1-10 明晰夢
「昔の部屋で良かろう。」
「ありがとうバーチャん。」
俺が大学に行くまで使っていた部屋に、バーチャんが布団を敷いてくれていた。
この部屋の様子は変わっていない。
多少だが何やら荷物が増えている気がするが、それも僅かなので気にならない。
布団に入り天井を見る。
天井板の節穴は以前と変わらず、部屋の角付近の染みまでそのままだ。懐かしい景色だ。
ここは俺が育った家であり、俺の故郷なのだ。
今の俺にとって、心が落ち着く場所なのだ。
明日は何時に起きれば良いんだ?
ふと明日のことを考えて、俺はスマホを取り出した。
そうだ充電もしたいな。
壁のコンセントに充電器を差し込み、スマホに繋ぐと充電が始まった。
さて、明日の起床時間は…
俺は全てのタイマーをOFF設定にした。
起床時間のタイマーをOFFにした。
終電時刻を知らせるタイマーもOFFにした。
これで全てから解放された気がする。
時間を気にしないで過ごすなんて、いつ以来だろうか?
目を瞑りながらそんなことを考えていたら、俺は眠りについていた。
◆
「二郎や。お爺ちゃんと散歩に行かんか?」
お爺ちゃん?
どうしてお爺ちゃんがいるんだ?
あぁ。これって夢なんだ。
自分で夢であると自覚しながら見ている夢。
『明晰夢(めいせきむ)』って奴だな。
お爺ちゃんの差し出した手を握ると暖かい感じがする。
次に見えてきたのは、幼い頃の俺とお爺ちゃんが手を繋いで田んぼの脇の農道を歩いている姿だ。
お爺ちゃんを見る視線に移れば、お爺ちゃんの横顔が見える。
再び幼い姿の俺とお爺ちゃんが散歩している姿が見える。
まるで映画を見せられているような夢だ。
「二郎や。この奥に『門』がある。」
お爺ちゃんがそう言ったのは、淡路陵の森の前だった。
俺の視線は大きな森の手前の鳥居に移る。
子供の頃から何度も見てきた森と鳥居だ。
次いで森を見ている幼い頃の俺の姿。
「『門』を守るにはこれを使う」
お爺ちゃん以外の声が聞こえると、実家の座敷の風景に切り替わった。
そこには写真の記憶しかない、母と父が見える。
俺は幼い姿のままで、座敷に並んで座る父と母を見ている。
並んで座る父と母の向かい側には、お爺ちゃんとバーチャんが座っている。
神棚から箱を持ってきて机の上に置くバーチャんの姿。
次いで座敷机に置かれた箱。
そして箱を開けて『勾玉』を取り出す、幼い俺の姿。
その幼い俺の両脇には父と母。
そしてお爺ちゃんとバーチャん。
何か変な夢だな…
そう感じた途端、夢の中なのに強い眠気が襲ってきて深く寝入ってしまった。
◆
俺は、ふと目覚めた。
カーテン越しの窓からは明かりが指している。
廊下の向こうでは足音がする。
廊下?
ああ、ここは実家なんだ。
それにしても変な夢を見た。
随分と変な夢を見た。
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