第75話 釣り能力の弱点!

 俺の釣りの能力に弱点があることが判明した。

 釣り竿さえ垂らせば何でも釣れると思っていたのだが……。


 魚影が見えないとそもそも釣れないのだ。


「ぬううう」


『釣れたわ!!』


「ぬおおおお」


「釣れたー!!」


「うぐわわわ」


『よし、釣れたぞ』


 横に並んだ、キャロルとポタルと逢魔卿が次々に釣り上げているのに、俺はボウズである!

 なんたることか。

 キングバラクーダをも釣り上げた俺の力が、普通の釣り大会で通用しないのか!


『タマル様の釣り竿は見えている相手を捕まえる道具ですな。今回はじっくり待って普通に釣る方に集中すべきですぞ』


 ラムザーからのアドバイスである。


「なるほど……。俺は釣りなどこの釣り竿で一発であり、無双っぷりを見せつけてみんなにチヤホヤなどと考えていたのだが、世の中は甘くないな」


『ろくでもないこと考えてたわねこいつ』


 キャロルの発言は遠慮というものがないな!


『HAHAHAHAHA! フィッシングでフィッシュしないこともまた、オツなものでーす』


「フランクリンはそんな怪しい言葉を使ってるのに乙とか知ってるのか。仏を知ってたりするし謎だな」


 だが気分は切り替わったぞ。

 のんびり行こう、のんびり。

 釣れなくても構わんのだ。


 俺は釣り糸を垂らしながら、ぼーっとした。

 ぽかーんと口を開けて、座席の上でぼーっと。

 水面がゆらゆら揺れて、なんとも眠くなる……。


「タマルー! 引いてる! 糸引いてるよー!」


「ふぉっ? う、うおーっ!? いかんいかん!」


 慌てて釣り竿を握り直す。

 すると、ここからスイッチが入って俺だけスローライフゲーム風になるのだ。


 びちびちと跳ねる水面。


「大きい!」


『でかいですな!』


 だが、釣り針に食いついた以上、俺から逃れることはできない。

 大きな魚影が水面まで浮かんできて……。


「フィーッシュ!!」


 宙を舞う銀色の巨体。

 全長2mくらいある魚が獲れた。

 ちなみに魚は、このまま俺のアイテムボックスに吸い込まれた。


 アイコン化する。

 なになに?

 シルバーストマックとかいう魚らしい。


 でかいのだが、水面ギリギリを泳いでいると下からは水を透かして見た空の色と区別がつかなくなる。

 油断した獲物を一気に潜航してパクリとする、擬態の達人なのだ。


 キングバラクーダ無き今、このあたりの頂点捕食者かも知れん。


『タマルよ、早く取り出すのだ。ずっと仕舞ってあるのでは趣がない』


「確かにな! そーら、こいつがシルバーストマックだ! なんかレシピも生えてきそうな……」


『新しいレシピが生まれた!』


 来た来た。


▶DIYお料理レシピ

 ※シルバーストマックの塩釜焼き

 素材:シルバーストマック


 料理を始めると、塩も生えてくるんだろうな。

 こいつはバーベキューのメインディッシュにしておこう。


 みんなでシルバーストマックを囲み、どう料理しようと話し合っている。

 料理文化など無かったヘルズテーブルで、こんな話題が……!

 感動である。


 そしてみんな釣りに戻った。

 俺に負けない大物を釣るためである。


 だが、最後までシルバーストマック級の大物は釣れなかった。

 フフフ、腕前が違うのだよ……。


「タマルは大きいの一匹だけだったねー」


「うっ」


『タマル様は大物しか釣れない能力なんですかな?』


「うっうっ」


『あたしたちがちっちゃいのは釣ってたから、タマルのとこまで来なかったんじゃない?』


『フィッシング、ベリーファンでーす! ミーはすっかりフィッシングのチャームにはまってしまいましたー!』


 何気に中くらいのをバンバン釣ってたフランクリン。


『ピピー』


 ポルポルは釣り上げたアジみたいな魚とかを誇っている。

 このミニミニ機動城塞もなんだかんだ言ってなんでもできるんだよな。


 リセンボンたちも、ちょこちょこ釣っていたようだ。

 船の中ほどに作られた冷凍室には、魚が山ほど詰め込まれている。

 これだけいればバーベキューで困るまい。


「危機的状況が来たら、俺の釣り能力が目覚めるであろう」


『ピンチにならないと使えない系能力ですな? タマル様、今まで緊急事態ばかりでしたからなあ。平和だと能力の見栄えも大人しくなっていきますな』


「そうかもしれない」


 地獄みたいな世界で、無理やりスローライフをやっているので派手に見えていただけであろう。

 俺の能力とは、そもそも地味なものなのだ……。


「凹んでる。タマル、元気出しなよー。ほらほら、ぎゅってしてあげるから」


 あっ、ポタルがぎゅっとしてきた!!


「そ、そんなに俺は単純ではないぞ!! まあいい! 気を取り直して陸に戻ろう! バーベキューが俺たちを待っている!!」


『めちゃくちゃ元気になったわねこいつ』


『オー! タマルさん、フォーゲットしているプロブレムがありまーす!!』


「オー、なんだねフランクリン」


『海底神殿から、ダンジョンコアを持ってくることでーす!』


「あっ、そうだった!」


 迷宮核について、ヌキチータから頼まれていたのだった。

 いかんいかん。


「じゃあラムザー、ポタル、一緒に行くか」


『了解ですぞ!』


「私たちしかスイムスーツ無いもんねえ」


『ピピー』


 素でついてこられるポルポルも名乗りを上げた。

 ちなみにフランクリンとキャロルは。


『あまりウォーターにディープシンクすると、水が漏れてきそうでテリブルでーす』


『塩水なんか長時間浸かったらしおれそう』


 そういう理由で居残りである。

 モータースクリューを用意して……。


『な、なんだそれは』


 逢魔卿がめちゃくちゃ興味津々だ。


「これを使って水中をもりもり進める」


『わらわも使ってみたい……』


「じゃあ今度、逢魔卿のスイムスーツも作らないとな」


『約束だぞ』


 約束されてしまった。

 こうして釣りは終わり、俺たちは新たなミッションに挑むのだ!


▶DIYお料理レシピ

 シルバーストマックの塩釜焼き

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る