第59話 嫌われてる!?
「あー疲れた……」
僕達はなんとか入学試験の受付を済ませ、ロロを背中に担いで宿に向かって歩いているところだ。
アレクさんはチェックインと王女様に報告をすると言って先に向かっている。道は教えられているから問題無い。
本当疲れたよ……僕ってばトラブル多すぎない?
入学試験なら一部の人で済んだのにまさか入学試験前であんなに大量の人達の前で目立つなんて……。
「ちょっと、騒ぎが大きくなりましたね」
本当にね……あの後はフィアの素性を知ってる人もいてちょっとした騒ぎになったからね……。でもフィアは友達と会えて嬉しそうだ。
僕は大変だったけどね……。
「いいじゃない! ロイが凄いってわかってもらえて! しかもフィアも友達と会えて良かったわね!」
いやいや、レラさんや……僕は目立ちたくないんだよ……。
「…………」
今、黙っている人にはさすがに大先生は使えなかった……。当然ロロでは無い。ロロはまだ僕の背中で気絶している。
この子はユーリさん。フィアの友達で師匠とユラさんの娘さんだ。
僕達も子供だけど──更に背は小さく、胸は絶壁だ。お子様かと思うぐらい幼く見える。瞳と髪色は紅く、ツインテールで微かに顔立ちはユラさんに似ているような感じだ。
実はユラさんは三十路を超えていると師匠から聞いている。『聖天』では最年長らしい……。
それなのに母さん達と同い年ぐらいに見えるのは幼く見えるからなのだろう。
一説によると師匠は娘さんであるユーリさんに魔法を放ちまくるというコミュニケーション方法を採用しているそうだが──
会った早々に「スフィア様に近付くなッ!」とユラさん級の大量の魔法が僕に放たれたれるとは思いもしなかったよ!
流石にフィアの知り合いを果てさせる事はしなかったけど魔力が尽きるまでずっと被害が出ないように【
その結果、僕の『無限収納』に魔法のストックは増え、今は疲労困憊でフィアの隣を無言で歩いている。
「えっと、今更だけど僕はロイドっていうんだ。よろしくね?」
とりあえず、僕は自己紹介をしてみる。
「……馴れ馴れしい……絶対にスフィア様に近付けさせない……」
相当嫌われているようだ……この人は人見知りとかなのだろうか?
自己紹介ぐらいしてほしいところなんだけど……。
「私はレラよ! よろしくね!」
間髪入れずにレラが自己紹介をすると──
「……よろしく。ユーリよ……」
普通に自己紹介をしていた。
ええ!?
つまり、これって僕だけが嫌われてるパターン!?
何もしてないんだけど!?
いや、姉さんのように男嫌いなのかもしれない。
「ロイ君にもちゃんと挨拶して下さい!」
フィアがこの光景を見て
雰囲気的に逆効果のように思う……。
「……スフィア様を
グハッ……。
下郎と来たか……ここまで人に嫌われるのは初めてだ。
これもツンデレというやつか?!
──!?
ここで僕は一つの可能性に気付く。
それは──
『ツンデレは胸の小さい人に多いのか!?』
という説に!
今、レラとユーリさんに睨まれた気がするけど、断じて僕は胸など見ていないし、口にも出していない。
おそらく勘が鋭い。
おっと、今はそんな事を考えている場合じゃない。
フィアの友達だし、僕も出来れば仲良くなりたいとは思っている。
ここは【好感度】先生に頼りたい所だけど……こういうのはなるべく自分の力でなんとかしたい。
とりあえず──もっとコミュニケーションをとらねば……。
「ユーリさん、魔力切れでしょ? 魔力補充する? 実は僕って『魔力譲渡』が使えるんだぁ」
「ポーション飲むからいらない。それに私は他の人より回復早いし」
撃沈した件について!
「ユーリ、受けたらどうすですか? ロイ君の『魔力譲渡』は貴女より早いし、とても良いですよ? こんな事なら私も混ざって魔力使い果たせば良かったです……」
『貴女より早い』と『とても良い』というフィアの言葉にムッ、とするユーリさん。
フィアもやってほしかったようで物騒な事を言っている。
最近、フィアとの模擬戦では攻撃魔法の威力が上がっているから防ぐよりも避ける事の方が多い。防ぐの失敗したら体を貫通するからね……。
そういえば、フィアが以前に『魔力譲渡』してもらったと言っていたけど。ユーリさんなんだなとこの時に悟った。
「……じゃあやってみて……貴方の魔力でも少しぐらい足しになるでしょ……」
しぶしぶだけど、フィアのお陰でチャンスを得る事が出来た。
ただ凄い上から目線だけど!
「ハグしていいかな?」
「あ゛?」
この射殺す事が出来そうな目はまるでユラさんみたいだ……。
確かに言葉だけ聞けば非常によろしくないのはわかっている。だけど、『魔力譲渡』使った事があるなら知ってるでしょ!?
接触面積狭かったら効果が少ない事ぐらいさ!
「……手を借りていいかな?」
僕はスッ、と差し出された手を触れる。
仕方ないか……。
大先生はハグであればレベル1でもけっこう早く回復するんだけど、手だけだとそれなりに時間がかかるからなぁ。
レベル3ぐらいでいこう。これなら果てないはず……たぶん。
アレクさんもそろそろ戻ってくるだろうしね……。
「ふんっ、さっさとしなさい。この大賢者の再来と言われる私の魔力量は既に聖女様であるシャーリー様より多いのよ?」
うわ〜凄い高飛車な感じだな。さすがの僕もムカッ、としたぞ?!
ちっさいから子供が背伸びして言ってるように見えるけど。
きっと絶壁なのは気が強いのと比例しているのかもしれないなッ!
うん、やっぱりさっさと済まそう!
きっと関係は時間が解決してくれるさッ!
「いきますね〜っと!」
僕は魔力を込めて『魔力譲渡』と大先生を使用する──
「──っ!? へ? んん、ん──」
必死に耐えるユーリさん。
初めてなのに声を抑えるだけでも大したものだと思う。
確かにシャーリーさんよりも魔力量は多いかな?
大賢者の再来と言われるだけあるのだろう。
──やっと全回復したようだ。
「──さぁ、終わりましたよ? 大丈夫ですか?」
その場にペタンと座るユーリさん。少し涙目のような気がする。
「……やる……わね……。まさか全回復してるなんて……自信なくすわ……」
大先生の事はスルーするようだ。ならば僕もスルーしよう。
「ユーリさんも──「ユーリで良いわ」──ユーリも凄い魔力量だよ! さすが大賢者の再来だね!」
「……嫌味にしか聞こえない……」
「まぁ、僕には魔法の才能が無いから宝の持ち腐れだよ。こうやって魔力を回復させるぐらいしか出来ないしね!」
本当、この有り余った魔力の使い道教えてよ! 空気中に魔素がある限り尽きないんですけど!?
「この借りは……学園で……ぶっ飛ばして返してあげる……」
とりあえず、射殺すような目付きは変わらないけど名前を呼び捨てにしても許してくれたから少しは気を許してくれたのかな?
ただ──最後の台詞が怖いけど……。
そもそも、借りを返すならぶっ飛ばす以外にしてほしい。
そして、周りの視線も痛いな……アレクさんまだ来ないし、早く宿に入ろう。
とても疲れた──
でも、ユーリとの模擬戦? で新しい戦術が試せたのはありがたかったかな?
◆
ロイド──
お父さんの弟子であり──
そして『双聖壁』の1人息子。
スフィア様を聖女候補から降ろさせた元凶──
許さない──私の目標を奪ったこいつは絶対に痛めつけてスフィア様の目の前から消す──
そう思って、入学試験受付場所で私は騒ぎに便乗して攻撃した。
私はお母さんと同じく『並列魔法』『直列魔法』の特殊スキル持ち。当然ながら基本属性である土、火、風、水属性以外にも光、闇などの特殊スキル魔法なども色々と習得している。
更にユニークスキル『魔導の極み』もある。
これらは賢者になる為には必須のスキル。
『並列魔法』は同時に複数の魔法を展開出来るし、『直列魔法』は同じ魔法を重ねがけする事によって威力を上げられる。
『魔導の極み』なんて魔力量の大幅な上昇及び、魔力回復速度上昇、魔力操作速度の向上がある。
実戦歴は少ないけど、魔法の扱い方という点では既にお母さんは超えていると思っている。
だけど、いくら魔法を撃っても──どの方向から追い詰めても盾が急に出現しかき消され無力化されてしまった。
隙を見つけて撃っても簡単に逸らされるし、避けられる。
手も足も出なかった。
まるでお父さんを相手にしているかのような錯覚をしてしまった。
しかも何なのよッ! 出現させた盾の上に乗ってちょこまか動くしッ!
そして、結果は完敗だったわ……今年の冒険者育成学園はシャーリー様曰く──
粒揃いばかりだと聞いていた。
確かにスフィア様の周りは大人顔負けの実力を持っている。実際に戦えば私はレラ、ロロの2人にも負ける可能性がある。負けてられない──
そう思いながらスフィア様の泊まる宿に向かっている途中、更にあり得ない事が起こる──
魔力切れを起こしていた私に『魔力譲渡』を行うとロイドは言う。
私自身は『魔導の極み』で常人より早いスピードで魔力が回復する。別に回復なんて必要ない。
スフィア様はおそらくロイドに恋をしている。だからこそ大きく持ち上げている。盾使いが私の魔力量は超える事は無い。
こいつの魔力量は大した事がないと知らしめてやるッ!
『スフィア様の前で恥をかかせてやろう』
──そう思った。
ハグをさせろと言ってきた事の意味はわかっている。接触面積が広くないと回復が遅いぐらいは知っている。恥をかかせたい私は当然断った。
だけど短時間な上に手を繋いだだけで私の魔力を全回復させるなんてッ!
魔力量は既にシャーリー様を超えてるのよ!?
認めないわッ! こんな事絶対に認めないッ!
しかもなんなのよ!?
凄く気持ちが良いじゃないのよ!?
あまりの気持ち良さに漏れそうだったわよ!
というか濡れてるわよ!?
どうしてくれるのよ!?
あぁぁぁぁっ、絶対に許さないんだからッ!
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