第11話 『物語の呪縛』からの解放

 日曜は早寝早起きし、万全の体調で朝からパソコンへと向かう。TRPGから受けた衝撃を活かして書くためだ。


 とはいえ、新作をいきなり書き上げるのは厳しい。そこで、先週書き上げて氷室や紅理子ちゃんに読んでもらった作品を書き直してみようと考えていた。


 俺はこれまで、指摘された内容を踏まえて読み直して分析はしても書き直しはせず、分析結果を踏まえて新しいものを書くようにしていた。


 過去を顧みず未来へ向かって進んでいたつもりだったが、それは自分の欠点を覆い隠して格好をつけていたに過ぎなかったことを、いざ書き直そうとして自覚した。


 これまでの俺は『書き直さなかった』のではなく『書き直せなかった』のだ。


 欠点を指摘されて何かしら対策を考えたとしても、一度書き上げた作品がガチガチに固められすぎていて、これまでの俺のやり方では書き直すに書き直せずに、一から書くしかなかっただけだ。


 今は違う。


 こうして書き上げた作品に改めて向かい合って、書き直せる気がしているのだ。


 土曜にTRPGをプレイしたことで、同じ筋立てでもキャラが変われば物語も変わってくる実例を知った。未知の方法論に基づき、自分も登場人物の一人となってその場のみんなで一つの物語を創り上げた経験。


 それが、俺の書いた小説の登場人物を『物語の呪縛』から解放してくれたのだ。


 結果として『物語の枠組みは変えず、キャラクターをすべて別人に置き換える』という発想を持つことができた。


 勢いに任せてキーを打つ。


 理詰めで事件を解決する主人公。まったく失敗せず危機に陥っても颯爽と解決してしまう姿は爽快感があるようで、単なる予定調和だ。


 そこで、どこか抜けている主人公に変更する。ときどき、とんでもない凡ミスをするのだ。そうすると、危機は更に大きなものとなる。そこで、他のキャラと協力して切り抜ける。


 他のキャラも総入れ替えしている。当然、即興に近いキャラクターの設定を深められてはいない。


 それでも、「この場面でこのキャラならどうするだろうか?」「この危機を乗り越えるのにちょうどいい技術を持っていそうなのは誰か?」といった、今までなら書き始めるときに決めていたことを、書きながら考えてキャラクターを動かしていった。


 物語にとっての正解をし続けるキャラクターではなく、その場その場で間違えるときは間違える。想定外の展開へと入ったりもする。そんなキャラクターの動きになっていく。


 収まるべきものがどこに収まるかを決めてしか書いてこなかった身としては、正直しんどい。


 それでも、とても刺激的な執筆だった。


 今までとはまったく違う、書く楽しみがある。


 食事を摂るのを忘れそうになって琴子さんに呆れられた以外は、ずっと夢中で執筆し続けていた。


 夜遅くになり、物語は。


 いや。


 キャラクターたちは結末へと辿り着くことができた。


 そこには、書き直し始めた時点で想像もしていなかった物語が生み出されていたのだった。

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