3-2
生徒指導館からほど近い留置館に入る無動と茅野。
「無動さん留置館に来るの初めてなんですが、指導館と何が違うんですか?」
「指導館は主に学生が対象だが、留置館は自治区で働く大人や学校を辞めた人間が対象だ」
入館手続きを済ませ、面会室に向かう二人。
「もう一つ、指導館との違いは判決次第では裁判終了後にそのまま警察に輸送し、裁判を受ける事だ」
「だったら、最初からそうすればいいじゃないですか。わざわざ、自治区で裁判なんかしなくても」
左端の口角を上げる無動。
「判決次第ではだ」
「こんな事して、謹慎で済まされたんじゃ納得できませんよ」
「ロリの感情なんか知ったことか」
看守に連れて来られる加室。
「ほら、部活の邪魔だ。座ってろ」
無動が茅野を手で追い払い、大人しく席に着く茅野。
無動をチラ見し、用意されているパイプ椅子に座る加室。
「君かぁ」
「えぇ、私が貴方の弁護人です」
「これはなんだ!!」
手錠された両手を和真に見せる加室。
「何がどうなってる?」
「身の覚えが無いと?」
無動が鞄から調書と筆箱を取り出す。
「当たり前だ」
「証明できますか?」
「教師陣に聞いてくれれば……」
鼻で笑う無動。
「証言してくれませんでしたよ」
「……!!」
「関わりたく無いそうですよ」
親指を噛み、目線を合わせない加室。
「どいつもこいつも使えない教師だ」
「貴方の無実を証明する簡単な方法があります」
前のめりになる加室。
「なんだその方法は?」
「貴方が藤堂さんとの関係が無いのを証明すれば良いんです」
「出来るのか?」
「(ニヤけ)スマホを証拠として出しましょう」
「は?」
「藤堂さんは複数回、迫られたと証言されてます」
「スマホがどう繋がるんです?」
茅野の方に向き直る無動。
「ロリの脳は考える事が出来ないのか!? たまには考えてから質問しろ」
鞄の取っ手を力いっぱい握る茅野。
「どうも、すみません!!」
「互いに連絡を取って無ければ、それは証拠になるだろうが」
「ですが、学校で……その……」
「強姦か? 阿呆らしい」
「阿呆!?……」
「あんなに人の目があるんだぞ」
「それは……まぁ……」
「周りの目を盗むならマイク放送は使えない」
「頻繁に呼び出してたら誰か覚えてたりしますもんね」
「不必要に人目を避ける行動をすればそれはそれで目立つ」
「と、なると……」
「残る連絡手段は……」
「(遮って)スマホでのやりとり!!」
「(不服そうに)だから……」
「(遮って)無理だ。断る」
「(加室の方に向き、眉をひそめ)はい?」
「断ると言ったんだ!!」
「いや、ですがねぇ……」
「学生風情が教師に逆らうな!!」
「……」
「……」
「弁護士真似事してるなら、もっと頭を使え!! この役立たず!!」
押し黙る無動。
「カッチーン。あったまきた!!」
座っていた椅子を片手で後方に投げ飛ばし、アクリ板を叩く茅野。
「何よその態度は!! 生徒を脅迫して妊娠までさせといて!!」
「知らないんだよ!! お前らに俺の弁護を任せられん。帰れ!!」
「あんたの弁護なんかこっちからお断りよ!!」
調書で茅野の頭を軽く叩く無動。
「(頭を抑え)痛」
「日を改めます」
荷物を持ち、出て行く無動に続く茅野。
「失礼します」
「スマホは渡さないからな」
「分かりました」
日が傾き、大通りでは私服の学生が大半を占め、賑わっていた。
無動は器用に人目を避けながら調書を読みながら歩き、その後ろを不満そうについて行く茅野。
「無動さん。この弁護辞めましょう?」
「辞めたいなら、勝手に辞めろ」
無動の前に出て、振り返る茅野。
「あんな教師、居ない方が良いじゃないですか!!」
「どんな人間だろうが、濡れ衣を着せられて良い人間なんていないんだ」
茅野を置いて歩き出す無動。
「本当に濡れ衣なんですか?」
「本人に身に覚えが無いといってるんだ。それを信じるしかない」
「そんなの嘘に決まってます」
「それを判断するのは、裁判員だ。嫌なら退部しろ」
「また、それですか!?」
歩みを止め、茅野の方を向く無動。
「さっきのお前の態度はなんだ?」
「あれは……」
「感情に流されて、邪魔なんだよ」
「あれは、無動さんが馬鹿にされたから……」
俯く茅野。
「代りに怒ったってか? ロリが単細胞なだけだろうが!!」
「無動さんこそ、他人を貶して楽しいですか!?」
「ロリが部から居なくなればより謳歌出来る」
「あ~そうですか。ではご勝手に」
「清々する」
一人歩き出す無動。
無動の後ろ姿に向かって、あっかんべーをして、別の道を歩く茅野。
夜が明け旭ロードにある一軒スイーツ店で手当たり次第に口に運ぶ茅野とは正反対に涼しい顔で食べ進める中野の横で青い顔で、お冷を啜る松永。
「みゃんにゃの? みゅどうひゃんのあひょたいひょ?(なんなの? 無動さんのあの態度?)」
食べ終えた中野が口の周りを拭く。
「何かあったの?」
「べひゅに!!(べつに)」
財布を開け中身を確認する松永。
「(涙目)お金、大丈夫かな?」
店の外に顔を向けた中野が通り無動が生徒に話し掛けるも無視されている所を目撃する。
「(店の外を見て)あれって……」
茅野と松永が店の外を見る。
「絵里の部活の人じゃない?」
「あの人が……」
ケーキを次から次に口に運んでいく茅野。
「ほっとけば良いの、ほっとけば」
「あれが人殺しの……」
松永の足を思いっきり踏む中野。
「イッターーー!!」
ケーキを平らげ、ドリンクを一気飲みする茅野。
松永に耳打ちする中野。
「その話はすべきでは無いわよ」
「ご、ごめん」
藤堂が人目を盗む様に個人経営の病院(産婦人科)から出てくる姿を無動が見つけ、病院まで走って行く。
手を叩き、茅野と松永の視線を自分に向ける中野。
「さぁ、次は何処に行こうかしら?」
「えー、まだお金を使わせる気なの? もうヤバいんですけど」
「次は私が持つわよ」
身を乗り出す松永。
「はいはい。なら、カラオケ。カラオケ行こうよ!」
「カラオケねぇ。絵里は何処か行きたい所ある?」
「……どこでもいい」
「なら決まり。じゃあ、お会計済ませて来るからねぇ」
大手を振ってレジに向かう松永。
「あの子、お金足りるのかしら?」
泣きべそをかきながら足早に戻って来る松永。
「え~りぃ~私だけじゃ払えないよ~」
急いで、会計を済ましに行き、店員が苦笑しつつも茅野と松永姿が頭を下げている姿にため息を付く中野。
週が明け自治区陵南高校。
二年の下駄箱で藤堂を待つ無動。
藤堂と伊藤が仲良く登校してくる。
「藤堂澪さんですね?」
無動を一瞥し、無視する藤堂。
「澪……ちゃん?」
「私、今回の事件で弁護を……」
「(遮って)唯、早く行こう?」
「う、うん……」
靴を履き、藤堂の後を追う伊藤。
「邪魔だ。人殺し」
男子生徒に背中を蹴られ、よろめく無動。
「す、すみません」
クスクスと笑う生徒達。
二年三組教室。
教室に入り藤堂をみつけて席に向かう無動。
「唯、お手洗いに行こう」
足早に女子トイレに逃げる藤堂。
「藤堂さん、少しで良いんで話しを」
無動が後を追おうとした瞬間に、座っていた生徒が、横から足を出し転ける無動。
「人殺しがうちら教室に入んなよぉ!!」
立ち上がり、汚れを払い、藤堂達が居ない事に気づく無動。
「今、出ていきます」
教室を去る無動。
クスクスと笑うクラスメイト達。
藤堂が体操着を持って移動している所に無動が話し掛けるが、走って女子更衣室に逃げ込む。
「(頭を掻き)またかぁ……」
放課後になり、また下駄箱で藤堂を待つ無動。
下校する生徒達で次第に賑わいだした下駄箱に藤堂と伊藤が談笑しつつやってきた。
「でさぁ……」
「(笑顔で)フフフ、可笑しいね」
「藤堂澪さん。今、良いですか?」
「唯、帰りにクレープ食べない?」
「えっと、私は……」
無動から目線を逸らす伊藤。
伊藤の手を掴む藤堂。
「私はもう、この学園に居られないんだから良いじゃん。行こうよ」
「う、うん」
無動を睨む藤堂。
「そういう事だから、さようなら」
駆け足で去って行く藤堂と伊藤を眺め、ため息を付く無動。
「他から攻めてみるか」
頭を掻く無動。
図書室の一角にある机で問題集に悪戦苦闘する松永と外を眺めている中野。
「絵里は部活をしているのかしら?」
「さぁ? あの感じだと無理じゃねぇ?」
「そうね」
藤堂のクラスメイト達に話しを聞こうと、聴き込むが無視される無動を見つめる中野。
「あの噂って本当なのかしら?」
「噂って?」
「ほら、一年前にあった事件の……」
「あーーー。もう知らん!!」
頭を掻き、突っ伏する松永。
目を丸くする中野。
「どうしたのよ、急に!?」
「話し掛けられてたら、無理!!」
「それもそうね。私が悪かったわ。ごめんなさい」
顔を上げる松永。
「それより、どうして今更?」
外を指差す中野。
「(無動を見つけ)な~るほど」
「私自身、興味は無かったけど……」
「絵里が心配?」
「友人だもの。心配じゃないの?」
「そりゃあねぇ」
「何か知らないの?」
目を瞑り腕を組む松永。
「部長や先輩達が話してくれなくてさぁ」
「じゃあ、何も知らないのね」
両腕を腰に当て威張る松永。
「方方に聞きまくって情報を集めましたとも」
「勉強もそれぐらい熱心だと良いのにね」
「痛い。凛のその涼しげで圧を掛けて来る笑顔が私の自尊心を傷つける」
「馬鹿言ってないで、何が分かったの?」
鞄に仕舞ってあるメモ帳を取り、数ページ捲る松永。
「え~と、何処に書いたっけ?」
「勉強にもそれぐらい取り組めば、再試なんて受けないのに」
「うるさいなぁ。聞きたくないの?」
「はいはい、悪かったわ。それで?」
「あの人が当時の生徒会長に濡れ衣を着せて、それを晴らす為に会長は自殺して、犯人の女子生徒もあの人が自治区から追い出したって聞いたな~」
「それ、ホント?」
鞄が落ちる音して後ろ振り向く二人。
慌てて、鞄を拾い上げ笑顔を取り繕う茅野。
「や、やぁ、二人とも」
「絵里!?」
「ヤバ。今のは噂だから」
後ずさりする茅野。
「わ、私、用事あるから」
逃げ出すようにその場から去る茅野。
「どうしよう!?」
「追いかけるに決まってるでしょう」
茅野は中野と松永を撒き、廊下を俯いて歩いているとプリントの束を両手で抱えて歩く瀬良にぶつかる。
「す、すみません」
廊下に散らばったプリントを集める二人。
「こちらこそって、あら……」
「瀬良さん」
「櫻子でいいわよ。何かあった?」
茅野の手が止まる。
「そ、それは……」
「私で良ければ話し、聞くわよ?」
「……一年前の事件って……」
書類を集める瀬良の手が止まる。
「……そう、知ったのね」
「はい……」
「無動くんを信じてあげて」
「……?」
「私達のようには成らないで」
瀬良が握っていたプリントにシワが入る。
「どういう意味ですか?」
「あの事件について私にはこれ以上言う資格はないわ……」
「……そうですか……」
集めた書類を瀬良に渡し、去る茅野。
茅野の後ろ姿を見つめる瀬良。
「……ごめんなさい……」
無動が部室で職員室から借りてきた加室の退勤記録・過去のテスト成績データを隈なくもチェックする。
「これも問題なし」
退勤記録を閉じ、ホワイトボードに貼ってある藤堂の写真に目をやる無動。
「あんたは何がしたいんだ?」
公園ベンチに座り、楽しそうにクレープを食べる伊藤と藤堂。
親指で下唇を擦る無動。
「あんたは何を隠してるんだ?」
無動が再度、加室の退勤記録を見ているとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
瀬良が神妙な面持ちで入室する。
「何か用か?」
「茅野さん、あの事件について……知ったみたいよ」
「あの事件?」
「去年、貴方が嫌われる原因になった事件」
鞄から書類を取り、調書や他の資料と見比べる無動。
「だから?」
調書を読み返す無動。
「引き止めないの?」
「俺はいつも一人だ。今も昔もな」
空いてる椅子に座る瀬良。
「怒っているのね。私達の事」
「過去の事だ。用が無いなら帰れ」
無動が立ち上がり、席を離れようとすると瀬良も立ち上がり、無動の正面に対峙する。
「あの子は私達とは違う。貴方を裏切ったりしない。だから……」
「人は保身に走るもんだ。お前達が行動で示したようにな」
「それが悔しかった。だからここまできた」
瀬良が制服に付けている中央委員バッヂ(階級に依って色が違う)を握る。
「そんな物が無いとお前は人を守れないのか?」
「そうじゃない。私は正義を……」
「正義なんてもんは免罪符にしたい奴の言い訳でしかないんだよ!!」
「……」
「結局、お前達も他の連中と同類なんだな」
「違う!! あの時、相談してくれれば私達は貴方と戦ったわ!!」
「自分で選んだ道を俺の所為にするなよ!!」
「そんなつもりは……」
言い訳しか出てこない自分が情けなく下唇を噛む瀬良。
開いてるドアをノックして、部室に入る家中。
「二人共、そこまでだよ」
「今度は優一かぁ」
「らしくないよ、二人共。冷静に」
「俺は冷静だ」
「ごめんなさい。伝えたい事は伝えたから帰るわ」
部室を出て行く瀬良の目には涙が溢れている事に気付く家中。
「何があったんだい?」
「何でもない」
「嘘……じゃないろうね?」
「嘘なんか言ってどうする」
「無茶だけはしないでくれよ」
部室を出て行く家中。
「嘘ねぇ……」
ソファーに寄り掛り、目を瞑る無動。
「嘘……虚偽……偽り……」
閃き、調書と過去のテスト成績データを見直す無動。
「なる程。後は動機と証拠かぁ」
法廷の弁護人席で無動が準備をしていると藤堂と伊藤が傍聴席に座ろうとすると、中央委員が二人前に現れる。
「伊藤唯さんはこちらへ」
「私ですか?」
「はい。証人として出廷して貰います」
中央委員が懐から裁判所からの出廷状を伊藤に見せると、顔色が曇り、藤堂の腕にしがみ付く。
「ご心配なく。聞かれた事に証言をして下さればそれで良いので」
「はぁ……」
「では、こちらへ」
藤堂と別れ、待合室に案内される伊藤。
開廷時間になり、裁判席のモニターが入り、全員が起立する。
「執行委員、起訴状の朗読を」
高坂が起訴状を読み上げる。
× × ×
「……自治区条例及び罰条。強制性交等。第百七十七条」
「弁護側」
立ち上がる無動。
「無罪を主張します」
無動を睨む高坂。
「おい、弁護人」
「無動です。名前、覚えて下さい」
「弁護人、根拠はあるんだろうな」
「勿論です」
加室の退勤記録と澪の過去のテスト記録を証拠として提出する無動。
「これは?」
「最初に提出したのは被告の退勤記録です」
「それがなんだ?」
「全てが定時で上がってます」
「それが問題なのですか?」
「大問題です」
調書を高々に掲げる無動。
「これには学校でも何度か強姦されたと書いてあります」
「そんな事かぁ」
「次に、藤堂さんのテスト結果の記録ですが決して悪くありません」
傍聴席から澪が立ち上がり傍聴席の最前列まで駆け寄る。
「私、そんなのが出るって知らない」
「裁判長、意義有り。弁護人の証拠は違法で提出された物です。証拠能力はありません」
「意義を認めます」
「裁判長、原告を証人として召喚します」
「なにを勝手な事を!?」
「手続きを踏んで下さい」
「この事件の鍵なんです!!」
裁判官達がモニターから数秒、消えた後に元の位置に戻る。
「良いでしょう。藤堂澪さんお願いします」
「またか!?」
「は……はい」
「ありがとうございます」
× × ×
証言台に立ち、無動を睨む藤堂。
「やっと、話せますね」
「……」
「単刀直入に聞きます。何故、中絶しなかったんですか?」
「私の勝手でしょ!!」
「その通りなんですがね……」
「もう良いでしょう!?」
「お腹の子は被告の子ですか?」
「当然よ!! 他に誰が居るのよ!!」
「貴方は産むはずだったのでは?」
「何が言いたいの?」
「中絶の費用はどうにでも出来ます。それこそ、被告に支払わせるとかね」
「だから?」
「告発する時期も遅すぎる。妊娠が発覚してから、六ヶ月らしいですね。その期間は何をしてました?」
「それは……」
「先日、伊藤さんとの下駄箱での会話を覚えてますか?」
「さぁ?」
「もう学園には居られないと言いました。何故です?」
「意義有り。裁判長……」
「(遮って)ここが大事なんです」
「意義を却下します」
「貴方は元々、ここから出て行くと決めていたのではないですか?」
「……」
「お腹の子は中田力という男性の子では無いのですか?」
目を見開く藤堂。
「裁判長。証人、伊藤唯の入廷を求めます」
「唯は関係ないでしょう!!」
「証人は聞かれた事のみ答えて下さい」
× × ×
藤堂が傍聴席に戻り、伊藤が証言台に立つ。
「貴方が伊藤唯さんですね」
「は、はい」
「加室に強姦されたのは貴方ではないですか?」
「おい弁護人、何言ってるんだ!!」
俯き、目が泳ぎ脂汗を流す加室。
「お、おい、弁護人?」
「む、無動くん!? 何を言ってるの!?」
「答えたく無ければ、答えなくて構いません。しかし、それは貴方を庇ってる友人を見捨てると言う事です」
「そ、それは……」
「友人を見捨てるか、事実を話すか、決めるのは貴方です」
「唯、話さなくて良い。そんな奴の話しに耳を傾けるな!!」
藤堂と無動を交互に見る伊藤。
「……ごめんなさい」
目を瞑り、唇を噛む和真。
「あの日……」
回想。
土砂降りの中、伊藤が力無く歩いていると藤堂と中田力が口論している。
「ふざけないでよ。私のお腹には赤ちゃんがいるのよ!!」
「俺の子だって証拠はあんのかよ!? 年上なら誰にだって股を開くクソビッチが!!」
「あんたがそんな男だなんて思わなかった」
「なら、分かれて正解だな。じゃあな」
へらへら笑いながら公園を去る力と、その場で泣き崩れる藤堂。
「澪……ちゃん?」
傘も差さずびしょ濡れで歩く伊藤が泣き崩れている藤堂に近づき、持っている傘を広げて、その場を去ろうと歩き出すが藤堂が伊藤の異変に気付き、腕を掴む。
「唯、何があったの?」
ずぶ濡れの伊藤の顔や制服をハンカチで拭く藤堂。
「……澪ちゃん……私……」
× × ×
「先生に襲われたのは……私です」
「唯……」
「貴女が襲われた理由は何です?」
「テストの解答を教える変わりに関係を求めて来ました」
「一度だけですか?」
顔を横に振る伊藤。
「写真や録画もされ、今度はそれを脅しに使われ、私以外の生徒も被害に合ってます」
「以上で、証人尋問を終わります」
「嘘だ!! こいつの言ってる事は嘘ばかりだ。俺を嵌めようとしているんだ」
取り乱す加室を取り押さえる中央委員。
無動を睨みつける加室。
「弁護人なら依頼人の利益が最優先だろうが!!」
「勘違いしないで頂きたい。依頼人は学園であり、貴方では無い!!」
「く、くそぉ……」
× × ×
「本件での被告は無罪とします。しかし、余罪が立証される間は別館での停職とする」
裁判所前で無動を待つ瀬良。
「この間の事は謝るわ」
「俺の方も言い過ぎたな。すまん」
「にしても、やってくれたわね」
「部活動をしたまでだ」
「えぇ、その通りよ。ありがとう」
「礼を言われる事はしていない」
「そんな事は無いわ。加室の余罪を洗い出してみせるわ。じゃあね」
走って裁判所を去る瀬良を見つめる無動の横を藤堂と伊藤が歩く。
「今後はどうされるんですか?」
「産むわよ。私の子だもん」
お腹を擦る藤堂。
「私も澪ちゃんの分まで勉強して、必ず澪ちゃんを楽させてあげるんだ」
両手を握り、気合いを入れる伊藤。
「そうですかぁ」
「今まで悪かったわね」
「いえ、慣れてますから」
「じゃあね。あんたも頑張りなよ」
藤堂が無動の背中を叩き、歩き出す。
伊藤も一礼して藤堂の後を追う。
裁判所を去るのを無動が見守っていると、伊藤が振り返り、頭を下げる。
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