1-7 チーズバーガー50個
「二郎!やっぱり二郎じゃ。」
颯爽とショッキングピンクの軽トラからバーチャんが降りてきた。
久しぶりに会うバーチャんだ。
それなりに感動はあるのだが、バーチャんの背景となっている軽トラが気になって感動が沸き立たない。
「随分と早かったな。そんなにバーチャんに会いたかったか?」
「ま、まぁ 会いたかったよ…」
う~ん困った。
感動の再会のはずなのに…
仕事で疲れ、バーチャんからの宅配便の不在票を見たときは目が熱くなった。
電話でバーチャんの声を聞いたときには、目から汗も出そうになった。
そのぐらい心が疲れていたはずなのに、バーチャんがショッキングピンクの軽トラで登場しただけで驚きが優先されてしまうなんて…
「二郎は何にする?チーズバーガーか?小さい頃から好きだったろ?」
俺、もう30過ぎてますけど…
「ワシは、やっぱり月見バーガーじゃな。去年食べてうまかったのを覚えとる。」
それ季節限定だから、今は無いと思います。
意気揚々と店内に入るバーチャんに着いて行く。
足腰も元気そうで声も明るい。
俺の覚えているいつものバーチャんだ。
これで80歳を越えているとは信じられん。
「いらっしゃいませぇ~ご注文はお決まりですか?」
いかにも若そうで新人っぽい女性店員さん。
高校生ぐらいだろうか?
「月見バーガーあるかい?」
「すいませぇ~ん。月見バーガーは季節限定でぇ~ 今は取り扱ってないんですぅ~」
「なに?無いじゃと?前に来たときはあったんだがのぉ~」
うんうん。
月見バーガーは秋の季節商品。
GW前には売ってないよね。
前に来たのは秋だったんだろうね。
「そうは言われましてもぉ~」
若い店員のお姉さん。
バーチャんは痴呆老人じゃないからね。
そんなすがるような目を俺に向けないで。
困った顔も可愛いけど。
「無いなら、チーズじゃ!」
「はい。チーズバーガーですね。おいくつですか?」
「二郎!腹減ってるだろ。50個はいけるな?」
確かに俺は腹が減っている。
それでもチーズバーガー50個は多い。
「チーズバーガー50個ですね。」
おいおい店員の若いお姉さん。
スマイルは確かに素敵だけど。
老人のチーズバーガー50個の注文を受けて良いのか?
「お飲み物はどうされますか?」
「二郎はコーラか?」
チーズバーガー50個にコーラ。
なんか胸焼けしそう。
「コーラのサイズはどうされますか?Sサイズ、Mサイズ、Lサイズと三種類あります。」
「お姉さんはどう思う?二郎はやっぱりLサイズか?」
バーチャん。
それ、ひとつ間違うとセクハラだよ。
若い店員のお姉さん。
スマイルが少しひきつってるよ。
「ふふふ。うちの爺さんはLサイズだったんじゃ。当然、孫の二郎もLサイズじゃ!」
「チーズバーガー50個とコーラのLサイズですね。」
若い店員のお姉さん。
立ち直ったけど口許のスマイルが微妙だよ。
「店内でお召し上がりですか?」
若い店員のお姉さん。
俺に店内でチーズバーガー50個をバカ食いさせるんですか?
バーチャんがニヤリと笑う。
「さすがの二郎でもチーズバーガー50個とコーラのLサイズを店内では食べれんじゃろ。」
はいはい。
若い店員のお姉さん。
キョトンとしてレジを打つ手が止まったよ。
「桂子ばあちゃん。からかいすぎだよ。」
そう言いながら、中年男性の店員が表れた。
あれ?
この男性店員の顔。見覚えがあるぞ。
「あっ、店長!こちらのお客様が…」
「私が対応するから大丈夫。」
店長と呼ばれた男性が、バーチャんと目を合わせてニコニコしている。
この店長なる男性、誰だったか微妙に思い出せない。
確かに何処かで会ってるはずなんだが…
「二郎ちゃんも、桂子ばあちゃんを止めてよ。」
思い出した!
近所の整備工場にいた整備士のお兄ちゃんだ。
以前から実家に何度か車の整備で来ていたのを思い出した。
たしか整備士だったはずなのに、なんでマクドの店長なんてやってるんだ?
「俺が転職した時も、同じジョークでからかってたよね?」
あ、ばれた。
昔からバーチャんに連れられてマクドに来ると、バーチャんが新人の店員に必ずやるジョーク注文だとばれている。
俺が小学生の頃、バーチャんに連れられてマクドに来たときにはバーガー100個とか言って店員を困らせていた。
バーチャん、俺が大学に行ってる間も同じジョークを続けてたんだね。
「あの車が見えたから、来たのがすぐにわかったよ。」
あの軽トラは目立つからね。
「車の調子はどう?」
「わしのジョーク同様に絶好調!」
はいはい。バーチャん。
店員の若いお姉さんの困り顔を見ようね。
今の若い店員さんには通じないジョークだよ。
「ジョークはともかく、俺が紹介した車だから調子が良いのは当たり前だな。注文はどうする?本当にチーズバーガー50個にするか?」
「二郎、何にする?」
こ、こいつがあの軽トラをバーチャんに売り付けたのか!
こんな田舎町で80過ぎた老人に、ショッキングピンクの軽トラを売り付けたのは、こいつか!
「ビッグとチーズで。」
「ビッグワン、チーズワン」
かの男性が店の奥に声をあげると、そっとバーチャんに告げた。
「車の調子で気になることがあったら、親父じゃなくて俺に言ってくれな。あの車は俺が必ず直すから。」
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