第43話
「ロベルト」
「はっ!」
「ジュラルド」
「はーい」
ノックスに案内されたのは会場から離れた小さな古びた教会だった。
案内された先でルイーナが名を呼べば、名を呼ばれた騎士、否ではなく彼の部下兼守護者でもある二人が彼等の目の前に現れた。
その服装は騎士の鎧やマント姿ではなく、体のラインにフィットした動きやすそうな黒のボディースーツ姿だった。
その上から纏った黒の外套のフードは今は外されており、月明かりに照らされた彼等の目は一心に自身の主たる青年に向けられていた。
「折角のパーティなのに申し訳ありません。
今回の任務は攫われた子供達の保護。そしてそれを行った組織の壊滅です」
申し訳無さそうに眉尻を下げるノックスに気にしないでくれと声を掛けたルイーナは、手渡された今回の任務について書かれた書類に目を通した。
「前回のアルバ様やルーチェ様が狙われていたものとは違い、今回はその模倣犯の犯行のようです」
「この資料から分かるように手口が全く違いますからね。
余りにもお粗末すぎる」
「はい。ですが逃げるのが上手いのか、騎士団では相手が悪く捕えられない」
「だから陰の出番、と………」
「申し訳ありません……。」
「いえ、騎士が表を護ってくれるからこそ、影である我々が裏で動けるんです」
ジュラルドに貴族としての正装は装飾品が多く一人で脱ぐには時間がかかる為手伝いを受け、彼等と同じ黒のボディースーツ姿となったルイーナはロベルトから手渡された揃いの外套を身に纏った。
そして最後にルイーナの手には顔を隠すための白銀の仮面。
所謂ベネチアンマスクが手渡された。
「大丈夫だよ〜。俺達が行けばすぐに片付くさ」
「ご安心下さい。我々の力は副団長殿が一番良くお分かりでしょう?」
「勿論。ルイーナ様の強さはこの身で実感していますし、何より団長とその右腕の貴方の力は十分知っていますよ」
それにしても、随分と仲良くなられましたね?
そう不思議そうに話すノックスに、元騎士二人は薄っすらとその口を弓形に反らせ、ルイーナは自身の両肩を抱き締めフルリと体を震わせた。
「名前で呼ばないとこの二人が怖いんですよ」
「あぁ、成程………」
少なからず付き合いの長い彼はルイーナの言った意味を理解したのだろう。
何処か諦めにも似た視線をルイーナへと向け、労るようにその肩を数回優しく叩いた。
「連中の拠点らしき場所はいくつか把握しており、地図に印は付けていますが数が多く今夜で確保するのは………」
「それなら見付けてあるから、後は乗り込むだけだよー」
「……資料を渡したのは今ですが。
真逆、あの時のように情報部に忍び込みました?」
「彼処の警備は強化したほうが良いでしょうね。潜るのは簡単でしたよ」
「王都でも随一の守護魔法の使い手と難攻不落とも言われる仕掛けを簡単に攻略しないでくださいよ………」
項垂れるノックスの背を、今度はルイーナが労るように数度叩いた。
「では、既に拠点は把握しているということで」
「後は連中を捕縛。被害者の保護をすればいいだけだからねぇ。今夜で全部終わるよ」
「実力も無い、逃げ足が早いだけの連中なのですぐに片付きます」
「………そういう事らしいのでそんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
必ず子供達を連れて戻って来ますから」
「約束ですよ」
「はい」
笑みを浮かべ大丈夫だと断言するルイーナの姿に肩に入っていた力が抜けたのか、皺の寄っていた眉間が解れた。
言って、ロベルトとジュラルドに案内を受けながら、仮面を身に付け闇に紛れ消えていくルイーナの姿を、ノックスはジッと眺めその姿が完全に見えなくなってから背を向けて歩き出した。
自分に出来るのは信じて待つこと。
そして彼等が戻ってきた時に迅速に動けるように、準備をすることだ。
そう言いつけた彼は、自身の部下に連絡を取るのだった。
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薄暗い地下道をコツコツと足音を響かせながら男が歩いていた。
鍛え上げられた体躯にみあった大剣を携えた男は、所々白髪の混ざった灰色の髪を纏めている。
彼の足は迷いなく一つの扉の前に向かい、そして扉の鍵を開け部屋へと入った。
部屋に入ればすぐ目の前に鉄格子があり、その中には数人の子供の姿があった。
「様子はどうだ」
「最後まで暴れる犬と餓鬼がいたが、そいつ等以外は大人しいもんさ。
見せしめに暴れていた餓鬼を痛めつけたのが効いたみたいでね」
「………殺してはいないだろうな」
「大切な検体だ。殺したら俺が殺されちまう」
「ふん、まぁ死んでいないなら問題ないだろう」
鉄格子の奥で身を寄せ合い声もなく震える子供を一瞥し、興味はないと言った様子で監視を言い渡されていた男に向き直った。
「その抵抗していたのはどうした」
「別の部屋に転がしてる。ここから二つ隣の部屋だ」
「そうか」
その一言を残し部屋を去った彼に、話しがいのないつまらない奴だと一人呟いた男ははて?と首を傾げた。
「あんな奴、そもそもここに居たか?」
酒は飲んでいたが、酔ってはいないと思っていても案外酔いが回っているのだろうか。
「あんな奴がいれば酒を飲んでても忘れなさそうだけどなぁ?」
手に持っていた酒瓶を置き、監視を続ける。
この検体共に何かあれば自分の首が比喩表現なしに跳ぶだろう。
それだけは勘弁願いたい。
身震いし、真面目に監視を行う男は最後まで気付かなかった。
部屋を出る間際に彼が子供達を安心させるように微笑み、子供達の痛みを和らげる魔法を行使したことに。
そして、監視を言い渡され暴れていた子供を痛めつけたと言った己に冷ややかな目を向けていたことに。
「全てはルイーナ様の為に」
小さく呟かれた声は、靴音に紛れ誰にも聞かれることは無かった。
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