もしもあの時①
彼女と別れて一年ほど経った――ある日。
その日、僕は部活から帰った後、塾に行っていた。
その帰り道でのことだ。
「あっ」
携帯が七色に光っていた。
当時、僕が使っていた携帯――ガラホでは、開く前に色で誰からなのか、ある程度判別できるように設定をしていた。
例えば?
家族は緑色(好きな色だから)。男友達は青、女友達は赤、といった感じだ。
そして、七色が示すのは――彼女だ。
〈久しぶり! 学校楽しい?〉
「……あ……う」
突然送られてきた彼女からのメールに、僕は戸惑いが隠せなかった。久しぶりで緊張した、ということもあったが、
「……う」
どう返したらいいのか全くわからなかった、という方が的確だった。
だって。
文章の最後に、こう書いてあったのだから――。
〈彼女、できた?〉
「……」
できたことはできたのだが、もうその子とは別れているし、それを言うのがなんだか恥ずかしかったのだ。
「……」
そして――。
〈いないよ〉
――というのが熟思黙想の末の答えだった。
〈そっか〉
その後は近況報告会となった。
勉強や部活について話すだけのものだったが――楽しかった。そう言えば、別れる前にもこんな話してたっけ……。
それは、つい昨日のことのように感じた。
メールでのやりとりは11時くらいまで続いた――。
この一年間溜め込んでいた話を夜遅くまでお互い聴かせ合った。
不思議なことに睡魔は襲ってこなかった。
そして、この話題が出た――。
〈今度の土曜、小学校で授業参観あるよね? 私は行くんだけど、そっちは行くの?〉
僕たちには弟や妹がいて、そのことはお互いに知っていた。
そして僕も、その授業参観に行くつもりだった。
会うことができる!?
〈僕も行くよ〉
自分も行くことを伝えた僕は結局その日、なかなか眠れなかった。
「また、彼女に会えるんだ」
※※※
土曜日。
朝から僕はそわそわしていた。彼女に会えるかも、ってだけで。当然、授業参観中も頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
そして授業参観が終わり、保護者は先に帰宅する時間――つまりは会えるかも、と思っていた時間だ。
親を横に、校門まで歩いていく――。
そして、ついにその時がやってきた。
「あっ」
10mほど先に彼女がいた。
一年も会っていなかったが、すぐに彼女だとわかった。相変わらず綺麗だ。
よし。
まず僕から話しかけるんだ! そう思っていた。だから僕は、一歩踏み出して――
「っ……」
――声が……出なかった。それは、すれ違う時も。
おそらく。
隣に親がいることでブレーキがかかったんだと思う。気恥ずかしかった、のだろう。
そう。
結局僕は、一年前から何も成長できていなかったんだ。
情けない。本当に情けなかった。
それに。
向こうはこちらに気づいていたのだろうか、それすらもわからなかった。まったくバカな奴だよ、僕は……。
もしもあの時、声をかけることができていたなら――これが僕の後悔の一つだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます