第十九部「夜叉の囁き」第1話 (修正版)
長い歴史で
それは、間違った歴史
それは、悪魔の
そして、神と悪魔は、いつも背中合わせ
☆
長い時の果てに、再び季節が訪れた。
そして、再び過ぎて行く。
どんなことも、過去になっていった。
時は戻らない。
分かっているのに、それを認識することは残酷だ。
もしかしたら、自分は逃げてきたのかもしれない。
そう
やっと、
小さなお寺の隣の、静かな霊園。
決して大きくはない。それでも落ち着いて眠れる場所だった。まるで、ここだけは時間がゆっくりと過ぎているのではないかと思えるほど。
街を見下ろせる丘の上。
周囲の木々からは緑の匂いがした。
すでに季節は夏。
夜の空気にも湿度が増え始めた頃。
しかしこの日は日中でもそれほど蒸し暑くはなかった。
「ごめんね…………色々と手伝ってもらって…………」
線香の煙が周囲の空気に絡まる中で、墓石の前でしゃがんで手を合わせた
「……
それを
「そうね……他人事じゃないもの…………
それに
「……でも…………お金までみんなに出してもらって…………」
「確かに最近の墓地の金額には驚いたけど、出さない理由にはならないよ。日頃の
その
「……変な家族だね…………」
その
驚いた
「……人生ってさ…………何が起こるかなんて……分からないよね」
「
そんな
三人の会話を一番後ろで聞いていた
その時その時で、多くのことを選んできた。そのいくつのことが正しかったのかと、やはり
しかし、今の
──……今、こうしてここにいることは、間違いじゃない…………
もちろん予想など出来ていたわけではない。よもやこんなオカルト的な人生を歩むとは想像出来るはずもなかった。そして、それが想像していたものとは大きく違うものであることも学んだ。
それでもそれは誰にとっても同じこと。
「これからも忙しくなると思うけど…………」
そう言って言葉を繋ぐのは
「──ここが…………みんなが集まる場所になるといいね…………」
その
「でもその前に────」
そう言いながら
「〝蛇の会〟の拠点も作らないと…………」
蛇の会は元々
そして
「協力者も必要になるかもしれない」
しかし
「でも…………これ以上誰かを巻き込むのは怖いよ…………」
振り返った
「……能力者が欲しい…………」
声のトーンを落とした
「みっちゃんと
「……それは…………そうだけど…………」
小さく返す
「もちろん焦っちゃダメ。神社を潰しただけじゃ駄目なのは
「うん…………そんな簡単なことじゃない…………」
それは、そう応える
誰もがその覚悟を持っていた。
そして、
だからこそ、次の
「……もう誰も犠牲にはしないよ…………あなたたちもね…………」
☆
決して大きな神社ではない。
それでも、その歴史は長い。
しかし、国の表の歴史にはほとんど存在しなかった。
その神社は現在では地図にも存在しない。
武闘派と言われる
神社を古くから
現在の当主は宮司でもある
長男で六才の
そんな特殊なしきたりを持った
それでも
その日、本殿の中央に位置する祭壇の前に通された
最初に口を開いたのは
「
「最近、色々と騒がしくなっておりまして…………」
正座しながらも気持ち的に身構えていた
しかし
通常では真後ろに座ることすら許されない。斜め後ろで頭を下げ続けるのが通例だった。にも関わらず、
毎度のことと
その
「そのようですな……
その
「しかし…………我々には関わりの無き事…………」
そして、それに返す
「いえ…………我らが
すると、それまで黙っていた
「それは
それに対し、さらに
「こちらにも
言いながら、しだいに
しかし、
「武闘派ですか…………しかしその武闘派ゆえに…………どなたも近付けないではありませんか…………
その
しかしそれが見付かるよりも早く口を開いたのは
「
事実、
「しかし…………
そう返す
「なに、ここまで辿り着くのも難しかろうて」
小さく笑みを含めた
「相手は
その
「
☆
「この間は久しぶりに職務質問を受けてな、まあ深夜だったが…………ナンバープレートの照合をしてから声をかけろと言ってやったよ」
そう言って運転席の
暗い車内。
さらには隣のビルからの大きな影で黒い車そのものが隠されていた。周囲に同じように路上駐車された車は見当たらない。街中からは距離があった。海に近い工業地帯の幹線道路。夜となれば通る車も少ない。
「お前は子供がいるからな。この時間なら大丈夫か?」
そう言う
「そうは言っても夜ですよ。短時間なら構いませんが…………」
溜息混じりにそう応える助手席の
元々は警視庁のエリート監察官の一人だったが、その霊感体質を理由に三〇才の時に内閣府に引き抜かれる。それから六年の歳月が経っていた。
産まれは代々政治家の家系。大学の政経学部を卒業後に自らの意思で警察学校に通った変わった経歴を持つ。キャリア組として通う必要のない警察学校。しかし
クールな印象に見られることが多いが、幼い頃から厳しく育てられてきたせいか寂しがり屋な一面もあった。そしてそれは自ら自覚もしていた。それを隠すかのように他人に対しては強気に接することが多く、周りからは冷たくキツい性格に見られていた。そのためか男性からは敬遠されることが多い。
警視庁に入ってから付き合った同じ警視庁内の職員との間に一〇才になる娘が一人。しかし相手には家庭があった。実家の反対を押し切ってシングルマザーになることを選んだために、それ以来実家とは疎遠になったまま。もちろんシングルマザーとして妊娠と出産をしたことは警視庁内でも噂の的となり、実務にまで影響を及ぼしていた。
総合統括事務次官になってからは、主に
そんな
「最近の
その
「警戒は強めています。ただ、簡単に内部にまで入り込めるわけでは…………」
「相変わらずの言い方だな。確かに簡単に手の内を見せるような相手でもない…………まともな人間じゃないしな」
──……それを言うなら、私だって…………
総合統括事務次官の職員のほとんどは、いわゆる霊感体質と言われる人間が多かった。少なくとも直接担当の神社を受け持っている職員は能力者と決まっている。その七名は〝裏七福神〟と呼ばれた。職員の中で
そして
その
「
「分母が減れば必然的にパーセンテージは上がります。理系の人間でなくても分かることですよ」
その冷ややかさに、
「まあ、何か動きがあれば報告を頼むよ」
「あそこは私でも管理し切れる所ではありません…………裏が見えないからです。立ち入ることですら難しい時もあります…………」
僅かに緩む
「お前は、そのための人間だろ? 裏七福神の一人として…………」
☆
化粧台の鏡の前に、
中には〝
首の第二
その
──……結局…………生きてる人間の自己満足なんだよね……………………
最初から分かってはいた。
それが宗教というもの。
一神教と多神教の違いこそあれ、
背後からの足音に振り返ると、そこに立っていたのは
「置き場所も考えないとね」
その
「とりあえずお線香立ての代わりになるかなって思って…………
それでも、不思議なほどにこういうことを大事にしたがる。だからこそ
宗教は人間が作ったもの。その認識は変わらない。それでもその必要性も意味も理解していた。
二人は死者を粗末に扱うのを嫌った。
だからこそ
そこにリビングの
「
「あるある。食べ過ぎなきゃ来年の春まではいけるよ」
その
「みんなで頑張ったもんねえ」
家の裏は竹林。
普段入ることはないが、そこも家の敷地の一部。そのため、春には竹の子採りが出来た。
もちろん
茹でた竹の子の皮を剥き、すぐに食べる物以外は瓶に小分けして塩漬け。食べる時には塩抜きをする。
「皮付きの炭焼き美味しかったなあ」
気持ちを切り替えたような
皮に切れ目を入れただけで七輪で炭焼きされた竹の子は旬でしか味わえない。縁側で七輪を囲んで四人で食べた日はほんの少し前のこと。それなのに
ソファーで両腕を上げて背を伸ばした
「来年また食べれるよ。採るのは大変だけどね」
それに応えるのは
「腰が痛くなるのよねえ。もう若くないし」
そう言って
その
「おばちゃん臭いこと言わないでよ…………でも楽しかったよ」
その笑顔を
「そうですね、しかも美味しいし。今日もやっぱりマヨネーズですよね」
「今日はどうする? ワサビマヨ? カラシマヨ? オリーブ醤油にマスタードもありだね」
そう言いながら笑顔で調味料を出す
それは
普通の関係ではない。
もちろん本当の家族でもない。
しかし繋がっていた。
誰かと一緒に飲むお酒も美味しかった。
それでもそんな夕食を楽しんだ後は現実に戻される日々。
それはいつも全員でお酒のツマミ以外の皿を片付けてから始まる。
次のターゲットは〝
最初の頃は場所も踏まえて近場から選んでいたが、今回は
「
ウィスキーのロックグラスを片手に、
すると
「
「総合統括事務次官に担当がいることが分かってるだけなんて…………」
そこに冷酒を飲みながらの
「
それに返すように
「武闘派かあ…………」
武闘派という言葉をどう捉えたらいいのか、全員が戸惑った。
すると
「
「ダメですね。どの地図サイトを見ても黒く塗り潰されてます。衛星の画像データ自体が修正されていると考えたほうがいいでしょうね。依頼をすれば要望には応えてくれるみたいですから珍しいわけではないですけど…………軍事施設とか…………」
その
「でも神社で地図からの削除依頼なんて、理由が考えにくいな…………そう考えたら場所が分かっただけでも
「
「
そう返した
「それより前から思ってたんだけどさあ……総合統括事務次官って、なんの部署か全く分からない名前なのはどうしてかなあ?」
その
すぐに返したのは
「元々公表されてる内閣府の組織図には存在しないし、他の内閣府の人間にも気付かれにくくしてるんでしょうね。長過ぎて読みにくいし」
それを
「だったら内閣府である必要も無いのに…………どうして内閣府の中にひっそりと置いてるんだろ…………」
「リクルートのしやすさ?」
その
「内閣府は政府の指示で動いてるようで、いざとなれば政府を動かすことの出来る組織だよ…………その内閣府を作ったのは、誰なんだろうね…………」
そう言った
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十九部「夜叉の囁き」第2話へつづく 〜
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