第99話 スローライフ・ミーツ・穀物

 赤い湿原で釣った魚は、なんかピラニアとかナマズとか、南国にいるようなものばかりである。

 しかも閃くレシピは全てコーラ煮とかコーラ焼きだった。

 つまり、コーラ料理が食べたい時はここに来たらいいということである。


「おいしー」


『幸せだわ……』


 うちの女子二人がこの味に飽きないうちに、攻略を終えてしまいたいものである。

 そう思っていたら……。


『オー、タマルさん! 残影伯のキャッスルでーす!』


「ほうほう」


『城の近くに何か先がふわふわとした細長い植物が揺れていますな』


「先がふわふわとした細長い植物!?」


 馬車から身を乗り出して遠くを眺める。

 あれはまさか……米か麦!?


「うおおおお、急げ急げ! 目的のものがあそこにあるぞ!!」


『ワッツ!? タマルさんのモチベーションがマックスでーす!』


『城がどうでもいいあたりはいつも通りですなあ』


 攻城戦的なものは、あくまでスローライフを飾るサブイベントでしかない。

 やってもやらなくても、俺としてはかまわないのだ。

 だが穀物は違う。


 こっちはメインイベントで、今後の生活がガラリと変わるんだぞ!!


『タマル様、魔人侯は無粋ですからな。防備を固めた方が良いでしょう』


「よし、全員対衝ブロック塀をぶら下げて行こう。穀物採取だ!」


 わーっと馬車から飛び出すタマル一味。

 すると、これを狙っていたのだろう。

 城からたくさんの矢が射掛けられてくる。


 おのれ、腹立たしい良エイム。

 ブロック塀が無ければ危なかった。

 だが、ブロック塀があったので矢は跳ね返したよ!


『あいたた! いたた!』


 ディアンドル姿のキャロルは、素で攻撃が通用しないな。

 さすが彩色洋品店の破壊不能洋服。


 俺もギリースーツで行けばいいのだが……。

 問題はあの服は付属物が多く、穀物が紛れてしまう危険性があるのだ。

 危険だが、素のままで採取するのがベストだろう。


「許さんぞ残影伯! ちょっと穀物を手に入れるのも邪魔しおって! ええい、システムキッチン展開! 石柱展開! おしゃれな衣装ケース展開! ふわふわベッド展開!」


『城の前がどんどんタマル様のプライベートスペースになっていきますな』


「ついでにお邪魔な矢も防げて一石二鳥だろ」


 城から矢を射かけてくる連中は、突然現れた破壊不能オブジェクト群に攻撃を防がれ、焦ったようだ。

 矢の量が増える。

 だが破壊不能オブジェクトは破壊不能なのである。


 俺たちは悠然と穀物を採取した。


「アイテム名は……。ワイルドライス……!! 米か!! 麦じゃなかった!」


 麦と比べれば汎用性に劣るが、主食としてガッツリ食えるタイプだ。

 アイテムボックスにギリギリまで詰め込んだ。

 5束までが1スペースだから……。


 現在40個まで納められるアイテムボックス。

 虫取り網とタモ網、釣り竿などのアイテムをラムザーに手渡す。


 これで空っぽ。

 200束までを確保できる!


 大量のワイルドライスを詰め込んだ俺は、ほくほくと馬車に帰還した。

 ゴッドモジュールを使ってタマル村に戻り、ワイルドライスを猛烈な勢いで植えていく。


 本来、植生が違ったりするのでこういうのはご法度だ。

 だがここはスローライフの大地タマル村!!

 やってやれぬことは無いのだ!


『タマルさん、もしかしてそれはお米なんだなもし?』


「いかにも!! 200束植えたぞ! これで当分は大丈夫だろう。つまり、残影伯攻略の主要イベントはあらかた終えた形になる」


『魔人侯がまだなのに!?』


「チャチャーっとやってくる」


 ついでで魔人商店に寄り、面白い家具を買ってきた。

 ポップコーンマシーンである。


 馬車から飛び出した俺は、早速ポップコーンマシーンを設置した。

 スイッチを入れると、凄まじい勢いでポップコーンが生成されていく!


 器に収まりきらず、弾け飛ぶポップコーン!

 放たれるそれは、さながらポップコーンのガトリングガンである。


 熱々ポップコーンに直撃された狙撃手たちは、次々に『ウグワーッ!?』と叫びながら落下してきた。

 もちろん、ポップコーンなのでダメージはない。

 めちゃくちゃビックリするだけだ。


 矢の雨が止んだのを確認した後、俺は射手たちの回収に走った。

 背後ではキャロルが、ポップコーンをむしゃむしゃ食べている。

 あっ、髪の毛から果実が一個出てきた!


 ニコニコしながらこれを見ていたら、城の入り口が開いてカエル人間たちが飛び出してくるところだった。

 残影伯、あくまで部下に任せて自分は出て来ないつもりだな?


 俺は、ポップコーンマシーンの左右に、花火マシーンと紙吹雪マシーンを並べた。

 そして一斉掃射である。

 花火マシーンは斜め上方に向け、城の壁に当たるようにした。


 猛烈な紙吹雪とポップコーン!

 壁で炸裂して綺麗に咲く花火!


『ウグワーッ!?』


 カエル人間たちがすっかり肝をつぶしてへたり込んだ。


「よし、みんなで突っ込むぞ! 残影伯と、あと兄弟神をゲットして、この土地を俺たち専用のコーラ料理食堂に変えるのだ!」


『食堂!? やるわよーっ!!』


 キャロルが鼻息を荒くし、俺に続いた。

 本当に君は食が絡むとモチベが上がるな!


▶獲得アイテム

 ワイルドライス


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