第43話 僕も諦めるな!?

 危なかった……。


 一歩間違えたら夢の時みたいになる所だった……。


 でも、なんとか回避出来た。ここからは夢では見ていない。なるようになるしかない。


 この状況を打破するには母さんの回復が必須だろうと思って『魔力譲渡』を使った。その時、お仕置きの意味を込めて大先生レベル5バージョンにしたんだが──


 ──母さんの果てる時の声でぞわぞわってなったよ……リリアさんの時は何も思わなかったのにな……やっぱり母さんに欲情してる自分が怖い。早く恋人を作ってリア充にならなければ……。



 とりあえず、あの後直ぐに母さんはドラゴンに向けて横一文字に剣を振り切り──【神聖刃斬《セイクリッドノヴァ》】を放った。


 飛ぶ斬撃特大バージョンだ。


 お陰でブレスも止んだ。


 師匠も疲労が凄まじいのだろう。あまり顔色が良くないけど、いつものように話しかけてくる。


「こりゃー買い替えだな。よっと、雑魚ならこれで十分だろ。何故か隊長が全盛期以上の動きをしているが、この際その事は置いておく。ロイに何か策があるんだな? もう逃がせられないかもしれんから腹くくれよ?」


 師匠の盾は使い物にならないぐらいぼろぼろになり、スペアの盾を装備している。


「当然皆と一緒に戦いますから逃げませんよ! 策はあります──師匠達にはこの場に残った魔物を1匹残らず殲滅して下さい」


「……? お前が囮にでもなるのか? そりゃー無理だろ。例え『挑発』を使っても目に見える範囲でしか効果はないぞ?」


「だから──ちゃんと策はありますから安心して下さい! それじゃあ論より証拠ですッ! いきます──『挑発』──」


 僕は少し離れた場所まで移動し──


『挑発』と『感度操作』の【】を1にして使用する──


 10であれだけの微精霊がやってくるぐらいだ。


 1なら間違いなく『挑発』の効果を底上げしてくれるはずだ。


 師匠は「挑発じゃねーかよ」と言わんばかりの表情だったけど、事態の急変に気付き顔色を変える。



 うぐっ……『危険察知』先生の警鐘がヤバすぎる。


 周りを見渡すと──魔物は動きを止めてこちらをギロリと睨みつけていた。

 それだけじゃない。兵士や冒険者も睨みつけている。


 こぇよ……何で兵士さん達も親の仇を見るような顔してるんですかね……師匠達は普通なのに……。


 とりあえず準備は万端──


「──そっち頼みましたねッ! じゃ──」


 そして、僕は一気に駆け出す──


 師匠やシャーリーさんが待つように言ってたけど無視だ! 疲弊してるから追いかけてこれないだろうしね!


 それに、この戦闘は最悪討伐しなくても問題ないはず。近くの街と言ってもそんなに近いわけじゃない。直ぐに危機が訪れるわけではない。


 今は皆やこの街を守る方が先決だ。


 それになんとかする為のもちゃんとある!



 僕は後ろをチラリと見る。


 魔物は雄叫びを上げながら、僕を必死に追いかけてきている。


 これ半分以上こっちに来てね!?


 予想以上の効果だよ!


 これトレインって奴だよ!


 でも、こんなの誰にもなすり付けられないよ!


 せめての救いは大先生で疲れないから走り続けられている事ぐらいだよ!


 もっと離れなければ──



 ────


 ────────


 ────────────



 けっこう走ったけど、まだもう少し離れた方がいいかな……──いや、この辺りにしよう。


『気配察知』にこの先──がたくさんある。街はまだ遠いはずなのにな……。



「まぁ、でもここまで来たら大丈夫かな? 【盾具現化シールドリアリゼイション】──」


 僕は魔物がように盾で囲んでいく──


 これで大丈夫っと。


 ってあんまり大丈夫じゃないな……頭ががんがんする……。


 アイギスってけっこう負担がかかっているんだろうか……【痛覚】を鈍くしているのにここまで痛いとは……。


 まぁ、新しい必殺技出すぐらいは大丈夫かな?


「それじゃー、新必殺技のお披露目だいっ! 誰もいないけどね!」


 僕は強度は無視して出せるだけの盾を具現化させていく──


 うぅ〜……頭めっちゃ痛いなッ!



 後は落として重力の力で殺傷力が上がった状態でぶつけるだけだッ!


 これなら広範囲に攻撃出来るし、盾を落とすだけの簡単なお仕事です!


 これぞまさしく──盾の雨ッ!


 着想はシャーリーさんの空から降らせていた光魔法だ。


 しかし、今も空で待機している盾達……。


 落ちないよ……空中に固定されてるよ……。


 やっぱり操作しないとダメなのかな?


 アイギスで出した盾は基本的に全部動かす事が出来る。それはつまり──盾と僕との間に魔力の繋がりがあるという事になる。


 精密に操作出来るのは5枚までだけど──


 盾を下に引っ張るだけなら行けるんじゃなかろうか?


 一部を引き下げるように動かしてみるといけた。


 良しッ!



「──行くぞッ! ──【盾の雨シールドレイン】ッ!」


 技名はそんまんまだッ!


 その名の通り、盾を勢いをつけて凄まじいスピードで落ちていく──


 地面に衝突するとヅガガガガガガガガガガガガガガガッと、けたたましい音が響き渡ると同時に僕は激しい頭痛と全身の痛みにより倒れる。


 なんとか首を起こして見てみると【盾の雨シールドレイン】が魔物に当たるとスライスされていた。


 成功──だ……。


 ただ、頭と体が痛すぎる。耐性や【痛覚】を飛び越えてダメージが来ている。


 目も見え辛い……。


 微かに見える魔力盾に自分の姿が映ると目から出血していた。


 もし……かして……脳のキャパオーバー?


 そうだよな……子供だしな……『感度操作』も完全に操作しきれないぐらいだしな……。


 ヤバい……痛くて上手く魔力も制御出来なくなってきた──


 魔力盾は霧散していく。


 このまま休みたい──


 だけど、『気配察知』にはまだ反応がある。


 起きるんだ……。


 ここで寝たら間違いなく──死ぬ。


 例え武器が無くても立てッ!


 母さんに啖呵を切ったんだ!



 僕は気合いで起き上がる──



「──ははっ……」


 目の前に一つ目の巨人──サイクロプスが何匹もズタズタになった状態でこっちにゆっくり歩いていた。


 この最悪な状況を回避出来ない現状に乾いた笑いが出てしまう。


 だけど、また皆に会う為に──


 足掻こう──僕の全てを使い切るッ!



「──【盾の舞シールドダンス】ッ! くそっ……──【盾刃転シールドリボリューション】ッ!」


 具現化した盾は1枚だけだった。盾を回転して【盾刃転シールドリボリューション】に切り替える──


 これが今の僕の精一杯か……操作しているからか頭がガンガンする。でも、さっきの体を襲った痛みは少し引いてきている……所々皮膚が裂けて血が噴き出しているから違う痛みはあるけど……。


 ──ここで【性感度】大先生のレベル3だッ!


 ──良しッ! これなら痛みを誤魔化せれる!


 僕はまだ戦えるッ!


「おらぁぁぁぁっ、かかってこいッ!」


 必ず生き残るッ!


 そして帰ってまた皆を守るんだッ!



 迫るサイクロプスの拳に向かって【盾刃転シールドリボリューション】を放つと──



 そこから僕の意識は途絶えた──

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