第4話 パーティーの主催者は

「それより、主催者の庄司史門しょうじしもんに関してちゃんと調べたか」

 青龍のにやけ顔を追い払い、雅人はこれから向かうパーティーの主催者の情報を確認することにした。招待させておいて何も知りませんなんて、そんな失礼なことは出来ない。

「ちゃんと調べましたよ。庄司史門は現在三十七歳。ユニコーンと呼ばれる新興企業でありながら頭角を現している会社の一つ、ビギンネクストという会社を経営しています。

 ちなみにユニコーン企業というのは未上場でありながら、すでに株式相場の評価額が多額のものになっているスタートアップ企業のことを指すそうですよ。日本ではまだ数例しかないそうです」

「ふうん。つまり株式を公開していないのに成功している会社ってところか。それで、ビギンネクストってのは何をやっている会社なんだ」

 一応自分でも調べたものの、多くがちんぷんかんぷんだった。この際だと、楓に解説をさせることにする。

「私もよく解らなかったんですけど、ビッグデータを解析してその分析結果を売っているらしいですよ。あとは人工知能を利用したものらしいですね」

「ふうん。ビッグデータっていうと、ツイッターとかLINEとか」

「それもありますけど、企業が持っている顧客情報ってのも扱っているみたいですね。そういう様々なデータから最適なものを選択するっていうことらしいです。こういう分析は外注すると普通は高くつくものらしいんですけど、庄司の企業では安く出来上がるんだとか」

「どこもコスト優先か」

「ですね。しかもですよ、何でもそれが画期的なシステムで、今までの半分の時間で解析が出来ると好評らしいですね。さらに頼めばその解析に使ったツールや人工知能も売ってくれるらしいですよ。こういうのを一から開発すると大変だということで、大人気らしいですね」

「へえ」

 警察とは縁遠い話だなと、運転しながら雅人は思った。昨今、何でもかんでも人工知能が絡んでくるが、警察は関係ないだろう。

「そうも言っていられないでしょう。アメリカでは犯罪の予防に人工知能を使っているんだとか。過去の犯罪発生データを基にして、いつどこで犯罪が起こりやすいか。それを算出させているらしいですよ」

「世も末だな。まあ、向こうは管轄が広いからな。万遍なく見回りをするなんて無理だ。使えるものは使うってことじゃないか」

「かもしれないですね。メジャーではないようですし」

「メジャーになって堪るか。もし人工知能が犯罪捜査に役立つっていうなら、あの氷室を捕まえるヒントでも吐き出してもらいたいものだね」

 そんな会話をしていたら、いつしか風景は山の中となっていた。新緑の緑が眩しい。庄司の別荘はこの山の中の中腹あたりにあるという。

 空気が澄んでいていいように思うが、周囲に商店はなく、さらに病院もない。万が一の事態になった時に困るなと、刑事らしい感想が浮かんでしまう。

「別荘っていうのは、とかく不便な場所にあるよな」

「そりゃそうですよ。金持ちが世間の煩わしさから逃げるためにあるんですから」

「なるほどね」

 鋭い洞察に、思わず納得してしまった。確かにこんな場所だったら、仕事も人間関係も忘れられるか。

 今回のパーティーはマジックを披露する青龍と割り込んだ刑事二人以外は、会社でも仲のいいとされる面子だという。確かに、不穏な気配ありという情報さえなければ、煩わしさを忘れるためのパーティーとなることだろう。

 しかし、成功しているとされるビギンネクストの中では、多くの不協和音が生まれているという。そのタレコミは信用できる筋からのものだったので、こうして潜り込もうと決めたのだ。青龍が呼ばれているとなれば尚更、その不協和音が増幅される可能性がある。

「ところで、パーティーの名目ってなんだ」

「誕生日ですよ。庄司が明日で三十七歳になるんです」

「あっ、そう」

 三十七歳になって誕生日パーティーか。いかにも成功者っぽいなと、雅人は偏見たっぷりの感想を述べてしまう。

 これには楓も激しく頷いて同意した。偏見を持っては駄目だと解っているが、やはり刑事とはいえ人間。情報だけだとそういう感想に行きつくのは世間の人々と同じだ。

「ともかく、俺たちはムカつく青龍に近づく奴をチェックだな」

「はい」

 仕事に集中しよう。

 そう気持ちを切り替える二人だった。




 その庄司史門の別荘には、すでに青龍がいた。庄司とにこやかに当たり障りのない挨拶を交わし、ついで、今回のパーティーでマジックを披露してくれないかと誘ってきた男の元に向かう。

「よう。一年振りか」

「そうだな。氷室さんはご活躍のようだからな」

「ふん。それはどちらでかな」

「どちらもと言っておこうかな。でも、今やマジシャンの方が忙しいんだろ」

「そうだな。こうして無事に国内外で活躍できるようになって、ほっとしているよ。下手すれば、海外の片田舎にある場末の劇場で披露して終わるところだ。マジックの世界も厳しいからね」

 青龍がそうにこやかに喋るのは、大学時代からの知り合いで、庄司の会社でアドバイザーとして働く及川航介おいかわこうすけだ。眼鏡を掛けているものの、その顔立ちが整っているのがよく解る。あらゆる面でライバルでもある男だ。

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