第84話 ドクトル太郎の降臨
空を見上げる、タマル村住人一同。
俺、ラムザー、ポタル、フランクリン、ポルポル、キャロル、骨たち。
目をキラキラさせているヌキチータと、魔人商店の双子。
博物館の館長は腕組みをしており、傍らに退廃帝の妃ファン。
彩色洋品店の兄弟は楽しそうである。
大地には、草を刈り取って作ったコンサート広場。
俺たちのぶんの椅子と、一つだけ豪華な椅子が用意されている。
やがて、青空が突然にかき曇る。
夜になったのかというような暗さだ。
そして、雲にぽっかりと穴が空く。
降りてくるのは、アダムスキー型のUFOである。
『き、来たんだなもしー!!』
ヌキチータ大興奮。
彼はミーハーなのだ。
「UFOでやってくるんだなあ。っていうか異世界なのに宇宙とUFOとエーテルバスターキャノンがある辺り、SFなのでは……」
『細かいことはいいんだなもし。エーテル宇宙にその名を轟かせるドクトル太郎さんが、ついにやって来てくれたんだなもしー!!』
「今エーテル宇宙って言った?」
アダムスキー型UFOはピカピカ輝きながら、ゆっくりと広場に着地……しようとして、椅子とステージが作られているのに気付いたらしい。
またスーッと浮上して、村の隅っこまで行ってから着地した。
『気遣いができる人ですな』
「えらいねー」
ラムザーとポタルが感心している。
コンサートステージを壊さないようにしたのだろう。
だが、ちょっと離れたところに着地し過ぎである。
俺たちは慌てて、UFOまで駆けていくことになった。
ちなみに今回、ラムザーはロックスター。
ポタルはアイドル衣装を着込んでの出迎えなのだ。
俺たちの旅を素晴らしい音楽で彩ってくれたドクトル太郎。
彼を出迎えるための盛装ってわけだな。
俺? 俺はギリースーツだ。
『タマルさん、その格好はどうかと思うんだなもし』
「強そうだろ」
『ドクトル太郎さんを威嚇してどうするんだなもし』
「ええー。強そうなのはかっこいいじゃないか」
なお、ギリースーツのかっこよさについてはまだ誰からも同意を得られていない。
俺が教育していかねばならぬ。
固く決意する俺の目の前で、アダムスキー型UFOの天板がパコッと開いた。
そこからするすると階段が伸びてくる。
自動式でも何でも無い、普通の階段だ。
現れる男。
UFO内部から光が放たれ、スポットライトを搭載したドローンが飛び立った。
うおっ、UFOからスモークも吹き出してくる。
あれ、UFO内部は凄く煙たかったんじゃないのか……?
『うおおおー!』
ヌキチータが吠えた。
俺たちはビクッとした。
だがまあ、ヌキチータの興奮も分かる。
目の前に現れた男は、確かに凄いオーラを放っていたのだ。
めっちゃでかいアフロヘア。
そして犬っぽい顔。
太ったダルメシアンかな?
体格は恰幅が良く、バイオリンを携えていた。
『やあ皆さん。今日はお招きいただいてありがとう』
落ち着いた男性の声である。
『ドクトル太郎です。エーテル宇宙では、ヘルズテーブルの話題で持ちきりだよ。この星を訪れることができてとても嬉しい』
どういう話題なんだ……。
まさか俺の毎日がリアリティショーになって全宇宙に中継されてたりするのではないか。
ありそうだ。
『はああ~、光栄なんだなもし~!! ドクトル太郎さんが本当にやって来てくれるなんて~! どうぞどうぞ、何もない狭苦しい村ですがくつろいで欲しいんだなもし』
「おいこら俺が開拓した村だぞ」
ヌキチータの後頭部にチョップした。
『ウグワーッ! し、失礼したんだなもし。こちらが村を作った転生者のタマルさんなんだなもし。今までの転生者で唯一の生き残りなんだなもしー』
『君があのミスタータマルか。よろしく。ドクトル太郎です』
「おお、よろしくよろしく」
握手したら、肉球のあるモフッとした手だった。
この人、犬なのではないか……?
ドクトル太郎氏はコンサート会場に立ち、俺たちは座席についた。
『実は、この星にやってくるにあたって、一曲作ってきたんだ』
「おおーっ」
俺や仲間たちがどよめく。
それはつまり、タマル村のための歌が生まれたということではないか。
『それでは聞いて欲しい。来たら地獄、住んだら天国』
まさに俺たちの毎日を表すような題名である。
そして、ドクトル太郎の歌が流れ始めた。
これを聞く俺たちの脳裏に、これまでの思い出が走馬灯のように蘇る……。
地獄みたいな世界に転生して、ここでスローライフしてくれと言われたこと。
初めてのDIY。
ラムザーやポタルたちとの出会い。
魔人侯捕獲作戦。
料理に風呂に釣り。
海に潜って、山を登って、空を飛んで……。
思えば遠くに来たものである。
まるで俺のスローライフの、エンディングテーマを聞いているかのようだ。
きっと俺の背後には、スタッフ名がずらりと並んだクレジットが流れていることだろう。
最後に大きく、おいでよ、死にゲーの森と刻まれてエンドだ。
そういう情景まで幻視した俺は、曲が終わると立ち上がって拍手した。
スタンディングオベーションである。
ヌキチータも俺と同時に立ち上がり、拍手である。
みんな続いた。
大喝采だ。
ドクトル太郎はなんとも表情が読めない顔のまま、佇んでいた。
『では、リクエストはあるかな?』
「はいはいはいはいはい!」
『ありますぞありますぞありますぞ!』
うおーっ、俺を押しのけてポタルとラムザーが!!
その後、ドクトルラブソングとドクトルロックを奏でたドクトル太郎氏。
『では、これは記念に差し上げるよ』
音楽テープを手渡してきた。
来たら地獄、住んだら天国。
俺たちのテーマソングである。
『ウグワーッ! ドクトル太郎のコンサートを聞きました! 2000ptゲット!』
▶UGWポイント
8200pt
獲得アイテム
来たら地獄、住んだら天国
(第二部完~しかし連載は連続します)
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