱり依頼はまだ続くの?」


「当然です」


「それ進めていくと、なんかいい事あります?」


「魔王城の場所が判明しますぞ!」


「今教えてよ」


「いきなり魔王城は危険ですニア殿」


 付き合ってられない。

 俺たちはその場から立ち去る。


「ニア殿どこへ?!」


「魔王城とか多分凄い目立つでしょ? 自分達で探します」


 街の人にでも聞けばすぐわかりそうなものだ。


「待って下され! ニア殿達に何か有ればわしが怒られます、なんとかお願い致す!」


「依頼を受けるより勝手にレベル上げてた方が効率いいし、魔王の城とかすぐ見つかりそうだし‥‥‥見つけても強くなるまで行きませんから」


 俺たちに何もなければ、バルカンさんが怒られることはない、のかな?


「しかし‥‥‥あ、そうだ!」


 ニヤリと笑うバルカン。


「悪い大人の顔してますよ」


「うるさいですぞ。‥‥‥依頼を進めると勇者専用武器『勇者の剣』が手に入りますぞ」


 もう一度ニヤリと笑うバルカン。

 これで俺たちを掌握できたと思っているようだ。


「レイラ、勇者の剣欲しい?」


「私はニア様に貰った剣がありますから」


 剣の柄を大事そうに掴むレイラ。


「うぬ、その剣はまさか『煉獄の剣』では?!」


 そうです。


「わしも欲しくて妻に頭を下げているのに、未だ手に入らぬ店売り最強の剣ではないか!」


 説明ご苦労様です。

 バルカンさんて確か親衛隊の隊長だったよな?

 奥さん買ってあげなよ。


「何故そんな高価な剣を?!」


「買いました」


「金はどうしたのだ?!」


「モンスターを倒せば貰えるでしょ」


「そうであるが‥‥‥」


 バルカンさんが黙った。


「じゃあそれなりの剣もあるので、俺たちはこれで」


「待たれよ! 勇者の剣はもっと強いはずですぞ!」


「レイラ欲しい?」


「私はニア様に貰った剣が良いです」


「だそうです、じゃあ」


「‥‥‥ぐぬぬ」


 去ろうとする俺たちを止める手段がなくなったようだ。

 依頼が全て終わったって、嘘の報告でもすればいいのに。


 ──あ、そうか!

 

「バルカンさん取引きしましょう!」


「‥‥‥嫌な予感がしますぞ」


 ニコニコと笑う俺を見て、バルカンさんは苦い顔をした。






「ニア様、あの村ですかね?」


「そうみたいね」


 俺たちはバルカンさんからの依頼を受け、ポキ村というモンスターに襲われている村の救援に向かっていた。


 バルカンさんとの取引き。

 依頼の内容を全て開示してもらい、やらなくても支障ない依頼はクリアーしたことにして貰った。

 こういった村の救出など困ってる人がいる依頼、もしくはやってないと足がつく依頼のみ手早くクリアーしていく。

 そうすれば勇者の剣も魔王城の情報も手に入る。

 バルカンさんも怒られない。


 バルカンさんは依頼を達成したら報告書を作成して、王様に提出するそうだ。


 ──文書の改ざん


 バルカンさんは初めこそ嫌がっていたが、どうせ俺たちが何もしなければ怒られる。

 ウィンウィンです。


「ニア様?」


「ああ、ごめん行こうか」


 元の世界の難しい話を思い出していたら、レイラが不安そうにこちらを見ていた。


「バレたらバルカンさんがかわいそうだから、俺たちで王様に謝ろう!」


「そうですね!」


 俺たちは立ち止まるわけには行かない。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る