第十四部「憎悪の饗宴」第4話 (修正版)
大学の卒業と共に、
学生の頃から手伝い程度はしていたが、これからは正式に母である
そして最初に
女神伝説、水晶の伝承、
「分かりますか?
そう言う
「でも…………どうしてですか? どうしてそんな嘘を…………」
「
「どうしてその子が…………」
「おそらくは…………イザナミとイザナギの
母の言葉に疑問を持つことは許されなかった。
それからは修行の日々。
しかし、その
災害の救助活動では全員の遺体は見付からなかった。全員がそこで見付かれば血は絶たれる。
「一人だけ…………生き残りがいるはず…………」
そう言ったのは
それからしばらくの後、
本来であれば代表となった直後に挨拶に行くべき立場。
「お前が
出迎えた
その背中に深々と頭を下げながら、
「大変失礼致しました…………先日まで葬儀が続きまして…………」
嫌な間が開いた。
そしてゆっくりと
「娘に代を譲った直後に逝きましたか…………
「
「かしこまりました…………」
それから数年、
☆
すでにこの頃、
駐車場で車を降りると、
──……何かを感じてる…………
確かに不思議な圧力を感じる。
季節は秋。枯れ葉が舞う気持ちのいい風が流れているはずなのに、
そして、
普通の母親なら当たり前の感情なのだろう。しかし
これほど名誉なことはない。
そう、思っていた。
本殿が見えた。
参道を二人で歩く。
近付く本殿の扉が開いた。
扉に見えるのは
そして、その声が参道に響いた。
「その
二人の姉ですら
自分で選んだことではない。自分で決めたことではない。
咲が本殿への階段の前で一礼をし、片足をかけた時だった。
「……ダメです…………母上…………」
決して大きな声ではない。しかも子供の声。それでも大人かと思うような口調。
「……〝
その声は本殿奥の祭壇の横から。正座する
「
「なりません…………〝
──……あれが……
影に隠れた
その
「こそこそと…………
それはもはや子供の声とは思えない響きだった。
その時、
「わたしに……勝てるの?」
「────
そこに聞こえるのは
「…………
「
そう続いたのは
その
「────
「我が娘には再教育を施します…………ここは…………何卒……………………」
そして
「……
「…………本日はご苦労様でした」
☆
大きな神社だった。
全国的にも名の知れた神社だけに、その管理された印象は強い。
到着した時はすでに暗くなっていた。空を見上げると僅かに青みがかっている時間。
風は僅か。微かに周囲の林の木々が揺れる。
その周囲の街灯が淡く足元を照らす。その街灯は鳥居の奥に向けて、石畳の左右にまっすぐ並んでいた。参道はそれほど長くない。その為、広い敷地と巨大な本殿が視界の先に見えていた。本殿の左右には別棟もある。
「三カ所目でいきなりデカイね」
「有名なだけあるね」
そして、鳥居の横にある石の柱を見ながら続けた。
「一応この漢字で〝
「こんな遅い時間になっちゃいましたけど、話聞けますかね…………」
すると腰を落として石畳に左手をついた
「…………いるね…………話聞けるどころか…………
「いきなりですか⁉︎」
そこに挟まるのは
「いいじゃない。手っ取り早くて」
そして歩き始める。
住宅地からは多少離れた山沿いとはいえ、参拝者が来るには簡単にこれるような立地。
とはいえ静かだった。
不思議と闇は神経を刺激する。
聞こえるのは微かに葉の擦れる音と三人の足音だけ。
その広い空気の中、
「あの人たちって結界好きだよね」
返すのは
「私たちが朝にコーヒー飲むようなものよ。なんとなくいつも当たり前のようにやってるでしょ。まあ……ただの気の持ち様とは言っても、目に見えない何かであることは事実よね。とは言ってもそれだけ…………何の力も無い…………」
「〝念〟みたいなものかな…………それとも超能力?」
「そこは私たちも一緒…………明確に説明出来る人なんていないよ」
「まあね…………ただ、いい加減に…………私たちに無駄なことは気が付いて欲しいね」
やがて大きく開けた敷地。
真っ直ぐな石畳とその左右を囲む砂利。
夜の神社の独特の雰囲気に包まれていた。
石畳を歩きながら口を開くのは、
「夜の神社は昼間とは違うって聞きますけど、結局それって泥棒対策でもあるんですよね」
すると、笑顔の
「
そこに
「昔の人って、色々考えるわよね。所詮は人の作った物でしかないのに…………」
そして本殿の前。
三人が足を止めると、すぐに本殿の扉が開く。
隙間から見える細い指がゆっくりと扉をスライドさせていくと、そこに現れたのは
無表情に細めた両眼からでも、相変わらずの隙の無い鋭さ。
街灯と月明かりのせいか、
その
「お待ち致しておりました…………どうぞ、中へ」
すると
数段の階段を登った三人は、反対側の扉も大きく開けた。
一気に本殿の中に月明かりが刺し込む。
奥の大きな祭壇の左右には
暗闇に飲まれた高いはずの天井は闇そのもの。
三人は板間に足を進める。
祭壇に向かって
その女性は三人に正面を向け、俯いていた。
思わず
「…………
すぐに返すのは背中を向けた
「いえ……彼女はすでにイザナギとイザナミの
そこに
「やっぱり。だから〝ヒルコ神社〟か…………でも残念、私たちが探してるのは彼女じゃない」
「……元々は
「役割?
いつの間にか、
「違うんでしょ⁉︎ だからあんなことになったんじゃない‼︎」
──……
背後で
──……抑えて…………抑えて…………
そして口を開くのは
「…………
「
「分かってたよ…………」
そう返した
「初めて会った時に分かってた…………
「いえ
「勝手な人…………関わってくれなんて頼んだ覚えはない」
「
「いい加減に目を覚ましなさいよ‼︎ ただの神話でしょ⁉︎ どこにそんな神様なんかいるの? 顔も見せにこない神様なんか
──……分かってる…………言っても無駄…………
信じたものに疑問を持ちたくないだけ。一度疑問を持つと、自分のそれまで寄り添ってきたものが崩壊するのを本能的な部分で知っているから。
自分を否定したくないだけ。
自分を守りたいだけ。
そうやって自分を作り上げてきた人間には、何物も否定することは出来ない。
それが〝宗教〟というものであることを
嫌な時間だった。
ただ、何かが張り詰める。
その時、
──……あの時……私は
「聞かせてください…………内閣府が絡んでるのは事実なんですか?」
「内閣府、ですか…………」
「今はそのようですね…………」
自分に向けられた
「今は? どういうことですか⁉︎
「内閣府は新しい組織です。たかだか二〇年ほど前に作られたもの…………もっと昔から我らは
──……ダメだ……何を言ったって…………
「…………面白いお話ですね…………」
それは空気を凍らせるかのような、
「……私は……何をすれば…………」
それに平然と応えるのは
「
「…………お断りします」
そう言って立ち上がる
「……私には…………すでに
「────何を…………」
明らかに
続く
「まだ分かりませんか? もう気が付いているかと思っていました…………」
そして、
その場の誰もが気が付いた。
それは、
「……………………
──…………
そして、立ち上がった
「────
そして
その剣先を顔の前に向けられても
むしろ、僅かに微笑んでさえいる。
その目を見ながら、
やがて突き抜けても、
そして
「〝本気で私を殺せるの…………? 最低だね…………お母さん…………〟」
そして、その姿が消える。
全員が呆然と宙を見続けていた。
その体は僅かに震えていた。
その時、外、参道からの声。
「────私の力…………忘れちゃった?」
全員が一斉にその声に振り向いた。
その歩いてくる
「〝
その
呆然とする三人の後ろで、
「
片膝を立てて短刀を握り返した
そして、小さく口を開く。
「私に、勝てるの?」
その
「例えお母さんでも許さない…………
ただ震えるだけ。
そして声を絞り出す。
「……まさか…………あの時の
「私…………二人にあんな力はないよ。まあ、
そして右手を下ろすと、
☆
ドアノブに触れてみると、冷たかった。
こんなに冷たく感じたことが今まであっただろうか。
回してみるが、もちろん鍵がかかったまま。
何度も右に左にと回すが、少しだけで何かに引っかかる。
途端に感情が溢れた。
涙が止まらない。
剥き出しのコンクリートに大粒の涙が吸い込まれていった。
叫びたくなる衝動を抑え、隣の自分の部屋に駆け込む。
鍵もかけずにリビングへと飛び込んだ。
何度も、数え切れないほど、
小さ目の座椅子に座る
これからどうやって生きていけばいいのか分からなかった。
この世の中で唯一自分を理解してくれた。
せめて、最後に何かを話したかった。
分かっていたなら、もっと何かを話せたはず。
押し寄せるのは後悔だけ。
──…………私はいつも…………守られてばかりだった…………
──……どうして? 私なんかを……………………
大きな窓から入る光は、いつしか夕陽から月明かりへ。
部屋が暗いままであることも、今の
自分の体が、まるで自分のものではないような感覚が意識を包んでいた。
──…………もっと……一緒にいたかった……………………
キッチンに歩くと、何の迷いもなく包丁を手にしていた。
何も怖くはない。
そして、
手前に引く。
感覚はあった。
しかし痛みはない。
少し寒くなった。
──…………また…………会えるかな……………………
少しずつ、体が楽になった。
もう、何も感じない。
体が軽くなる。
そして、やっと、
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十四部「憎悪の饗宴」第5話(第十四部最終話)へつづく 〜
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