第十四部「憎悪の饗宴」第3話 (修正版)
翌日。
遅い時間の雑誌社の広い事務所内で、
まもなく日付が変わろうとしていたが、もちろん常に誰かが常駐しているような職場だ。数は減ったとはいえ何箇所もデスクライトが灯され、もちろん何かあればすぐに動ける体制は整えているのが常。
もう一時間以上ソファーから腰を浮かせてはいない。テーブルにはそれこそ紙の束が山になったまま。簡単には崩せそうもない。
さらにその隣に新しい書類の山が音を立てて現れ、その影から顔を出したのは編集長の
その
「まだあるぞ……綺麗にまとめてるわけじゃないんだからよ…………」
「早くデジタル化すれば検索も楽になるって前から言ってるじゃないですか。この業界はアナログ過ぎるんですよ」
「ウチの会社が、だけどな。なんだか若い奴らが頑張ってるようだけどよ……内閣府関係の報道資料なんて人気ないから後回しなんだろ」
「今時タバコの吸える会社って時点でやっぱりアナログですよ」
「煙草までデジタルの時代だってんだろ? 世も末だぜ。俺はハンフリー・ボガートがカサブランカで煙草を吸わなくなるまで電子タバコなんていらねえよ。最近はなんでもCGだのなんだのって……いつからこの国は英語の国になったんだ」
しかし
次の煙草に表面の
「こんな時間まで付き合ってやってるんだから年寄りの愚痴ぐらい付き合えよ」
「遠慮します。ま、父もヘビースモーカーでしたけど」
「そういやそうだったな…………あいつに最後に会った時に、このジッポもらってな…………不思議なもんだよ…………ああ、そういや…………」
メモ用紙を何枚か手に、その中から目的の一枚を見付けて続ける。
「ああ、これだこれだ…………これ、お前の知り合いじゃなかったか?」
そしてそのメモを、
そのメモの上の名前に、
「ウチの記者が昨日の夜中にたまたま現場に居合わせてな。パトカーが何台か集まってたらしいんだが…………知り合いの警官がいたから少しは情報もらえたらしいが、今日になっても警察からの発表が無い……殺人事件ってとこまでは分かってるんだが……なんだか嫌な予感がしてな…………だからウチの新聞のほうでもまだ載せていないネタだ」
〝
それは昨日電話で話した相手。
背中に冷たいものが走った。
思考が止まった
「県警の人間だって所までは聞いたらしい。だとしたら発表があってもいいと思うが…………その名前……確かお前の知り合いじゃなかったかと思ってな」
「いえ…………違います…………」
そう応えた
元々若い頃は現場を走り回っていた
「
「────まさか……」
「この業界にいる人間だったら内閣府の黒い噂ぐらい聞いたことはあるもんだぜ…………」
それはもちろん
スマートフォンの電話番号を変更し、その足で市役所へ。
夜のうちにアパートの必要な荷物をまとめた。廃品業者に家電製品やベッドなどの大きな物を引き取ってもらい、そのままアパートを引き払う。お金は掛かったが、
そして少ない荷物を車に乗せたまま、夕方からこの雑誌社に
「急に携帯の番号まで変えて…………何もないと思うほうが不自然だ」
「……一応番号教えましたけど…………しばらく仕事は受けられそうもありません…………」
そう応える
「全部目を通すのは朝までかかるぞ。俺は隣の部屋で寝てるから…………何かあったらいつでも起こせ」
──……何かを信じたって…………
──…………誰もが幸せになれるわけじゃない…………
──……あなたはどうだった? …………
☆
そのまま
朝日の差し込む雑誌社のソファーで二時間ほど仮眠を取っただけで、
元々収集癖があるほうでもなく、私物は少ない。
──……残ったものはこれだけか…………
出発予定は昼過ぎ。
──……少し仮眠とらせてもらおうかな…………
いつもの駐車場で
「お疲れさま」
その柔らかい笑顔に、
そして車のドアを開けたまま、意識を失っていた。
目を覚ましたのは数時間後。
すでに夕方。
寝室の隣の部屋で
その部屋は寝室をリフォームしてフローリングにした時点で一緒にフローリングにしていた部屋。元々は荷物置き場のように使っていたが、その部屋は最近になって荷物を動かして開けたばかり。
そして
部屋がすでに薄暗くなっていたためか、開け放された
呆然と上半身を起こした
「もう大丈夫?」
その声に、
「よし、ご飯にするか」
そう言って立ち上がると、
「荷物は降ろしておいたよ」
「……あの……私…………」
返すのは
「疲れてたのね…………頑張りすぎちゃったかな…………」
「…………あ……の……………………」
なぜか、色々な感情が溢れた。
自然に、それは涙となって
それを
──……大人になって……こんなに泣いたことない…………
まるで叫ぶかのように、大声を上げて
その体を、
「何も言わなくていいよ…………分かってるから…………あなたには感謝しかない……私も
そして、二人で出した結論があった。
少し落ち着いた
「ここにおいでよ。
──……私には…………何もなかったのに…………
出発は翌日に変更された。
☆
時間はまだ朝。
三人が
画面には〝
車が動き始めると同時に、
「久しぶり…………ごめんね、みっちゃん…………しばらく依頼は受けられそうになくて…………え?」
その
「──どういうこと? そこなら分かるけど…………だって…………」
その時、状況を理解した
「いいよ。行き先を変更しよう」
「分かった。ここからなら三時間くらいはかかるよ…………うん…………分かった……」
そして通話を切る。
「えっと…………」
そう言い掛けた
「大丈夫……状況は分かった。とりあえず、そこに行かなきゃ話が進まないみたいだね。問題は無いよ。総てのことには必ず〝意味〟がある…………」
三人が指定された場所は山奥。
その地元では有名な鉱山跡地。
広大な敷地の中に、廃墟と化した建物が並ぶエリア。
そのほとんどは居住のためだったビルだ。一つの都市のような機能がそこには存在していたという。映画館や学校、病院までもがあり、もちろんここで産まれた人間も多いだろう。
その外れに、二階建ての大きな建物があった。
建物としては大きいが、高さは二階まで。頃合いのいい心霊スポットとしても有名な場所だ。
三人が到着した時はちょうどお昼時。
雑草だらけの元駐車場に
車を降りて最初に口を開いたのは、
「あの山道をこのアウディーで? ご苦労さんだねえ」
建物は外壁のコンクリートのほとんどが剥き出しだった。窓のガラスもほとんどが残っていないように見える。
その入口はドアすら外されたまま。あちこちに僅かに残された文字から、辛うじてここが図書館だったことだけが分かった。正面から少し進むと、大きな階段が見えてくる。三人は電話の指示通りに二階に上がった。
広いホール状になっていた。おそらくかつてはここに大量の本棚が並んでいたのだろう。取り残された本棚らしき残骸がいくつか見える。
そしてその中央に、
近付きながら
「みっちゃんからこんな所に呼び出しなんて珍しいじゃない。よっぽど大きな仕事?」
もちろんそれが仕事でないことは
そして
「ああ……今までで一番デカいよ…………」
「にしても、こんな場所で?」
「ここなら見付からないだろうと思ってね。ここは世間に忘れ去られた場所だよ…………バブルの名残りとも違う…………歴史に放り出されたような場所だ。悪の組織がたむろするには丁度いい所だろ?」
「相変わらず悪い人だよ。正義ヅラするような人より好きだけど」
そう言って
すると、
「
すると、
「いえ、なに…………そのことなんですけどね…………」
その言葉に食いついたのは
「何か情報でもあるんですか⁉︎ 教えてください」
〝私をさがして〟という
それを抑えるためか、
「まあ……焦らずに聞いてほしい。とりあえずは我々の話からだろうね」
そして、
☆
「毎年、他の神社に贈られているお金がありますね…………この〝御見舞い金〟というのは…………」
すると
「
「ええ」
「恐らくは特殊な世界なのでしょう……私たちの世界はこの国の歴史と表裏一体です…………総ての神社には繋がりがあるのですよ……ですから現在は神社庁というものが存在しています。税金の面でも他の企業様とは相違があるようですが…………」
「はあ……まあ、それはそうなんですが…………しかしこの金額の大きさは……このままでは使途不明金と同じです…………」
「今までの方々は〝特殊なやり方〟があるとおっしゃっていましたが…………」
その
そしてそれは、
──……裏帳簿か…………
同じ頃、高校に入ったばかりの
夜。
すでに遅い時間だった。
家では基本的に
それでもその夜の務めはすでに終わり、
「相変わらず派手ですね…………まあ構いませんが…………」
二人の姉は
「今夜はあなたに、大事な話をしなければなりません…………」
「我が
そして
水晶の伝承。
しかしそれらを聞いても、
それでも
「もちろんこのことは口外は許されません。すでにあなたの姉の
しかし、
そればかりか、自分の目を黙って見つめる
僅かながら、
そしてその口が小さく開いた。
「…………私は…………お母さんの子じゃないの?」
それに、
──…………私は……………………あなたの…………
「そうです…………あなたは…………この国の歴史を動かす運命の
「そう…………あまり興味ないけど…………勝手にやってよ」
なぜか、
何かが胸の中にこびりつく。
──…………なんだ…………このザワつきはなんだ…………
それから数ヶ月の間、
季節はすでに秋。
しかしその資料の数々が表すのは、国を裏で支えてきた
最初は
どう考えても子供じみて見えた。
そして、
「
気さくに話しかけてきた
応接室に通された
「少し確認したいことがありまして…………」
──……随分と大人びた言い回しをする子だな…………
その
「
後になってみると回りくどい言い回しをしない
──…………バレたか…………
しかし、次の
「私も調べてるんですよ。色々と…………
「調べてる…………?」
そう言って僅かに身を乗り出した
「
その笑顔にどう返していいか分からないままの
「私は
「まあ…………ええ…………」
「ですので……私は
そこには変わらない
なぜ
そして二人は
もしかしたら
しかしこうも思う。
──……色々な意味で、犯罪だけどな…………
あくまで裏の活動。決してスピード感のある動きではなかったが、少しずつ
しかし本人に自覚はない。
目覚めてもいない。
そして、ただ遠くから見守り続ける。
しかし、やがて
同級生と揉め事を起こした
「高校に入ってもこれでは…………私も暇な身ではないのですよ」
そう言いながらも、こういう時は必ず
人を惑わせる〝
教師になだめられる形で学校を後にしようとした時だった。
「
──…………マズい…………
それは、この学校で一番の能力者の力に
そしてその
「
このままでは、いつか
──……絶対に…………
やがて高校卒業間近、
そんな時、二人の姉からも神社からの
「私が身元引受人になりましょう…………
やがて
この頃の
そして
やがて、
〝
その組織もまた、世の中の裏で暗躍する組織だった。
☆
少し間を開けてから、最初に口を開いたのは
「みっちゃんに二つ目の裏の顔があったなんてね」
それに
「年寄りにも絵になる舞台があったってバチは当たらないだろ。それに、秘密があったほうが人生ってのは面白い」
「さすがに言うねえ」
そこに
「
それに
「お金の流れは人の流れですよ…………表の顔も結構役に立つものです」
「でもどうして私たちの動きまで…………」
「総て
「
そう言って
そしてその言葉に、
「
「でも…………」
──…………私は引き返さない……………………
──……もう…………
それを察した
「で? お互い〝探しもの〟は一緒ってことでいいのね?」
それに返すのは
しかもその声は力強い。
「そうだ。まずはそこからだろ。そして体制を立て直す」
その声に、
そして
「人数増えちゃったね。車乗れる?」
そして
「なに…………私と
そして
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十四部「憎悪の饗宴」第4話へつづく 〜
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