第111話 飛空艇スローライフバトル
花火が打ち上がった。
昼間だからあまり映えないな。
これも虚仮威しだと知った羅刹侯爵の顔は、もう憤怒に歪んでいる。
『底の知れぬ恐るべき魔人侯だという情報ばかりあったというのに、仕掛けてくるのは虚仮威しの攻撃ばかり……!! 貴様、戦うための術を持っていないな?』
ここで羅刹侯爵からの発言だ!
鋭い!
「いかにも! 俺はスローライフをするためこの世界に降り立った。戦うためではない! スローライフはいいぞ」
『訳の分からぬ事を! だが貴様が他の魔人侯を平らげたお陰で話は早くなった。ここで貴様を倒せば、ヘルズテーブルは私と兄弟神のものだ』
理解が早いなー。
分からないものは分からないなりに、今得られる利益とかをしっかり計算しているのだ。
羅刹侯爵が立ち上がる。
彼が手にしているのは、魔人旅団の連中の弓矢とはスケールが違う。
バカでかくてキラキラ輝くクロスボウだ。
こいつを、俺目掛けてぶっ放してきた!
『ぬおーっ、危ないですぞー!! あいたたー!!』
ドラゴン装備に変身したラムザーが飛び込んできて、これを防いだ。
「痛いかー」
『今までで一番痛いまでありますな。これ、迷宮で手に入れた装備ではないですかな?』
『やはり裏切っていたか、ラムザー! 出来損ないの貴様を使ってやっていた私に反旗を翻すとは! やはりその性根も出来損ないよ!』
「なんだァ、てめぇ」
俺、キレた!
『タマル様が燃えていますぞ!』
「超怒ってる! ラムザーと仲良しだもんねえ」
うむ。
長く苦楽をともにしたラムザーを馬鹿にされて、黙っていられるわけがない。
「どうやら俺が、お前に格の違いというものを教育してやらねばならんようだな……」
『笑わせてくれるな! 戦うすべを持たない貴様が、私との格の違いだと!? どの口で吠える!』
クロスボウが何発もぶっ放されてくるのだが、その時には既に俺が石柱をアイテムボックスから取り出しているのだ。
射撃は柱に当たって跳ね返された。
「スローライフと戦いの違いを分からせてやろうと言うのだよ! スローライフは生活なのでずっと続くだろ? 戦いはずっと続けられないだろ? はいスローライフの勝ちー」
『なん……だと……!? 私を馬鹿にしているのか……!?』
『こいつ本気で言ってるわよ』
キャロルもそろそろ俺への理解度が高くなってきている。
「骨次郎! 船をぶつけてやれ! スローライフのやり方を見せてやるんだ!」
『カタカター!!』
『オー! スローライフなのにバトルよりもアクティブでーす!!』
「スローライフは大自然と常に戦ってるんだ! 敵が来たときだけ戦う連中とは違うんだよぉーッ! うおおおーっ、創造神ペンキ!!」
俺はペンキを取り出して装備する。
骨次郎の操作で、飛空艇は黒い飛空艇に激突!
そこへ目掛けて、槍を取り出した羅刹侯爵がガンガン叩きつけてくる。
こいつはラムザーが、鍋を構えて受け止める。
『やらせはしませんぞ、やらせはしませんぞー!!』
『ラムザー、そこをどけええええっ!!』
『わっはっは! 我は出来損ないなので、羅刹侯爵の命令だろうと全然聞けませんなーっ!』
この隙に、俺はペンキを振り回した。
「なあーにが黒い飛空艇だ! 喰らえ! 創造神の力を! ねりゃーっ!!」
一瞬で、黒い飛空艇が蛍光ピンクに変わる!!
『あっ!!』
『な、なんだこの色はーっ!!』
魔人旅団が動揺した。
流石に羅刹侯爵も焦ったようで、僅かに身を引く。
その間合いだと虫取り網が当たらないな。
やりづらい相手だ。
これは空から落としてやらねばなるまい。
「フランクリン、このゴーレム装備をするのだ」
『オー! ミーのエクイップメントがベリーゴージャスになりましたー! YEAHHHH!』
「そしてフランクリンを人間砲台に詰め込みます」
『ワッツ!?』
「向こうでちょっと暴れてきてくれ! シューッ!!」
『NOOOOOOOOOOOOOOO!?』
バビューンとぶっ飛んだフランクリン。
そのままあちらの甲板に突き刺さった。
すると、ゴーレム装備が暴発する。
あちこちにぶっ放される有線ミサイルだぞ。
これが飛空艇のプロペラに絡んだり、舵輪に絡みついたり。
『な、なんだ貴様はーっ!?』
『オー、ミーは堕ちたる神の仔のフランクリンでーす!』
『堕ちたる神の仔だと!? あの男はそんな代物まで飼いならしていたのか!』
『ノーノー! ミーはタマルさんのフレンドでーす!』
『友を射出するやつがあるか!』
『タマルさんはやりまーす!!』
俺への理解度が高いなフランクリン。
そんなやり取りをしている間に、蛍光ピンクの飛空艇が傾き始めた。
ゆっくりと高度を下げていくが……。
ここは、デッドランドマウンテンの上空ではないか。
レッサードラゴンたちが、迎撃のために上がってくる。
魔人旅団はわあわあと騒いでいるな。
ドラゴンの襲撃経験が無いんだろう。
「レッサードラゴン、こっちはなんか露骨に避けてくるね」
「俺たちに手出ししても益がないし、それにあっちに害を与えないって理解してくれたんだろう。大自然と分かりあったぞ」
『大自然を分からせたという感じですな!』
そうとも言う。
さて、フランクリンを回収に行くか!
「壺のおっさん、また頼むぞ! マタギのおっさん、援護射撃を頼む! あっ、撃つのはレッサーじゃない! あの飛空艇な!」
レッサードラゴンを撃っていけないと言われ、マタギのおっさんが悲しそうな顔をした。
マタギ魂が騒いでいたのだな……。
さらに、残りの骨軍団も呼び出した。
骨三郎キャノンがやる気満々で、ジャイアントクラッカーを無闇にぶっ放す。
巨大でカラフルな紙テープが、あちらの飛空艇への橋みたいに掛けられた。
こりゃあいい!
俺は壺のおっさんとともに飛翔した。
一瞬でフランクリンの傍らまで降り立つと、オリハルコンの高枝切鋏で、繰り出される魔人たちの槍をチョッキンチョッキン切る。
『槍が簡単に切断された!?』
『な、なんだあれはーっ!!』
羅刹侯爵も目を剥く。
『貴様も強力な武器を持っていたというわけか! それを寄越せ!!』
「誰がやるか! フランクリン、このまま紙テープに絡まれ! 骨軍団が巻き上げてくれる!」
『オーケーでーす! タマルさんはどうしますかー!』
「ちょっと船を舗装してから帰る!!」
天地創造モードにチェンジ!
同時に、ポルポルが傍らに召喚された。
ピッケルを連続で振り下ろし、甲板を削る!
そこにポルポルが星の砂を流し込む!
『貴様何をやって……ぬわあっ!?』
羅刹侯爵が踏み込もうとして、星の砂に足を取られてよろめく。
砂がキュッと鳴った。
ここで、俺はポルポルを抱えて壺のおっさんの後ろへ乗り込んだ。
脱出、脱出である。
その頃には、蛍光ピンクの飛空艇は、有線ミサイルとレッサードラゴンの攻撃で浮力をすっかり失い、デッドランドマウンテンに落下していくところだった。
そこが、羅刹侯爵との最終決戦的な場所になるのである。
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